[ジュネーブ 29日 ロイター] - 米国は29日に開かれた世界貿易機関(WTO)の紛争処理機関会合で欧州連合(EU)に対し、米国の鉄鋼・アルミニウム関税を巡る通商紛争を続けることが本当にEUの利益になるのかどうか考えるべきだと指摘した。

米国はまた、同関税を巡るカナダ、メキシコ両国との紛争については、解決に期待感を示した。

この問題を巡っては、EUのほか、中国、ノルウェー、ロシア、トルコも紛争処理パネルの設置を要請しており、要請件数は7件と異例の多さとなった。一方、米国は同関税への報復措置を発動した諸国に対してパネル設置を求めた。

米国のデニス・シアWTO大使は、中国は過剰な生産能力を持ち、非市場経済であるため、米国の関税に反対するのに意外性はないが、EUの姿勢には「深く失望している」と強調。

「EUが経済、政治、安全保障における幅広い利益を慎重に検討するよう勧める」と述べた。

シア大使は「われわれは中国の一党独裁国家が米国の鉄鋼・アルミ業界を破壊的なまでに弱体化させることは許さない」とし、米軍、さらに世界の安全保障が同業界に依存していると主張した。

中国の代表は、米国は自国の保護主義的政策を隠すために論点をすり替えていると批判した。

カナダとメキシコも米国の鉄鋼・アルミ関税についてWTOに提訴しているが、通商担当の米当局者はこの日の会合で、両国と建設的な協議を行った結果、合意は可能だと期待していると述べた。

カナダのフリーランド外相の報道官、アダム・オースティン氏はロイターに、米国が同関税を撤回することが最善の結果になると指摘した。

米国は同関税は安全保障上の脅威に対応する目的があるため、WTOの管轄外だと主張している。

シア大使は「WTOが(安保を理由とした例外的な輸入制限の)発動について再調査に着手するならば、WTOの紛争処理制度の正当性を損ねるだけでなく、WTO自体の存在意義を揺るがすことになる」と警告した。

米国のフレッチャー法律外交大学院のジョエル・トラックマン国際法教授とWTOの元米国人判事のジェニファー・ヒルマン氏はツイッターで、シア大使の主張はWTOルールに裏付けられていないとの見解を示した。

この日の紛争処理機関会合でカナダの代表は、安全保障上の脅威への懸念は「想定し難い」と批判。ノルウェーもまた、「実在の安全保障上の懸念とは無縁であることは明白」と強調した。

カナダ、中国、EU、メキシコ、日本は米関税は「輸入制限」措置で、WTOルールに基づく制裁で対応することが可能だと主張。一方、米側は、カナダ、中国、EU、メキシコによる報復措置について紛争処理パネルの設置を要請した。

紛争処理パネルの設置に向けた全ての要請は来月開かれる次回会合で当事国が確認してから手続きが進められることになる。

*見出しを修正しました。