患者記録取引とプライバシーの問題

米Alphabet傘下で人口知能(AI)の研究開発に取り組むDeepMindは、その一部がGoogleに統合される。
DeepMindは11月13日、病院患者が病状悪化の危険にあることを医療提供者に警告するモバイルアプリを開発した部門が、Googleの新部門「Google Health」に加わることを発表した。新部門は、Geisinger Health Systemsの前CEOデビット・ファインバーグが率いる。
Googleは2014年、2012年創業のDeepMindを4億ポンド(約580億円)で買収した。DeepMindは2015年、ヘルスケア研究を開始し、最終的にヘルスケアに特化した部門を設立した。
DeepMind Health初の製品は、物議を醸すものとなった。「Streams」と呼ばれるそのモバイルアプリは当初、医者が急性腎障害を発症するリスクのある患者を特定するのを手助けするものだった。
だが2017年7月、英国のデータプライバシー監視機関は、プロジェクトの提携先でロンドンにあるロイヤルフリー病院が、DeepMindに対して160万人の患者記録を不正に渡していたと明らかにした。
ロイヤルフリー病院はその事実を認めたが、DeepMindがアプリの安全性をテストするために記録を渡す必要があったと弁明した。
DeepMindは、ロイヤルフリー病院のほか、3つのイギリスのNHS(国民保健サービス)病院トラストと契約を結び、Streamsを配備しようとしていた。また、複数のNHS病院とともに、眼疾患を診断するアルゴリズムや医療画像から頭部と首の癌を発見できるアルゴリズムを研究していた。
ほかにも、米国の退役軍人省と協力し、深刻な腎臓の負傷や他の状況から突然悪化するリスクのある患者を予測するアルゴリズムの開発に取り組んでいた。

基礎研究は引き続きDeepMindで

DeepMindの声明によると、臨床評価アルゴリズム開発を担当するStreams部門および同部門の社員は、Google Healthに異動する予定だ。
元NHS外科医でDeepMind Healthの臨床ディレクターを務めていたドミニク・キングが、ロンドンでGoogle Health部門を率いる。また、DeepMind Healthのブランドは消滅することとなる。
DeepMindの広報によると、製品開発ではなく、基礎研究に従事していた社員は同社に残る予定だという。
DeepMindの共同創立者でありCEOのデミス・ハサビスはこの合併について、前向きな一歩だと述べた。
「Googleと手を組んだ理由のひとつは、私たちの技術をより広い世界に向けてより迅速に提供するプラットフォームをもたらしてくれるからだ」と、同氏は声明で述べた。「DeepMindの研究チームは、科学と医療における重要な基礎研究課題にAIを応用することについて、先導を続けるだろう」
ニューヨーク大学インフォメーション・ロー・インスティチュート(ILI)の研究員で、DeepMindのヘルスケア事業を批判してきたジュリア・ポールズはツイッターで、Googleとの統合を「まったく受け入れられない」と述べた。
ポールズによると、DeepMindはNHS病院との事業における患者データがGoogleに渡ることは一切ないことを繰り返し保証していたという。「しかし今まさに、それ自体が発表された」と、同氏はツイートした。「これは透明性に欠ける。信頼を毀損する行為だ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jeremy Kahn記者、翻訳:新多可奈子/ガリレオ、写真:©2018 Bloomberg L.P)
©2018 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.