[ドバイ 19日 ロイター] - サウジアラビアの反体制記者ジャマル・カショギ氏がトルコのサウジ領事館を訪問後に死亡した事件を巡り、欧米の多くの金融機関トップや政府高官らが今週サウジで開催される経済投資フォーラム「未来投資イニシアチブ」の参加見送りを決めた。

西側としてはサウジの政治リスクが高まっていることを改めて認識させられた形で、長期的に同国の外資誘致や脱石油依存に向けた改革の取り組みを損なう要素となりかねない。

欧米企業は今後、サウジとの新規事業の大半を手控える公算が大きい。同国と取引することで生じる悪評や、欧米政府が何らかの制裁を発動した場合に対象になる事態を懸念しているためだ。

これらの企業によるサウジへの投資だけでなく、サウジの政府系ファンド「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」の海外投資もストップするかもしれない。

ユーラシア・グループの中東問題責任者Ayham Kamel氏は「ほとんどの西側企業は、カショギ氏の事件を踏まえてサウジ向け事業の見直しを迫られるだろう」と語った。

もっとも新規事業凍結の動きは、数カ月もすれば下火になる可能性がある。多くの西側企業にとって、サウジに保有する権益はあまりにも大きく、同国との縁を完全に切ることはできない。

例えばブラックロック<BLK.N>のラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は、未来投資イニシアチブへの欠席を表明しながらも、長年築いてきたサウジとの関係自体は維持するとの考えを示した。

キャピタル・エコノミクスのシニア新興国市場エコノミスト、ジェーソン・ダビー氏は「特に米国がカショギ氏の事件についてサウジ政府による幕引きを後押ししているように見える点を踏まえると、年が明ければほとぼりは冷め始めるだろう」と述べた。

トランプ米大統領は、米国とサウジの安全保障面の関係を守り、サウジへの多額の武器売却も続けると強調。ハント英外相も、カショギ氏殺害報道が真実なら全く容認できないと発言しつつ、英国はサウジと戦略的な関係にあり、英国の行動はその点を「配慮する」と付け加えた。

このためダビー氏などの専門家は、制裁が発動されたとしてもサウジの痛手は小さいと予想する。最も話題になっているのは、米国が人権問題に関わった人物のビザ発給停止や資産凍結を行うことだ。もしカショギ氏死亡に責任があると判明した何人かのサウジ人にそうした制裁が科されても、サウジ経済に重大な悪影響は及ぼさない。

この事件が落着すれば、PIFの案件に伴う手数料収入目当てで西側の銀行が再びサウジにやってくるとの声も出ている。

ただサウジと西側の取引が通常の状態に戻ったとしても、カショギ氏の事件は同国への外国資本流入に影を落とし続けるだろう。

ペルシャ湾地域のあるバンカーは、ムハンマド皇太子が昨年汚職容疑で王族や企業幹部を一斉に拘束した際と同様に、カショギ氏の事件について外国の顧客から多くの問い合わせを受けたと説明。「イエメンへの武力行使、カタールとの断交、ドイツやカナダとの関係緊迫化、女性活動家の逮捕といった過去の問題が積み重なり、サウジでは衝動的に政策が決まるとの印象が強まり、投資家を心配させている」と指摘した。

またサウジが米政府の大規模な制裁を免れても、米議会は同国にあまり肩入れしないという態度を続ける可能性があり、そうなると原油価格を巡って石油輸出国機構(OPEC)加盟国に独占禁止法を適用する法案が復活してもおかしくない。

サウジ国内に目を向けると、カショギ氏の事件でムハンマド皇太子の権威が揺らぎ、政情が不安定化したり、財政赤字削減などの改革のスピードが落ちるのではないかとの観測も聞かれる。

ムハンマド皇太子は汚職取り締まりと改革を掲げて多くの国民の支持を集めた半面、こうした動きで打撃を受けた一部の王族や企業関係者がカショギ氏の事件をきっかけに反撃を仕掛ける事態があり得る。

リヤドのあるバンカーは「経済と社会の改革に向けて過去1年間実施されてきた努力が全て水の泡にならないかと気をもんでいる」と打ち明けた。

(Andrew Torchia、Hadeel Al Sayegh記者)