先進ロボットが競った5日間。「人との共生・協働」の幕開け

2018/11/12
今年6月に閣議決定した「未来投資戦略2018」において、Society 5.0の実現に向けた「ロボット技術」の開発・活用の重要性が語られた。2020年にはロボットの国際大会「World Robot Summit(ワールドロボットサミット・WRS)」を愛知・福島で開催することも決定。それに先立ち、プレ大会として「WRS 東京大会」が開催された。これからの社会が目指す、産業とロボットの新しい接点とは──。 
 経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の主催で、10月17日に東京ビッグサイトで開幕した「WRS 東京大会」が、10月21日、盛況のうちに幕を閉じた。
 この大会は「World Robot Expo(展示会)」と「World Robot Challenge(競技会)」の2パートで構成され、展示会では、企業や大学、自治体など91団体の最新のロボット技術や製品、研究成果が披露された。
 一方の競技会では、4カテゴリー・9部門で23の国・地域から126チームがロボット技術やアイデアを競い合った。
 展示会と複数の競技会を同時に開催し、ロボット技術を様々な側面から紹介する取り組みは、これまでに例がない。最先端のロボティクスシーンが多くの人々の目に触れる貴重な機会となった。

展示会の主役は「共働型ロボット」

 展示会は、大企業からベンチャー、大学の研究室まで、多種多様な団体が出展。展示されていた内容も、すぐにビジネスに使えるロボットから未来を感じさせる研究段階のロボットまで、多岐にわたった。
 全体的に目立っていたのは、人間を助ける共働型ロボットだ。これは、WRSのテーマである「Robot for Happiness 人とロボットが共生し、協働する社会の実現に向けて」にも通じる。
 特に大手ロボティクス企業は、すでにFA(Factory Automation)の現場で稼働している人と共働するアーム型ロボットを展示し、実際の作業を再現したり、アーム型ロボットの精密さをアピールするデモンストレーションを実施したりしていた。
 言葉にすると地味な印象を受けるが、アーム型ロボットが人間とタッグを組んで作業を進める様子を見ると、省人化・省力化にロボットがどれほど有効かよく分かる。
 WRSでは様々な識者の基調講演が行われたが、そのなかで、カーネギーメロン大学の金出武雄教授が「ビヘイビア・イメージング」の話をしていた。これは、人の姿勢や顔の表情、声などから次の行動を読み解く最新研究だという。現在のアーム型ロボットに搭載されれば、今以上にパートナーとしての存在感が高まるはずだ。
 展示ブースで行われるデモンストレーションは、アーム型ロボットがけん玉をしたりお茶を立てたり、人間の後をついていく移動型ロボがあったりと華やかだ。人間さながらの繊細な動きや、人間にはまねできない精密な動きなどは見応えがある。
 一方、大学の研究室やベンチャー企業は、R&D段階ではあるが、ワクワクするようなロボットの未来像を示してくれた。
 デモに人だかりができていたのは「人機一体」のブース。ここでは、遠隔で操作できる“人型重機”のデモが行われていた。VRグラスを通して風景を見ながら、コントローラーでアームや脚を操作する。
 人の操作をそのままロボットに伝え、そしてロボットに加わった力や動きはコントローラーにフィードバックされるという。アニメに出てくるような「人型作業ロボ」が現実になるかもしれないと思わせてくれた。
 ユニークだったのは、早稲田大学岩田浩康研究室が出展していた「装着型ロボットアーム」だ。背中に「第三の腕」を背負って、メガネ型のインターフェイスで動かす仕組みだ。身体拡張技術の一種で、家事支援を念頭に置いているという。「第三の腕」で何かを固定しながら、両手で作業をするシーンなどで活躍しそうだ。
 子どもに人気だったのは、黒柳徹子さんのアンドロイド「totto」だ。話しかけると、自律型対話AIが内容を解析して、本人の声と口調で答えてくれる。実際に体験してみると、問いかけに対して、自然に相づちを打ったり、質問を返したりしてくる。本人特有の言い回しは、実際に「徹子の部屋」の放送データを用いてプログラムされているという。
 主催者である「NEDO」のブースでは、社会実装を目指して開発中のロボットが複数展示されていた。イチゴをつかめるほど繊細なロボットハンドやAIによる外来患者の問診システム、離れた場所からロボットを操作し、視覚・聴覚・移動感覚などを共有する技術など、少し未来の世の中をより便利にしてくれそうな、ワクワクする内容だった。

