民泊、店舗、貸しスペース。鍵の受け渡しはもう不要

2018/10/25
スマートロック元年とも言われる2015年、スマホアプリやパソコンから遠隔で鍵の開け閉めができる「スマートロック」が、複数企業から誕生した。

そのほとんどがコンシューマー向けの売り切り型商品を主力としたが、リクルートテクノロジーズは、サブスクリプション型と買い取り型の法人向け商品を開発。

常にブラッシュアップされるスマートロックのさまざまな機能は、導入企業が持つ業務システムとAPI連携でき、使い方を自由にカスタマイズできるのが特徴だ。

もともとは不動産業者向けに販売していたが、本体価格や月額利用料金が安価なため、最近では貸しスペース事業や民泊、店舗、会員制サービスなどから注目を集めている。具体的にどのようなプロダクトなのか。生みの親である、リクルートテクノロジーズ アドバンスドテクノロジーラボの菅原健翁氏に話を聞いた。

不動産向けスマートロックとして開発を開始

私は「IoT」を研究テーマに、さまざまなプロダクトを開発していました。その中の一つが、スマートロックのiNORTH KEY(イノースキー)です。粘着テープを使わずに固定できるシンプルなプロダクトで、企業が持つ業務システムと連携できるように開発しました。
これを2015年の研究発表会で発表したところ、多くの不動産管理会社などから「商品化してほしい」とお声をいただいたんですね。これだけニーズがあるなら、API連携できる法人向けのスマートロックを作ろうと、本格的な開発を進めました。
そこで、不動産管理会社の悩みやニーズをヒアリングすると、いくつもの課題が浮き彫りになりました。
たとえば物件の内見時、仲介会社と管理会社の間で発生する鍵のやりとりが煩わしい、スマートロックを使いたいけど簡単に取り付け・取り外しができない、鍵のサムターン(ドアの内側についている施錠・解錠用つまみ)は家によって違うので汎用性が欲しい、などです。
一般的なスマートロックは、一度ドアに取り付けたら外すことをあまり想定していないので、工事を必要としたり粘着テープで取り付けたりします。加えて、サムターンの形に合わせて別売りのアダプターを購入する必要もあるでしょう。
しかし不動産業界で使う場合は、空室になったら取り付けて、契約が決まったら取り外す必要がありますし、さまざまな物件のさまざまな形のサムターンに簡単に対応できないといけません。
そこで、磁石で簡単に設置でき、大きさや形が違うサムターンでもアダプターを必要とせず対応できる、汎用性を持たせたプロダクトを開発。ドアの内側につけるので、外側からは通常のシリンダー錠も使えて、万が一壊れても内側から手動で解錠できる簡単な仕組みにしました。
鍵とアプリはBluetoothでつながっているので、インターネット環境にあればアプリで操作ができますし、家の中に中継ボックスを置けば遠隔操作も可能に。これで、物件の管理や内見に関わる煩わしさを解消できました。
ただ、鍵側に汎用性を持たせても、スマホを持っていない管理者もいらっしゃいます。そこでフィーチャーフォン用のサイトを作り、スマホ以外でも簡単に鍵の操作ができるようにするなど、機能を拡張しました。

予約システムと連携、貸しスペースの鍵運用が簡単に

現在は、不動産管理だけでなく貸しスペースや民泊への拡大を進めています。これらの事業者がiNORTH KEYを導入する最大のメリットは、自社の業務システムと機能拡張を続けるiNORTH KEYのシステムをAPI連携できること。
たとえば会議室やスペースを貸している企業の場合、これまではWeb上で予約と決済はできていたのですが、鍵のやりとりだけは完結できませんでした。
そこで、予約管理システムとiNORTH KEYを連携させて、予約と連動した施錠管理までをサービスに盛り込んだのです。
これで、システム側で自動的に予約時間に解錠できますし、管理者が遠隔操作することも、利用者がアプリで操作することもできるようになりました。

民泊でよりシームレスに使えるよう機能を追加

こういった、物理的な鍵のやりとりが発生しない使い方は、民泊でも広がり始めています。
これまで民泊での鍵は、直接渡したり、ポストに入れたり、鍵を受け渡す代行を頼んだりしていました。スマートロックを使っても、ユーザー登録が必要など課題が多かったんですね。
一般的にスマートロックを使う際は、管理者が使いたい人を利用者登録して、権限を与える必要があります。でも、一度だけ利用する民泊で毎回利用者登録をするのは、管理者と利用者双方にとって大変な手間です。
そこで、iNORTH KEYは「権限」の概念をなくしました。
たとえば2泊3日の民泊なら、「鍵」として必要な期間だけ使える暗証番号を管理者が発番し、利用者はアプリに番号を入力するだけでその鍵を使えるようになります。番号はシステムで自動生成できますし、ID登録なども不要。
ホテルのカードキーのようなイメージですね。開け閉めの履歴は管理者画面に残るから、発番した番号でいつ開けたのか、現状はどうなのかもわかるので安心です。
もちろん、民泊の場合でも施錠管理を自社のシステム内に組み込んでしまえば、暗証番号を発番する必要はありません。現在、暗証番号を発番して使っている方の多くは、予約システムを持たない個人オーナーの方々。
ネットや電話などで予約を受け付け、その場で暗証番号を発番して伝えれば、これまで課題だった鍵の受け渡しに悩むことなく、スマートな運営が実現できるのです。
このほかにも、海外からの旅行者が来日して、スマホがインターネットにつながっていない状態でも使える機能を追加したり、アプリを多言語化したりするなど、シームレスに使える鍵として開発を続けているところです。

業務に浸透するiNORTH KEY

不動産から始まり、貸しスペース、民泊と広がってきたiNORTH KEY。
飲食店などの店舗や人数の少ないスタートアップ、プライベートジムや会員制ゴルフ練習場、訪問介護や家事代行、ベビーシッター、ペットシッターといった方々からも、たくさんのニーズをいただくようになりました。
たとえば飲食店などの店舗では、「鍵を持つ店長がいないとお店を開けられない」という話をよく聞きます。店長は鍵の複製リスクを気にして、従業員に鍵を渡さないケースが多いんですね。
そういった場合でも、iNORTH KEYを使えば、店長が特定の人だけに使えるようにしたり、また使えなくしたりをシステムで簡単に設定することが可能になるのです。
本体をシンプルにしたからこそ、システム側で機能拡張がいくらでもできるiNORTH KEY。事業者ごとに鍵の使い方や考え方は違うので、それぞれに合った機能を開発することで、より使いやすいプロダクトへと進化させたいと思っています。
(取材・文:田村朋美、写真:岡村大輔、イラスト:國弘朋佳)
iNORTH KEY お問い合わせ先
TEL:0570-006004
(受付時間: 月〜金 10:00〜17:00)
Email:key-info@mail.inorth.jp
(受付時間: 24時間 365日)