「つながり」を可視化するテクノロジーで組織シナジーを生む

2018/10/12
 ビジネスパーソンに欠かせない、「人とのつながり」。この無形の資産を可視化するテクノロジーがさまざまな形で生まれ始めている。
 個の人脈を組織として共有し活用する仕組みや、組織内のつながりをポジティブに強化する仕組みが、テクノロジーによって実現し始めている。
 例えば、元祖ビジネスSNSであるLinkedInは、ビジネスのコンテクスト上において、つながりを可視化し、新たなキャリアパスや新たなビジネス創出の可能性を広げた。
 一方で、新たに登場したサービスであるUniposは、「ピアボーナス」と呼ばれる少額のボーナスで示す“感謝”を媒介にして、組織内にポジティブな人間関係を生み出している。
 こうした「つながり」を可視化するテクノロジーの進化は、組織シナジー拡大の方法論をどう変えていくのだろうか。
「釣りバカ日誌」はもはや普通のこと
 世界中で5億を超える登録ユーザーを誇り、 ビジネス特化型SNSとしての地位を確立しているLinkedIn。
 同じ業界の人や情報とつながることのできるLinkedInだが、組織マネジメントにどう応用できるのか? 日本代表の村上臣氏に聞いた。
──SNSが急速に人々の生活に取り入れられていますが、テクノロジーの進化によって、ビジネスにおける「人脈」のあり方はどのように変化しているのでしょうか?
村上:「人脈」の捉え方は人それぞれだと思いますが、私は「無理難題を聞いてもらえる関係」というイメージを持っています。「俺たちの仲だから、今回は泣いてくれよ」と言える関係ですね。
 そういった人脈を広げるためには、一定のコンテクストを共有する必要があります。だからこそ、従来は学閥や財閥といった “村的な”関係が人脈のベースとなってきたのでしょう。
 こうした人脈のあり方は、戦後の一括採用・終身雇用ともリンクしていて、ピラミッド型組織の頂点に近ければ近いほど強い人脈を持てるという構造を作り出していたと思います。
 ところが、今はリアルなネットワークを飛び越えて人脈を広げられますよね。たとえば新入社員がSNSを通じて社長クラスの有力者とつながっているケースもある。これは以前では考えられなかったことです。
村上臣(むらかみ・しん)/LinkedIn日本代表。在学中に仲間とともにベンチャー企業、有限会社電脳隊を設立。2000年8月に株式会社ピー・アイ・エムとヤフー株式会社の合併に伴いヤフー株式会社に入社。「Yahoo!モバイル」の開発などに従事。執行役員 CMO(チーフ・モバイル・オフィサー)としてインターネットと携帯通信事業の双方に関わった後、2017年4月から現職。
 考えてみると、漫画の「釣りバカ日誌」は、万年ヒラ社員の主人公が趣味の釣りを通じて社長と密につながるところに、「そんなことあるわけないだろ!」という面白さがありましたよね。でも今はそれが普通になりつつある。
 こうした変化の中で従来型の組織マネジメントを続けていると、個人のつながりが持つ可能性を潰すことになるかもしれません。逆に、個人のつながりをいかに共有し、いかに活用するかを考える必要が出てきています。
 今は組織としても各社員が持つネットワークに目を向ける意識が見受けられ、大学などの組織がインフルエンサーマーケティングを活用する事例が出ているのも、その表れではないでしょうか。
「ビジネスとSNSの関係」を仕切り直す
──海外に比べて、日本ではオンラインは「匿名」、リアルは「実名」というような風土が根強く、SNSで実名公開することに抵抗がある人も少なくありません。
 これは地理的・文化的なものだと思うんですが、「名刺」がはやっている地域って結構狭い箇所に多くの人が集まっていると思うんですよ。
 例えば中国の都市だったり、香港やシンガポールだったり。会おうと思えばいつでも会えるくらいの距離感において、コンパクトで必要な所属情報が詰まっている「名刺」はメタ情報として一番便利だったんですね。
 一方で物理的に会うのが難しい地域、例えばヨーロッパだと国が違ったり、アメリカでも西海岸と東海岸ってかなり遠いですから、オンラインで会う機会が多い。要するにテレカン文化ですね。
 すると、自分のアイデンティティをどんどん開示しようとなって、実名で情報量の多いレジュメをオンラインで公開することが広まった。その違いはあると思いますね。
 ただ、日本もFacebookが出てきたことが大きなインパクトでしたよね。それまでもリアルでは気軽に「名刺交換」をして実名を出してきたわけで、あまり変わらないよねという空気になってきた。
