企業競争力を高める黒子、「ファイナンス」部門の魅力と底力

2018/12/6
前線に立って事業の成長をリードするエグゼクティブがCEOやCOOなら、CFOはファイナンスの力を駆使して株式価値向上を果たすプロフェッショナルといった位置付けだろう。企業規模が大きくなるにつれて、CFOが手がける領域は広がり、その重要度は増す。

理想的なCFOの姿とは──。今回、再生可能エネルギー事業を展開するレノバのCFOを務めるプロピッカー森暁彦(Aki Mori)氏、そしてアクセンチュアの金融機関向けビジネスにおいてファイナンスとリスク管理コンサルティングの専門チームをリードする金融サービス本部の山本晋五氏の対談を実施。上場ベンチャー企業でCFOを務める立場、そしてCFOを中心に金融機関の会計やリスク管理を支援する立場の2人に語り合ってもらった。

CFOという仕事

──森さんのキャリアを見ると金融機関が長かった中、CFOとしてベンチャー企業のレノバに参画しました。どんな思いからの転身だったのか、お聞かせください。
森 私は学生時代に会計・ファイナンスを学び、ビジネスマンになってから一貫して財務の世界にいます。
以前はグローバル金融機関に勤め、今は再生エネルギー会社のファイナンスの責任者です。昔から成長産業に身を置くのが好きで、そこで自分の知識と経験を活かしていきたいと思っていました。3年前に日本で急速に成長する再生可能エネルギー業界に出会い、レノバに転身しました。
──CFOの醍醐味は何ですか。
企業の組織を大きく2つに分けると、商品やサービスを開発・販売しレベニューを稼ぐフロント部門と、企業活動に必要なヒト・モノ・カネの経営資源を調達するコーポレート部門があります。
コーポレート部門の重要な機能の一つに、ファイナンスがあります。ファイナンスの役割は、投資家から資金を調達して、そしてその資金提供者が納得する形で運用するというものです。
言い換えると、資金をどのように集めてどう投資するのか、最適資本構成の構築とポートフォリオマネジメントがファイナンスの両輪です。
ファイナンスの他の役割には、事業にどんなリスクがあるのかを定性的・定量的に把握し、リスクを減らしていく。あるいはリスクを受け入れると決めるのなら、そのリスクに対応した資本構成はどのようなものか考える。こんなものもあります。
これらのファイナンス業務を統括する責任者が、CFOです。
再生可能エネルギーの発電事業というものは、まず発電所を作るために調査を行い、資金を集めて発電所を建設し、そして発電所を運営することで時間をかけてリターンを得る、このようなものです。
再生可能エネルギーは新しい産業で、今、急速に伸びています。なのに、ファイナンス人材は全然足りていなくて、チャンスがたくさんある。こういった業界で働くことは、とてもエキサイティングです。

求められる変化即応力

──山本さんはコンサルタントとして、外部からファイナンスやリスク管理部門を支援しています。
規制緩和やテクノロジーによるビジネス変革が激しい金融業界が相手ですが、金融機関のファイナンス部門は今、どのような状況にありますか。
山本 金融は規制産業ですから、規制にどう対応するかという業務がほかの業界よりも多いです。会計、金融、法律、財務のプロであり、職人という言葉がふさわしい人材が多数いらっしゃいます。
ただ、「規制」には、規制の「強化」だけでなく「緩和」も含んでいて、最近はこの規制緩和も進んでいて自由度も増しています。規制対応に追われるだけでなく、規制緩和を生かした攻めのコーポレート部門に変わるチャンスでもあり、外部パートナーとしての私たちへの期待も高まっていると感じています。
数年前、AIでなくなると予想される仕事に、多くの士業が挙がっていました。なかでも上位にランクされたのが会計士です。しかし、AIの活用が本格化してきた現在、会計や財務の仕事はなくなったかというとそうではありません。
デジタル化が進むと、今の仕事をする必要がなくなる部分もあるでしょう。財務に関するこれまでの大事な仕事の1つに、「正確な文書を作る」ことがあります。
それはAIなどの活用でぐっとボリュームは減るでしょう。そうなると、コーポレート部門に期待される役割が変わってきます。時代のスピードが格段に速くなり、1年に1度正確な数字を出すのではなく、日々の変化に即応する力が求められるのです。
森 確かにスピードや以前に比べて速さが求められます。再生可能エネルギーの現場でも、デジタルを活用してスピード化や効率化が図られています。テクノロジーが進化する中で、事業と経営管理のデジタリゼーションはとても重要な経営課題です。

