自律走行する家庭用ロボット「テミ」はアマゾン・エコーを超えるか

2018/10/2

AIを搭載した家庭用ロボットの失敗

ここのところ、AIを搭載した注目のロボットの失敗がいくつか明らかになっている。
有名な開発者が手がけたのに、あるいは有名な大企業がバックについていたのに、そして何よりも期待が大きく人々が楽しみにしてきたのに、である。
その一例が「ジーボ」というソーシャルロボットだ。
MITの有名教授が発案し、ソーシャルロボットに関して長年行ってきた研究を元にしている。音声認識や顔認識もでき、相手に合わせてしゃべるといったこともできるようになっていた。卓上に置けるサイズで、上下が別々に回転しておちゃめな動きも生み出せる仕組みだった。
ところが、じっくり開発をしている間に「似て非なる」ではなく「似ていないのに同じようなことができる」製品が市場を席巻してしまった。アマゾン・エコーである。
アマゾン・エコーはただの円柱型で動きもしない。だが、ジーボがやろうとしていた会話ができる。別にロボットの形をしていなくても構わないという消費者がほとんどで、エコーが人気を得ていく中、価格が何倍もするジーボの存在感は薄れていってしまったのだ。

「フォームファクター」という課題

テクノロジー業界では「フォームファクター」という表現が時々出てくる。特定の機能があったとして、それにどんな形を与えるかという課題だ。
AI搭載型の家庭用ロボットは、このフォームファクターで数々失敗を重ねてきたように思う。ジーボもそうだったが、独ボッシュのスピンアウトが開発していた「クーリ」というロボットもそうだ。
こちらは言葉で話すことこそないが、可愛い声で反応する。そして、卓上から動けなかったジーボとは違って、車輪を持ち、家の中を動き回る。主な機能は家の中の警備だった。
このクーリも、いくら動き回ってもアマゾン・エコーの元では魅力がくすんだ。話しかけてもキューキューと返答するだけ。エコーと比べて姿は可愛いが、これでは相手にならないのだ。
動かないジーボも、動くが言葉で返事をしてくれないクーリも、機能に対するフォームファクターの失敗だろう。
ところが、ここへ来て「ちょっと期待できるのではないだろうか」と思えるロボットが登場した。イスラエルで開発されている「テミ」というロボットだ。
わかりやすく言えば、テミはスクリーン付きのアマゾン・エコーが動き回れるようになったものだ。
AIアシスタントであり、音声で操作してビデオ会議をスタートすることもできる。もちろんスクリーンの上にエンターテインメントコンテンツを呼び出して、映画やテレビを見ることもできる。IoT製品をコントロールすることも可能だ。

1500ドル、家庭に1台いれば機能は十分

そのうちエコーのスキルのようにいろいろなアプリを稼働させて、ベース機能以上の楽しみ方ができるようになるらしい。
要はアマゾン・エコーができることはほぼ全てできる上に動き回れるわけだが、それも自律走行する。つまり、自分で障害物を避けて目的地へ向かったり、呼びかければこちらへ向かって来たりする。
この手のロボットはそのうち家の中の部屋も見分けるようになるので、「キッチンへ来て」と言えばその通りに従うかもしれない。
テミが期待できると感じるのは、その機能とフォームファクターとタイミングがぴったりだからだ。アマゾン・エコーのアプローチは、エコーを複数買って各部屋に置いてほしいというものだが、それはそれで面倒臭い。その代わりにテミが1台いれば、用が済むのではないか。
しかも価格も悪くない。基本価格は1500ドルと、ちょっと高めのコンピューター、例えばアップルのマックブックくらいの値段だ。その値段でスクリーンも兼ね、ビデオ会議もでき、話しかけられて、家の中の警備にも役立つということならば、お得だ。
というわけでちょっと期待している。ただし、これもホームロボット開発がうわさされるアマゾンが「走るエコー」を発売しなければ、という前提である。
*本連載は毎週火曜日に掲載予定です。
(文・写真:瀧口範子)