──SNSの影響力をポジティブに活用している企業もありますが、逆に大手を中心に「業務利用禁止」とする企業もあります。
 異業種交流会などで知らない人にバンバン名刺を渡しているのに、オンラインになった途端に警戒する現象は興味深いですね。
 ただ、こうした警戒心は、「SNSがビジネスで役立つ」という実感がより根づいていくことで変わっていくはずです。実際、今は電子メールが機能しなくなってきており、SNSで仕事のやり取りをすることが増えています。人によってはSNSがないと仕事にならない場面も出てきている。
 こうした状況を踏まえると、ビジネスとSNSの関係をまた新たに仕切り直してもいいと思います。私としてはここにLinkedInをはじめ、新しいテクノロジーのチャンスを感じます。
──LinkedInには「転職のために利用するもの」というイメージがあります。
 たしかに、LinkedInの日本版ができた2011年当時は、転職ツールの色が強かったです。今でもそのイメージから、「上司にLinkedInのアカウントを知られたくない」という意見もありますが、実はプロダクトの中身は大きく変わっています。
 転職に役立つ面も変わらずありますが、それ以上に今のLinkedInは「人をつなげ、機会とつなげるプラットフォーム」になっています。たとえば、各自の関心のある業界に合わせた新しい情報がフィードに流れますから、自分自身のスキルの振り返りに役立てることもできるでしょう。
 投稿するときも、フィードのアルゴリズムを工夫しているので、同じ業界の人に情報が浸透しやすい。だからビジネスの機会も生まれやすいんですよね。同業というコンテクストの中で発信できることが価値になっていると思います。
組織が個のネットワークを活用する意義
──なるほど。企業アカウントの投稿もLinkedInを使えばコンテクストに合う人に浸透しそうです。
 そうです。LinkedInのプロダクトのひとつに「Elevate」がありますが、これは企業アカウントの投稿を各社員が加工してシェアできる、いわば「シェア支援ツール」です。
 一般的に、企業の公式アカウントから情報を投稿しても、それほど読まれませんよね。「はいはい」という感じで流されてしまう。ところが、そこに少しでも個人のコメントを乗せて、人の顔が見える投稿になると、パーソナルストーリーとして捉えられるので、非常にパワフルになります。
 ただ、かといって社員に情報発信を完全に委ねてしまうと、何を投稿したらいいのか分からないでしょうし、伝言ゲーム状態になってしまう。ここでElevateを利用すると、デフォルトの投稿は企業が作成し、それを社員がアレンジするので、情報の質を確保しつつオリジナリティを加えられます。
 あとはSNSのネットワークはどこまでも広がっていきますから、社員がみなでElevateを使うとかなりの波及効果が期待できるでしょう。このように、社員一人ひとりのネットワークを、組織として活用する動きが出てきているのです。
 そういえば、以前私の投稿にLinkedIn本社のCEOが「いいね」をしたことがあったのですが、そのときは20万ビューに達しました。私自身のネットワークは2000人程度ですから、SNSの強力なパワーを感じましたね。
──企業側も、さまざまな「つながり」の特徴を適切に捉える必要がありますね。
 SNSのレイヤー化はますます進んでいます。Twitterが「趣味や関心」を扱い、LinkedInはビジネスに特化している。そしてFacebookには両者が混在していますよね。そこに名刺を介したリアルな人間関係もあります。すべてのレイヤーに特性があるのです。
 「バーチャルYouTuber」も出てきている現代ですから、さまざまなレイヤーにおいて個人や組織のキャラクターをいかにマネジメントするかが、今後ますます問われることになるでしょう。
「第3の給与」が生むつながり
 「Unipos」は、“感謝”を媒介にして社員のモチベーションを高めるサービスを提供する。そのカギとなるのが「ピアボーナス」だ。
 ピアボーナスとは、感謝の気持ちとして送られる少額のボーナスだ。Uniposを導入すると、ピアボーナスを社員同士で簡単に送り合うことができ、それが給料に反映される。
 さらに社員同士でピアボーナスを送るやりとりはタイムライン上で共有され、このやりとりに共感した人が「拍手」を送りピアボーナスを付加できる機能も備えている。
 Uniposはどのような世界観を描き、こうしたサービスを手がけているのか。代表取締役の斉藤知明氏に聞いた。
見えにくい貢献をピアボーナスが可視化
──Uniposを導入することで、組織内にどのような変化が期待できるのでしょうか?