「憧れの財務部門」にしたい

──CFOやコーポレート部門の役割も相当変化しそうですね。
森 役割は、ビジネスのステージや規模によっても違います。スタートアップでは資金調達に関して日々の活動があるわけではないので、CEOとセンスのいい管理部長が1人いればCFOなしで回ります。
ただ、事業が大きく複雑になり、ステージが変わり、バランスシートも大きくなってくるとCEOが1人ですべてを見るのは不可能になってきます。すると、CEOを支えるマネジメントチームの機能分化が必要です。CFOは、CEOの良きビジネスパートナーにならないといけません。
──理想的な経営体制、その中での優秀なCFO像をどのように見ていますか。
森 優良な企業では、CFOに限らず各CXOが上手く連携しています。それぞれ自分の専門領域があり、責任の範囲もあります。ただ、お互いがどういう仕事をしていて、どういう課題があるのか常に理解をしています。だから、ヘルプが必要な時にはすぐに協調して解決にあたれます。
収益の機会がある時や、組織的な課題やリスクがある時には、相互にアンテナがピーンと反応して対応する組織が望ましいですね。
山本 確かにそうですね。それぞれの専門家が自分の殻の中だけにいれば害になる。企業としても、1社だけで活動していたのでは時代に取り残される状況です。コーポレート部門は殻を破り、前線でお客さまと向き合っている部門ともっと連携をとって協働しないといけない存在になっていくと思います。
テクノロジーの力で業務の効率化が進めば、こうした新たな価値を創出するプロジェクトも推進できます。私たちは、こうしたデジタルによる業務の効率化、そして新たな価値創出を双方で支援しています。
森 CFOの役割として興味深いと思っていたのですが、国内にはCFOとCSO(Chief Strategy Officer)を兼務している大手金融機関があります。
山本 一般的にCSOは新規事業を企画する仕事をしていますが、新しく飛躍的に成長する種を作って生まれ変わるまでを担う会社もあります。
アクセンチュアは最近、「The CFO Reimagined: From Driving Value to Building the Digital Enterprise」という調査リポートをグローバルで発表しました。大多数のCFOは、コーポレート部門の役割を変化させてフロント部門、経営者とのコラボレーションを進めることが大事だと認識しています。
ファイナンスの仕事は、ビジネス事象をどう客観視するか、数字のどこを見ればいいのかという勘所、つまりどうすれば儲けられるかをデータを駆使して見分ける能力が求められます。組織の枠を超えて横のつながりを持ち、経営管理の視点で横断的に活躍できる力も必要になるでしょう。
そして、私はファイナンス部門、CFOを憧れの存在にしたいのです。他部門のように、例えば「いずれはCMOに」と言われるような存在には残念ながら見られにくい部門。尊敬されているものの目標とはされてない部門のような気がするので、重要性や可能性を広げることで認識を変えていきたいです。
 CFOは既にカッコイイ職種の一つになっていると私は思いますけれども(笑)。

コーポレート部門を通して経営全体を知る

──CFO、コーポレート部門がビジネスの前線と緊密になっている事例はありますか。
山本 海外では口座を持っていないお客様に、無担保ローンの申し込みから振り込みまで、5分で完了させるサービスを検討していると聞きました。
これは前線とコーポレート部門が、フレキシブルに連動しないと実現できません。森さんのお話にあった「アンテナ」を、常に張り合っていないとならないのです。国内の金融機関だと早くても数日かかるものなので、このような海外の例に比べると感覚がまだ遅れていると思いますね。
ただ、前線から火がついてコーポレート部門へと影響しているのは確かで、アクセンチュアとしては金融機関が変化を求める非常にありがたいビジネス環境を迎えています。
森 今の金融機関に訪れている変化は、特にテック系のサービスから波が来ていることもあり、お話を聞いていて、アクセンチュアのような専門家の力がまさに求められていると感じました。
再生可能エネルギー事業開発の現場でも、専門家の力をよく借りています。例えば風力発電所を開発することになったら、法律、会計・税務、環境アセスメントなどの各分野で外部専門家の力を借ります。ステークホルダーに対して示さなければいけないことも多く、客観的な立場で見てもらうのも重要なんです。
山本:コーポレート部門には、バードアイが求められていると思います。大所高所の視点で変化に気づかないと、目をどう向けるべきかわからないですから。
ルーチン化されていることや、毎日向き合っていることからは気づきにくいものです。私たちの大きな価値は、客観的に見て「必要ですか」と問いかけることができることなのです。
そうすると、「こういう理由で必要です」という反応があって議論を巻き起こせる。毎月10日に出しているリポートが、実は毎日あったほうが役立つものだったとか、気づきを引き出すことができるのです。
金融機関はこれまで均一的な存在でした。そして今は、社会が多様な価値を求めている。まだ生え抜き中心の金融機関に対して、いろんな業界や世界のベストプラクティスを持っていて、テクノロジーも交えて変えていける私たちへの期待は、とてつもなく大きいとひしひしと感じています。
コンサルタントは継続的に決まった仕事をやるより、変化を実現する仕事。まったく反対の人種が交わることで起きる化学変化を期待されています。
コーポレート部門は企業全体を俯瞰できる役割を持っていて、経営判断のあり方も含めて広さと深さの両方が必要とされています。コンサルタントとして、そこに入れるのが楽しいし、どのように支援できるのか常に考えを巡らせています。
森 私はファイナンスという専門性を生かしながらリーダーの一人としてビジネスに関わることが、何よりやりがいを感じます。企業がもっともっと社会に価値を提供するためにも、ファイナンスの力を活用すべきだと思っています。
ですが、日本では、ファイナンス人材がまだ事業サイドに十分行き渡っていません。この意味で、ファイナンスチームを支えるコンサルタントが多くいる山本さんのチームには期待しています。ずっとCFOを間近で見ているから、山本さんのチームメンバーから将来のCFO候補が生まれてくるのかもしれませんね。
山本 立場上は複雑ですけど、すごく嬉しいことです。これからもその経験を十分積める場所でありたいと、努力するのみです。おかげさまで多くの方から私たちの専門性を認めてもらい、そして多くの金融機関の変革プロジェクトをお手伝いしています。
もっともっと広く大きな価値を提供するために、メンバーを増強しています。
地味かもしれませんが(笑)、ファイナンスやリスク管理の専門力を身につけられ、しかもお客様の経営の中枢を担う部門、担当者の方々とダイナミックな変革をともに起こせる仕事はそうはないと思っています。私がずっとアクセンチュアの金融サービスから抜けられない(笑)のは、こうした魅力のせいかもしれません。
(取材・編集:木村剛士、構成:加藤学宏、撮影:北山宏一、デザイン:國弘朋佳)