日本発、次世代スポーツビジネスが動き出す

2018/11/9
スポーツビジネスは、テクノロジーとの融合で新たなフェーズに突入しつつある。特に世界から熱い注目を集めているのが東京だ。
そんななか、電通と米国に拠点を置くベンチャーキャピタルのスクラムベンチャーズは、スポーツとテクノロジーを軸にした、国内最大級のアクセラレーションプログラム「SPORTS TECH TOKYO」の開催を発表した。
10月31日には都内でプログラムの説明会を実施。当日はスタートアップをはじめ、インベスター、事業会社、スポーツ関係者など300人以上が結集。急成長が期待されるテクノロジードリブンのスポーツビジネスの可能性と、それがもたらす新しい世界について考える。
大勢の参加者で盛り上がったSPORTS TECH TOKYOのプログラム説明会

先進国アメリカに学ぶスポーツビジネスの進化

 まずはNFLなど国内外のスポーツビジネスを数多く手がけてきた日置貴之氏から、進化を続けるアメリカのスポーツビジネスと、スポーツの産業化フェーズについての説明があった。

テクノロジーが変えるスポーツの未来

 スポーツ×テクノロジーが進むことでどんな世界が実現していくのか。スポーツの世界に深く関わる元サッカー日本代表監督・岡田武史氏、「SPORTS BULL」を運営する運動通信社代表・黒飛功二朗氏、『統計学が最強の学問である』著者・西内啓氏の3人がそれぞれの立場から、これからのスポーツテックへの期待を語った。
「データを活用することで、最適なファンエンゲージメントが提供できるようになり、それがスポーツの活性化につながっていくと思います。IT化やビッグデータの活用が進化することで、メソッド共有などのメリットはもちろん、プレーや采配そのものも劇的に違ってくるでしょう。テクノロジーがスポーツの世界を大きく変えていくと思います」(岡田氏)
「スポーツの世界は権利関係などにコストが大きくかかるマーケットです。弊社自身、大手企業とコラボすることで、スタートアップビジネスを具現化できた部分が大きい。スタートアップと大手企業が出会う場があることで、さらなるスポーツテックの可能性が広がっていくと思います」(黒飛氏)
「テクノロジーやAIが発達した時代だからこそ、身体性や選手に対してコミュニティが持つ感情の価値がさらに重要になってきます。一方、見方を変えると、投資としてのスポーツテックはまだまだリーズナブルで、チャレンジする価値が高い。スポーツテックを本気でやってみよう、そのために新たなパートナーと組もう、と考えている企業は多く、スポーツテックへの熱量の高さを感じています」(西内氏)
 イベントには、日本代表プロサッカー選手でメルボルン・ビクトリーFC所属の本田圭佑氏もビデオメッセージで登場。「生身の人間がやるスポーツの魅力をサポートするテクノロジーをもっと有効活用していくべきだと思います」とスポーツ×テクノロジーへの期待を語るとともに、「スポーツテックの分野で若い世代のスタートアップが活躍してほしいですね」とコメントを寄せた。

テクノロジーがスポーツビジネスのアクセルに

  主催者の電通・中嶋文彦氏とスクラムベンチャーズ・宮田拓弥氏からは、今回の日本最大級のアクセラレーションプログラムについての説明が続けられた。世界中から募集するスタートアップの成長を支援するとともに、アイデアや革新的技術を必要とする企業にオープンイノベーションの機会を提供する「SPORTS TECH TOKYO」の魅力を語った。
 なお、プログラムの主な特徴は以下の通りだ。
 約1年間のスケジュールは、前半で事業開発ラウンド、後半に活性化ラウンドを設定している。「特に、今回の最大のポイントは、ワールド・デモデイの後に活性化ラウンドがあることです」と中嶋氏は説明する。
 一般的なアクセラレーションプログラムはデモデイでビジネスアイデアを披露し、プロトタイプをつくって終わるケースがほとんどだ。しかし、「SPORTS TECH TOKYO」のプログラムでは、プロダクトやサービスを試験・実証する期間を設けている。
「事業をどうやってスポーツビジネスの世界で実装させていくか、しっかりとサポートしていきます」(宮田氏)

間口の広い「スポーツ・イノベーション」の場を提供

 プログラム説明会を終えて、主催者である電通・中嶋氏が、スポーツテックの未来に広がるビジネスチャンスと、それを生み出す場としての今回のプログラムの意義について語った。
中嶋 私はこれまでも多くのスタートアップとのコラボレーションに関わってきて、例えば空港におけるロボティクスの実証・実装のプログラムやエンタメ×ITのようなイノベーションプラットフォーム支援を行ってきました。
 スポーツテックビジネスは、国もその成長を後押しする有力なマーケットです。テクノロジーが加わることで、これまでのスポーツビジネスの概念を大きく変える、新しい世界が広がっていくはずです。
 実際、プログラム説明会には、スタートアップや大手企業のほかに、スポーツリーグ、チーム、元アスリートの方々も多数参加してくださり、みなさんの関心の高さにうれしい驚きを感じています。多くのプレーヤーがさまざまな関わり方ができる。そんなオープンイノベーションの場を「SPORTS TECH TOKYO」では提供していきたいと考えています。ご興味をお持ちの方は、ぜひご連絡いただければと思います。
スポーツとテクノロジーがつくりだすビジネスの未来に期待を寄せる登壇者たち
 スポーツの世界はまだまだポテンシャルを秘めています。だからこそ間口の広いイノベーションの場を用意し、多様なビジネスを創出するチャンスをもっと増やしていきたい。
 そうすることで、選手、チーム、リーグにとっての価値を生み出し、そこに関わる企業、顧客など、スポーツを取り巻くあらゆる存在のエコシステムを形成できます。それぞれが、それぞれのベネフィットを得られる仕組み作りをしていきたいと考えています。

魅力ある独自のプログラム

中嶋 今回のアクセラレーションプログラムでは、スポーツという、ある意味、特殊な世界でのビジネスを成功させるために、国内外のスポーツビジネス関係者や、幅広い知見と経験を持つベンチャーキャピタルなどから100名以上のメンターが参加。彼らから事業化などについて有用なアドバイスを得ることができます。
 さらにスポーツ・アドバイザリー・ボードとして、国内外のスポーツ団体やチーム幹部など錚々(そうそう)たるメンバーにも参加していただきます。
説明会では、参加者が交流を深めるネットワーキングタイムも
 先ほども触れましたが、プログラム後半の活性化ラウンドでは、社会実装を狙ったフォローをしていきます。もちろん、プログラムに参加しているさまざまな人、企業、団体とのコネクトも支援していきます。その点は、幅広い領域にネットワークを持っている電通の力を最大限発揮できる部分だと思っています。 
 日本のスポーツテックの現状はまだまだこれからで、ポテンシャルにあふれています。ここから、まだ見ぬビジネスが生まれていく。特に、スポーツが内外の注目を集め、さまざまな人や組織が新しい挑戦をしようとしている今が最大のチャンスです。このモーメンタムを起爆剤として、スポーツテックムーブメントを巻き起こしていきたいと考えています。
(編集:久川桃子 構成:工藤千秋 撮影:北山宏一 デザイン:九喜洋介)