ロボットアームで全工程を担う

 展示会は国内の企業・団体が目立ったが、競技会はワールドワイドだ。23の国・地域から参加した126チームが、4カテゴリー・9部門で熱い闘いをくり広げた。
 4つのカテゴリーとは、「ものづくりカテゴリー」「サービスカテゴリー」「インフラ・災害対応カテゴリー」「ジュニアカテゴリー」。大手企業の技術チームやロボットベンチャー、学生など様々なチームが参加した。
 そのうちのひとつ、「ものづくりカテゴリー」では、ロボットによる工業製品の素早く正確な組み立てを競う「製品組み立てチャレンジ」が行われた。
 具体的には「タスクボード」「キッティング」「組み立て」の3つのタスクに、各チームが独自のロボットを持ち込んで挑戦するという競技だ。
 例えば「キッティング」では、部品箱の中から指定された部品を正確に取り出し、部品トレーに配置する作業を行う。正確な画像認識技術と部品をつかむ精密で素早いピッキング技術が求められる。続く「組み立て」では、18種類・計32個の部品からベルトドライブユニットを組み立てていくといった内容だ。
 さらに、当日まで内容を知らされない“サプライズパーツ”もあり、準備力と設計力だけでなく、急な対応力が勝負の分かれ目となった。
 FAによる現場での省人化・省力化に直結する競技だけに、企業の参加も目立つカテゴリーだったが、優勝したのは南デンマーク大学の「SDU Robotics」。3Dプリンターを使い、その場で治具(加工や組み立て工程における部品や工作物の固定、工具の制御や案内に利用するもの)を製作するなどの工夫があった。

「コンビニ業務」で競うロボットたち

 「サービスカテゴリー」は、家庭や店舗で人間の手助けをするロボットが、実際に想定される業務に応じた3部門に分かれ、その完成度を競うチャレンジだ。
 「パートナーロボットチャレンジ(リアルスペース)」は、散らかった部屋を片付けて所定の位置に戻したり、探し物をしたりする競技。使用するロボットは全チーム同じで、トヨタ自動車のロボット「HSR」。このロボットにプログラムされるソフトウェアの性能を競った。
 ドアを開けて部屋に入ったり、床に置いてあるおもちゃを見分けて棚の所定位置に戻したりするなど、家にあるとかなり便利そうだが、これらの行動はロボットにとっては超難関。チームによって大きく差がつくなか、優勝したのは「Hibikino-Musashi@Home」だった。
 注目度が高かったのは、「フューチャーコンビニエンスストア」部門だ。コンビニで人間と一緒に働くロボット技術を競うもので、サービス業の人手不足が深刻化する現状で、ロボットと人との共働は課題解決の大きな助けとなる。その完成度を見極めようと、多くの観客が詰めかけた。
 設けられたタスクは「接客」「トイレ掃除」「陳列・廃棄」の3業務だ。「接客」は、ロボット技術を使って行う接客業務を自由に展開。性別、年齢のチェックや万引き防止、高齢者・日本語をしゃべれない外国人・車椅子利用者などへの対応といったデモンストレーションが行われた。
 「トイレ掃除」では、便器および便器周囲の床や壁に付着した模擬尿を清掃。また、床に散乱したゴミを片付けるというチャレンジ。「陳列・廃棄」では、おにぎり、ドリンク、弁当が3個ずつ入ったコンテナから、ロボットが商品を取り出して棚に陳列する。また、製品の消費期限を確認し廃棄対象品を回収するなど、かなり難易度が高いミッションが課せられた。
 これらの3つのタスク別に勝者となるチームが選定され、総合優勝には「U.T.T.」チームが輝いた。