斉藤:私たちUniposは、組織内の“見えにくい貢献”にスポットライトを当てることを命題にしています。たとえば、バックオフィスで働く人たちの貢献はビジネスに欠かせないものですが、その成果は外からは見えにくいですよね。
 でも、バックオフィスの人と直接やり取りをする機会があれば、「ありがとう」と言う場面があるはず。この感謝をピアボーナスとして送ると、その場にはいない社員にも見えるようになるんです。
 そうすると、社内で協力し合う雰囲気ができるなど、良い効果が期待できます。
──貢献が見えることで、人事評価にも影響がありそうですね。
 そうですね。従来、上司と部下が1on1で面談するとき、「これができていなかったね」というネガティブ・フィードバックになりがちですが、Uniposで部下の日頃の行動を知ることができれば、褒めるきっかけになります。部下としても上司が見てくれていることを感じれば、心理的安全性も高まるはずです。
 そもそも、日本では褒める文化が希薄なことも私は気になっています。海外で高評価の商品が、日本では低評価というケースもよく見られます。もっといい面に目を向けてもらうためにも、Uniposがひとつのきっかけになってほしいと思っています。
斉藤知明(さいとう・ともあき)/Unipos代表取締役。東京大学卒業後、2015年にFringe81にエンジニアとして入社。自社の組織課題の解決のために始めた施策をベースに、新規事業として「Unipos」を立ち上げる。2018年から現職。
──ピアボーナスは従来の基本給や成果給とも違う、「第3の給与」と位置づけられていますが、これはなぜでしょうか?
 ピアボーナスはインセンティブを与える仕組みではありますが、成果給に代わるものとは考えていません。営業職のように成果が数値で見える職種であれば、やはり成果給がインセンティブになると思います。営業職は社内にいないのでピアボーナスがつきにくいでしょうし。
 ですから、基本給と成果給にピアボーナスを加えることで、社内全体として適切なインセンティブを用意することができると考えています。
ハッシュタグで社員の得意が際立つ
──組織のシナジーを拡大する上で、Uniposの仕組みはどう活きてくるのでしょうか?
 たとえば、社内の人同士って「名刺交換」しないじゃないですか。社内で誰と誰がつながっているかは見えていなかった。つまり、社内の人脈ほど、実は可視化されていなかった。
 そこで、ピアボーナスのやりとりが社内のタイムラインで共有されることで、部署の垣根を越えて社員の行動や人となりを知ることができ、そこから個と個がより強くつながったり、新しいつながりができるなど、組織シナジーが生まれることが期待できます。
 Uniposは「ハッシュタグ機能」も備えているので、たとえば、ある人への感謝の投稿に「#エクセルマスター」というハッシュタグをつけると、「エクセルで困ったらこの人に相談しよう」という認識が社内に広まりますよね。
 そんな感じで社員の得意分野が可視化されると、“お願い”をしやすい雰囲気が社内にできます。
──Uniposのハッシュタグには、「組織の行動指針」とひもづけるという活用法もあるようですね。
 そうなんです。組織シナジーを生むには行動指針の浸透もとても大事だと思っていますが、会社の行動指針って、抽象的であいまいですよね。私たちも、「Do」「Dive」「Deep」という3つの行動指針がありますが、言葉だけでは理解が難しい。
 でも、社内の誰かの行動を見て、「これはDiveだな」と思えば、「#Dive」というタグをつけてピアボーナスを送ることができる。これを繰り返していくと、行動指針に関連する実例が蓄積され、自然と浸透していきます。
 しかもピアボーナスがつくので、行動指針に合った行動にインセンティブを持たせることもできます。
 これは、会社に対する帰属意識を生みますので、直接的には離職率を下げる効果も出てくるはずです。現代は転職しやすい環境になってきているので、だからこそ金銭以外に、会社にいる体験の価値を高めていくことが求められています。
“ギブ”のハードルを下げ、価値を高める
──Uniposを導入すると、社内にすごくポジティブなやりとりが行き交いそうですね。
 導入企業の方からよく聞くのは、「社内に笑顔が増えた」という声です。昨今はSNS疲れも話題になっていますが、「疲れたときにUniposを見てホッコリする」という話も聞かれますね。これは、やりとりしているのが「情報」というより、「気持ち」の側面が強いからかもしれません。
 Uniposを使うと、簡単に「感謝のお返し」ができることがやはりポイントです。お願いするにしても、逆にギブするにしても心理的なハードルが下がりますから。
 私は、良い評価を得る人は「ギブ」から入っているイメージがありますが、実際にギブにより人脈が広がり、成果につながることは少なくないはずです。ギブに対する感謝が可視化されることがインセンティブになって、「ギブの習慣」が育つといいですよね。
 今、Uniposは社内向けのツールとして使っていただいていますが、いずれは会社を超えて社内外をつないでいきたいと考えています。そうすれば、組織と組織をまたいだより大きなシナジーが生まれ、もっと社会にとって大きな変化が起こせるはずだと期待しています。
(取材・編集:呉琢磨 構成:小林義崇 撮影:岡本大輔)