GA×イタンジ、最強タッグで43兆円市場の変革に挑む 

2018/11/16
10月、GA technologies(以下GA)が、賃貸領域でAI/機械学習やビッグデータ解析などの先進的IT技術を用いたサービスを展開するイタンジの小会社化を発表。日本のReTech(不動産×テクノロジー)を牽引する両社は、テクノロジー化が遅れているといわれる不動産業界にどんなインパクトをもたらすのか。GA代表・樋口龍氏とイタンジ新代表・野口真平氏が、そのシナジーを武器にこれから描く未来について語り合う。

日本のReTechの旗手が出会う

──日本のReTech企業を代表する両社のM&Aは、不動産業界の本格的なテクノロジー化を予感させます。まず、イタンジがどんな会社なのか教えていただけますか。
野口 イタンジのミッションは、「不動産取引をなめらかにする」です。これまでも不動産流通の革新と業界のデジタル化を目指してきました。
 現在は主に不動産の賃貸領域で、不動産管理会社、仲介会社向けのBtoBクラウドサービスを販売しています。
 たとえば、月間90万回の仲介会社からの物件確認電話に自動応答する「ぶっかくん」や、お部屋探しをする人とAIチャットで接客してくれる「ノマドクラウド」というサービスを約600店舗の仲介会社に提供するなど、不動産会社のインフラとしての役割を築いてきました。
樋口 イタンジが掲げる、“不動産業界のテクノロジー化”というキーワードは我々GAとまったく同じ。不動産市場は国内43兆円のビッグマーケットですが、不動産テックという観点では世界から10年も15年も遅れています。
 GAは中古不動産のBtoC領域で基幹システムを自ら構築し、テクノロジー化を進めてきた会社。このシステムを、今後BtoB領域で外販していく可能性を考えた際、管理会社、仲介会社を顧客として持つイタンジは非常に魅力的でした。
 また、イタンジはまさに日本の“ReTechの雄”ともいえる存在で、優秀なメンバーがそろっている。我々が一緒になることで、業界のテクノロジー化をスピードアップできると確信しています。
──今回のM&Aでは、「賃貸3.0」というキーワードを打ち出しています。
野口 これは端的にいうと、「取引を繋げる」ということです。今の賃貸市場は、ポータルサイトから消費者を店舗につなぐ仕組みが主流です。その裏側では仲介業者、管理会社、保証会社などが互いにパスを回し、それぞれの間で情報が行き交い、その度に手数料が発生しています。この流れをもっとスムーズにつないでいきたい。GAが持つリソースが、この目指す世界を実現する力となります。

熱血とロジカル。二人のトップの出会い

──「不動産×テクノロジー」の可能性を信じる両社が共になるということですね。そもそも、どういう経緯で今回のM&Aが進むことになったのですか?
樋口 狭い業界なので、もともと顔見知りだったのですが、今年の夏、ビジネスへのアドバイスがほしくてイタンジを訪ねたのが、きちんとお互いを知るきっかけでした。野口と話していて、ものの1分で「これは違うな」と。
 ビジネスをゼロからつくってきた豊富な経験に裏打ちされているからこそ、話がロジカルで的確。「この人はすごい」という印象が強く残りました。
 ただ、とっつきにくいところがあるから、第一印象がよくないんだよね(笑)。
野口 そんなことないですよ(笑)。
 樋口さんはとにかくガッツがあって、本当にまっすぐな人という感じでしたね。情報の有無がビジネスを左右する不動産業界には戦略家が多い印象ですが、樋口さんはまっすぐで熱い想いにあふれている。すごく正直にいろいろ話してくれて、腹を割って話しやすかったです。
樋口 もともと一緒にやれたらいいとは思っていましたが、このころはまだふわっとした状態でした。
──M&Aの話が本格的に進む前の段階から、お互いに惹かれ合うものがあったということですね。一方で、同じ不動産業界のプレーヤーとしてお互いの情報をオープンにするリスクも気になりそうですが。
樋口 GAはBtoCの売買、イタンジはBtoBの賃貸と事業領域がまったく違うので、それはなかったです。逆に、どんどん話を進めるうちに、お互いに足りないところを補い合える、ピースが埋まっていくというワクワク感でいっぱいでした。
 そこからの展開はあっという間で、子会社化の発表まで3カ月くらい。その間、キーマンの野口とはかなりコミュニケーションを取ってきました。とにかく野口にほれ込んでいたので、一緒にやると決まる前から、GA社内のビジネスコンテストの審査員を頼んだり、進行中のプロジェクトのPMを任せたりも。
野口 さすがにPMの話をもらったときはびっくりしましたね(笑)。ただ、GAの事業に興味があったので、いいチャンスだと思って引き受けました。

