高価な原料であるコバルトの必要量を減少させるという「GEMX」。この新技術を発明した起業家はすでに、カソード製法のライセンスを供与している。

科学者から転身した77歳の起業家

科学者から起業家に転身し、そのバッテリー技術が大手化学メーカーのBASF(ビーエーエスエフ)とジョンソン・マッセイに採用された功労者が、新たな発明とともに帰ってきた。この発明により今後何年にもわたって電気自動車の性能が向上すると彼は主張する。
ケナン・シャヒン(77歳)によると、同氏の最新発明によってバッテリーに不可欠な原料であるコバルトの必要量を減らすことができるという。最重要部分にのみ使用することで、コストが抑えられるというのだ。
青みがかった灰色の原料であるコバルトは、主にコンゴ民主共和国で採掘されるが、バッテリー式自動車への供給不足の懸念から、ここ数年で価格が急上昇している。
シャヒンの「GEMX」と呼ばれる新発明は、さまざまな種類のニッケルベースのバッテリーに使用することができ、主要なバッテリー製造市場である米国やEU、中国、日本で特許を取得している。
シャヒンは今週、自動車産業の年次カンファレンスが実施されたベルリンにおいて、自社は大手メーカー数社と協議中であり、すでにとある企業がライセンスを購入することで合意したと述べた。
シャヒンは電話取材で「われわれは、この技術が大手製造企業の手に渡ることを望んでいる」と話した。彼によると、この技術によってコバルト含有量をバッテリーカソードの4%まで減らすことができるという。現在は約20%の含有量が必要とされている。
バッテリーのコバルト含有量を減らすことは、戦乱下にあるコンゴへの依存度を下げることにつながる。BMWやフォルクスワーゲンなど、サプライチェーンが人々の関心を集める自動車メーカーにとって、同国の児童労働や危険な労働慣習は悩みの種だった。
シャヒンの技術は、コバルトをカソードの化学構造内の特定の空間に挿入するものであり、コバルトの必要量はいままでより少なくて済む。

大企業と一緒に取り組むことを選択

シャヒンのこれまでのストーリーは、少し変わった成功物語だ。16歳の時に交換留学プログラムでトルコから渡米したあと、顧客サービスソフトウェア会社を立ち上げ、15億ドルでルーセント・テクノロジーに売却した。
その後同氏は、カソードの開発に自身の資金ほぼ1億ドルを投入した。カソードは、自動車のバッテリーが充電と充電の間にどれだけ走行できるかを決定づける極めて重要な要素だ。
探求の中でシャヒンは、バッテリー原料の初期市場を独占しようと目論む世界最大級の化学企業各社と競合する立場になった。しかし同氏は、真っ向から対立するよりも大企業と一緒に取り組むことを選んだ。
カソード市場を牽引するユミコア(Umicore SA)に必死に追いつこうとしていたBASFは2016年4月、シャヒンのCAMXパワーカンパニーと、同社のリチウムニッケル酸化物に賭けることにした。2カ月後、ジョンソン・マッセイが後に続いた。
この件に詳しい匿名筋によると、ロンドンを拠点とするジョンソン・マッセイはシャヒンの会社を買収する協議をしていたが、BASFがライセンスを取得してからは同様の取り決めで手を打たざるを得なかったと言う。シャヒンは両社との関係について話すことを拒否。両社の代表とも、コメントの要請に応じなかった。
両社はシャヒン氏のCAMX技術を取得し、さらに改良した。ジョンソン・マッセイは現在、同氏の発明に基づいたカソードの生産を増加させるため2億ポンド(約298億円)を費やす計画だ。
BASFも、どの化学技術を使用するかは具体的にしていないが、4億ユーロ(約518億円)をカソード生産に投資する計画を発表した。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Andrew Marc Noel記者、翻訳:新多可奈子/ガリレオ、写真:©2018 Bloomberg L.P)
©2018 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.