[東京 9日 ロイター] - 来年10月の消費増税で国内需要が落ち込むことを想定し、その回避を目的とした大規模な総合対策の検討が、政府部内で非公式に進んでいる。複数の関係者によると、その規模は10兆円程度を目安とすべきとの意見も浮上。実質所得の目減り分5兆円台に加え、国土強靭(きょうじん)化の対応や海外経済減速の影響対応もパッケージに取り込み、全体として内需の落ち込みに対応しようというスタンスが、政府内で固まりつつある。

<実質所得減と景気対策、複数年で>

「(消費増税前後の需要の)平準化対策といっているが、実際には所得目減り対策と景気対策だ。1、2年かけて財政出動で支えるつもり」──。

今回は2%と前回より小幅の増税で、軽減税率も導入するため、影響は軽微とみていた複数の政府関係者が、ここへきて対策の規模が大きくなる可能性を認めている。

背景には、1)相次いだ台風など豪雨被害や北海道の地震など自然災害による被害の拡大、2)米中貿易摩擦の深刻化と世界経済への影響──という2つの要因が、日本経済の圧迫要因として政府内で意識されだしていることがある。

一方、日銀の試算では2%増税に伴い国民が支払う税金は約5.6兆円。既に決まっている軽減税率や幼児教育無償化などの恒久的な対策で2.4兆円程度が国民に還元される。

さらに時限的ながら、前回も実施した低所得者支援金による所得還元なども合わせると、ネットで支払う税金は2.2兆円に圧縮される。

現在、政府内で検討中の中小小売店を対象にしたキャッシュレス決済によるポイント還元やプレミアム商品券、自動車減税などを加えれば、1兆円台の負担で済みそうだと複数のエコノミストは試算。政府内には、この1兆円台の規模を実質所得目減り分ととらえる見方もある。

足元での政府部内の議論の進捗に関し経済官庁の幹部は「国民所得目減り額の規模にかかわらず、10兆円単位での財政出動が選択肢として浮上している」と明かす。ただその場合でも、単年度で10兆円規模の財政支出を実行するのではなく、複数年に分割して執行する方式が模索されているもようだ。

この選択肢のたたき台として、内閣官房参与の藤井聡・京都大学大学院教授が提言している10─15兆円規模の経済対策構想があるという。

同参与は9月のロイターとのインタビューで、増税の影響に加えて、東京五輪需要の剥落、残業代の減少、海外経済の減速などの経済下押し要因を勘案して対策を作成するべきと述べている。

<国土強靭化で成長基盤強化>

10兆円規模の大規模な総合対策とするには、所得補てんだけでは力不足だ。年末に決まる与党税制大綱では自動車減税が目玉になりそうだが、規模は1兆円未満と予想されている。

複数の関係筋によると、総合対策の大きな柱の一つに、国土強靭化対策関連の歳出が入りそうだ。

政府は自民党総裁選直後に、電力・空港・河川など重要インフラを緊急点検し、必要な対応に3年間で集中的に取り組む方針を示してきた。

台風などによる豪雨で堤防が決壊しダムが崩壊寸前となってたまった水を放流した結果、多くの死者が出たため、政府・自民党内では治山・治水の必要性について急速に関心が高まっている。

ある政府高官は、大規模な被害が発生する前に公共事業で手当てすれば、人命を救えるだけでなく、経済的な打撃も相対的に圧縮できると説明している。

ただ、公共工事の推進には人手不足という課題が立ちはだかる。別の政府関係者は、ICT建設機械など先端技術を活用した次世代インフラメンテナンスに資金を付けることが、将来の成長基盤につながるとみている。

安倍晋三首相は今月5日の参院予算委員会で、防災・減災、国土強靱化のための緊急対策について「消費税対応にかかる2019年度、20年度に講じる臨時・特別の措置を活用する」と述べた。

麻生太郎財務相は9日の閣議後会見で「(緊急点検対策や強靭化対策も)反動減対策になるだろうと思われるが、細目が決まっていないので何とも言えない」と語った。

財務相の発言が、安倍首相の見解に比べややトーンが弱い背景には、大規模な総合対策の取りまとめに対し、政府内の見解が一致していないことがありそうだ。

ある政府関係者は、景気浮揚のための財政支出は、消費増税前の駆け込み需要と、その後の反動減を抑えるという本来の消費税対策と趣旨が異なり、論理的な整合性に問題がありそうだと指摘する。

消費税対策が、いつの間にか国土強靭化や輸出産業支援なども含めて膨張することについて、財政規律を尊重するエコノミストからは「何のための消費増税なのか」との批判が早くも出ている。

水面下で進んでいる議論が水面上に浮上した際、世論の反応によっては、今後の安倍政権の行方を大きく左右しそうだ。

(中川泉 取材協力:竹本能文 編集:田巻一彦  )