現場をわかるエンジニアの強み

──トップの人間性への信頼感の強さが当初からあったということですが、具体的に会社同士が一緒になる強みや、M&Aを決断させたポイントはどこにあったのでしょうか。
樋口 事業上のシナジーはもちろんですが、イタンジのカルチャーも魅力的でした。イタンジの強みのひとつに、メンバーが事業の失敗や倒産の危機を経験している点があると思います。そこを乗り越えてきた強さは、非常に大きな武器になる。
 もうひとつは、エンジニアがプロダクトをつくって、自ら売りに行くというフットワークの軽さ。そういったカルチャーはぜひGAにも取り入れていきたいと強く思いました。
野口 イタンジのカルチャーがそうだということもありますし、少人数のベンチャーだったので、そうせざるを得ない環境でやってきたというのがありますね。
樋口 GAでも、エンジニアがリアルの営業現場を体験するようなプログラムを行っているのですが、その点において、野口はまさに理想像なんです。エンジニア出身ですが、不動産の賃貸や管理領域に関しては誰よりも詳しく知っている。現場を深く知るエンジニアがプロダクトをつくる。そこに強く惹かれました。
野口 イタンジの当初のビジネスはtoC向けのサービスをテクノロジーだけでやるというものだったので、もともとエンジニアの会社です。ただ、ビジネスを進める中で、「テクノロジーだけでは目指す世界の実現は無理だ」と気づくタイミングがありました。必然的に自分たちが現場に出て売りに行くしかなかったんです。
 もうひとつ、エンジニアとSIerとは違う、という意識も強くあります。仕様書に従ってつくるのと、仕様書から考えてサービスを創造するのには、歴然とした違いがある。自分たちがサービスをつくっているという大きな自負があります。

「不動産業界を変える」という強い志

野口 僕たちがGAとのM&Aを決断できたのは、やはり「不動産業界を変える」という大きなビジョンが同じだったから。
 実はこれまでも、さまざまなM&Aのオファーがありました。ただ、「不動産業界の常識を変える」という自分たちのビジョンは絶対的なものだったので、正直、利益優先のM&Aにはまったく興味を示せませんでした。
 成し遂げたい世界が違ったら、一緒にはやれない。
 この思いは、揺るがないものだったので、GAとの交渉においても、ビジョンが同じかどうかしか見ていなかったと言っても過言ではないほど。結果、手法が違ってもゴールは同じだと感じられたからこそ、一緒になることができました。
樋口 本当に目指している世界が同じだと思います。
野口 僕たち自身も、テクノロジーだけを強調しているわけではないんです。なぜなら、不動産取引では、どうしてもリアルな接点が適している場面があるから。大量の物件情報を処理するのはチャットのようなデジタルを使ったほうが効率的ですが、物件を仕入れる際には直接お客様にお目にかかることで信用を築くことも重要です。
 リアルとテクノロジーをうまく融合し、流れを遮断しないようにシームレスにつなげていく。そういうよりよいサービスを提供したいということでお互い共感し合えたのが大きかったですね。
樋口 もともとお互いが取り組んでいるプロジェクトについて話していても、「それって結局、目指しているのは同じことだよね」となることも多いんです。この2つのプロジェクトを統合すれば、今、足りない部分がプラスされて、業界を変えるほどの強いインパクトを出せる。
  それがわかったとき、これまではバラバラだった点と点がイタンジの参画できれいにつながっていく世界が見えて、心臓をぐっとわしづかみにされるような衝撃的な感覚を覚えました。目指すべき未来のビジネスの道筋が「これだ!」とクリアに見えた瞬間でした。
野口 そういったシナジーは、お互い随所で感じますね。

優秀な営業マンが優れたサービスを売る

──ビジョンが共通で、足りない部分を補い合える。具体的なシナジーとして期待している部分について詳しく教えていただけますか?
野口 イタンジのプロダクトには自信がありますが、今はまだ営業力が弱いのは事実です。一方でGAは強力な営業力を持っている。
 一緒になることで、優秀なエージェント(営業)がよい商品を売れば、それは相当な効果が上げられるはずです。
樋口 そこはもうすごくシナジーを感じています。テクノロジー化を進めながらも、不動産業界ではリアルが重要だと考えていたので、GAはずっとそこを強化してきた。イタンジのプロダクトの強さが我々に加わり、よりよいサービスが展開できるという手応えを感じています。
 僕は、餅は餅屋だと考えているので、人にしても組織にしても、足りないところが必ずあると思っています。あとはそれを補完してくれる、ものや人を受け入れられるかどうか。そこに学ぶ姿勢が大事になってきます。
野口 そこがGAのすごいところで、やはりトップの方針が重要だと思います。ビジョンのために何を最適化すべきか。それを常に一番に考えているから成長し続けられている。

変革期という大チャンスが今

樋口 不動産業界にとって、今は最大のチャンス。Windows95 が登場した時期にインターネットの波に乗り、チャンスをつかんだ会社が現在、グローバルで席巻しています。
 その時期とまったく同じことが、まさに今、不動産業界で起きている。ReTechで43兆円の市場を大きく変えるタイミングが訪れているのです。
 そんなマーケットの大きなチャンスに加え、現在、270人ほどのGAは、これから組織もポストもものすごい勢いで拡充していく成長期に入っています。
 イタンジと一緒になったことでBtoC、BtoB、さらに売買も賃貸も網羅できるようになりました。テクノロジーとリアルの力をかけ合わせ、我々が業界全体を大きく変えていけると確信しています。
野口 重要なのは、業界の構造が大きく変わる変革期にあるということ。だからこそ、中長期的な視点で抜本的に改革を進められる企業が勝ち残っていくし、それがまさにGAやイタンジであると信じています。
樋口 大きな変革を成し遂げるためには組織の力が必要です。チャレンジできる人間がそろっている点が我々の強み。こんな大きなチャンスの時期だからこそ、本気で挑戦し、成長したいという人にぜひ参画してほしいですね。
(編集:樫本倫子 構成:工藤千秋 撮影:的野弘路 デザイン:砂田優花)