困難を克服して勝利を手にする

一大産業であるスポーツの世界から、ビジネスリーダーが多くのことを学べるのは不思議ではない。スポーツ界のリーダーたちは会議室やロッカールームなどいたるところで、起業家の多くと同じような課題を同じようなスキルを駆使して克服する必要に迫られている。
ビジネスの世界で新しいチームづくりに励むときや、厳しい競争に直面するとき、あるいは一向に進展しない状況に頭を抱えるとき、プロスポーツやトップクラスのスポーツ選手たちのタフで荒々しい世界からヒントや英知を見出せるはずだ。
本記事では、スポーツ界の第一人者が書いた良書の一部を紹介したい。どれも戦って勝ち、成功するためには何が必要なのかを私に教えてくれた、私の愛読書だ。
1.『マネー・ボール〔完全版〕』マイケル・ルイス著(邦訳:早川書房)
2000年代初期、資金難にあえぐ球団「オークランド・アスレチックス」のゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンが詳細なスタッツ(各選手のプレイに関する統計数値)と深い分析を武器として、高い年俸総額を誇る他球団と張り合った物語は、書籍化・映画化されたこともあり、広く知られている。
ビーンは、球団の運営法に革命をもたらしたというよりは、「スモールマーケット」で生き延びるためには、自身の思考を変えて現状を打破する必要があることを認識していた人物だといえる。
ビーンはこれまでのやり方に疑問を持ち、それを別の角度から検証することで、自身が置かれている独自の状況に適した方法を見つけ出した。そして、それを恐れることなく実際に試した。
これは、あらゆるビジネスパーソンがつねに耳を傾けるべき教訓だ。事業を営んでいる限り、気が休まるひまなどない。新たな技術、新たなライバル、新たな市場力学との競争がなくなることはないのだから。
2.『常勝キャプテンの法則──スポーツに学ぶ最強のリーダー』サム・ウォーカー著(邦訳:早川書房)
史上最強のスポーツチームに共通するものは何か。ウォーカーは、選りすぐりの常勝軍団を徹底調査することで、この疑問の解明に乗り出した。
同氏の調査対象になったのは、NBAの「ボストン・セルティックス」(1956~59年)、1999年開催のFIFA女子ワールドカップで優勝したアメリカ代表チーム(1996~99年)、オーストラリアンフットボールの「コリンウッド・マグパイズ」(1927~30年)など計16チームだ。
ウォーカーのインタビューにより、各チームに共通する特徴が明らかにされた。一部を紹介すると、激しい闘いの渦中で発揮される桁外れの集中力、監督が後方から指揮を執るタイミング、感情をコントロールする方法などだ。
ちょうどビジネスと同じように、どのスポーツチームも独自の課題と目標を抱えている。けれども、他と一線を画するチームはいずれも自分たちには何が必要なのかを認識し、正しい戦略を実行することに秀でている。
私はこの本から「No」と言うことが持つ力について学んだ。許容範囲を超える仕事を自分に課すことがなくなったおかげで、特定の目標に対する集中力を維持できるようになった。
3.『They Call Me Coach(監督と呼ばれた男)』John Wooden、Jack Tobin著
UCLAバスケットボールチームの偉大な監督、故ジョン・ウッデンは12年の在任期間中に、チームを10度の全米大学選手権優勝へと導いた。また、リーダーシップと成功に関する著書も多数執筆している。
ウッデンの行動規範はいたってシンプル。準備・労働倫理・誠実さの3つだ。ウッデンは本書のなかで、自身の指導哲学と「成功のピラミッド」の築き方をさらに掘り下げている。同氏はこれらを駆使して、新たなスターを毎年作り出し、選手のモチベーションを維持した。
リーダーなら誰にでも、みずからが教師やメンターになり、ビジネスに対する自身のアプローチを部下に教え込まなければならないときがある。
私がこの本から学んだのは、人の言葉に熱心に耳を傾けることの大切さだ。ひいてはこれが、リーダーとしての自身の成長を促してくれる。親身になって指導するのではなく、口やかましく指示するだけのリーダーは、部下の力を最大限に引き出すことなどできないのだ。
4.『Playbook for Success: A Hall of Famer's Business Tactics for Teamwork and Leadership(成功のための戦略集:全米プロ・バスケ界のレジェンドが教える、チームワークとリーダーシップのためのビジネス戦術)』Nancy Lieberman著
これは、ビジネスというゲームを勝ち抜くために必要なツールを探している女性のための本だ。
ナンシー・リーバーマンは、プロ・バスケットボールの世界で道を切り開いてきた女性だ。最初はWNBAで選手、コーチとして。その後、NBAのデベロップメント・リーグ(現ゲータレード・リーグ)で初の女性ヘッドコーチに就任し、現在は「サクラメント・キングス」のアシスタントコーチを務めている。
リーバーマンの秘策は、自身がつくった「成功のための戦略集」を忠実に守ることだ。
リーバーマンは本書のなかで、同氏がバスケットボールから学んだスポーツ関連のスキルを、女性がビジネスの世界で必要とするスキルへと手直ししている。たとえば、チャンピオンのマインドセットを作り出すこと、自分の長所・短所を認識すること、チームワークの力を信じることなどだ。
私の経験では、キャリアアップの途上にいる女性の多くにとって、自信の欠如は成功の足かせになるおそれがある。この状況を打開するためには、自分を積極的に売り込む勇気を持ち、自分の力を信じ、自分が望むものを取りに行くことが大切だ。
リーバーマンが本書で教えてくれる、チャンピオンのマインドセットを築き上げることの大切さは、必要なときには何度でも頭のなかで繰り返すべきマントラではないだろうか。
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インスピレーションは、あらゆるところから得られる。スポーツはその宝庫であり、私たちの誰もが、日常生活で直面する障害を乗り越えるための方法を学ぶことができる。
つまるところ、スポーツの究極の目標はチームワークでスキルを高め、強い労働倫理を作り上げることによって対戦相手に勝つことだ。そしてそれこそ、すべての起業家が目指していることなのだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Amy Vetter記者、翻訳:阪本博希/ガリレオ、写真:scyther5/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.