災害現場を模したセットで性能比べ

「インフラ・災害対応カテゴリー」では、災害の予防や復旧に従事するロボットが競った。大規模なプラント災害やトンネル事故などへの対応といった、人間がアクセスできない環境でいかにロボットが活躍できるか、その本領発揮が期待されたカテゴリーだ。
 実際に想定される災害に応じて3部門にわかれたうち、「プラント災害予防チャレンジ」では、数種のインフラ点検項目に基づく点検、メンテナンス(バルブ開閉)が行われた。プラントを模したセットで、ロボットが狭い場所や高所を移動する姿は、実際の現場さながらのリアリティだった。
 そのほか、「災害対応標準性能評価チャレンジ」では、アメリカが提唱する災害対応ロボットの標準性能試験「STM」を基本に、災害予防・対応で必要となる移動能力、センシング能力、情報収集能力、無線通信能力、遠隔操作性能、現場展開能力、耐久性について評価が行われた。

子どもたちの柔軟な発想が続々

 実務的な能力を競ったここまでの3カテゴリーに比べて、若干毛色が異なる競技が行われたのが「ジュニアカテゴリー」だ。子どもたちが「家や学校にあったらいいな」と思えるロボットを製作・プログラミングし、その完成度を披露するというもの。
 「スクールロボットチャレンジ」は、ハッカソンのような仕組みで行われた。オープンデモンストレーションでは「Pepperがいる学校」のアイデアを考え、Pepperにプログラミング。その成果を披露するというもの。
 「ホームロボットチャレンジ」では、WRSのテーマでもある「Robotics for Happiness 人とロボットが共生し、協働する社会の実現に向けて」を実現すべく、自作のロボットとプログラムで「ロボットがいる家庭」を具現化するアイデアを競った。
 世界各国から集まった子どもたちによるプレゼンテーションは、いずれも大人顔負けの柔軟な発想にあふれ、ロボティクスの未来に対する期待を感じさせてくれた。

「ロボットは総合技術の学問である」

 WRS諮問会議委員長の金出武雄・カーネギーメロン大学教授は、WRSの総評で競技会に触れ、「ジュニアカテゴリー部門に参加した子どもたちの笑顔を見るだけで元気が出た」と賛辞を送った。
 また参加者に対しては「コンペティションを通じて、自分の優れたところ、足りないところを理解して、次のステップに行く」と檄を飛ばす。その上で、「今回、ウィナーになれなかったとしても、それは足らないことを先に教えてもらったので、アドバンテージになる。次の競技会では、ウィナーよりもベターポジションにいる」と労をねぎらった。
 WRSの開催期間は、CEATECの開催期間と一部重なっていた。WRSは今年が初の開催ということもあり、一般的な盛り上がりはCEATECほどではなかっただろう。
 しかし、ICTの展示会という要素が強いCEATECに対して、モノづくりというリアルの現場の技術をふんだんに感じられたWRSは、日本の強みを生かした展示ができていると感じた。人々の暮らしを助け豊かにするには、リアルなハードや接点も重要になる。2020年の本大会では、更なる盛り上がりを見せるはずだ。
 「ロボットは総合技術の学問であり分野。あらゆる技術をひとつのシステム、塊として役に立つものにできるかを考えていく必要がある」とは、金出教授が総評で述べた言葉だ。
 WRSでは、その学問の最先端を見ることができた。そして、人とロボットが共生し、協働する社会は、遠い未来ではないと感じさせてくれた。
(取材・文:笹林司 撮影:岡村大輔 デザイン:九喜洋介 編集:呉琢磨)