[上海/北京 21日 ロイター] - 中国はこの数週間、弱い経済指標や米中通商紛争の激化にもかかわらず人民元相場の安定維持に成功しており、市場では中国人民銀行(中央銀行)が今後数週間以内に再び預金準備利率(RRR)を引き下げるとの観測が高まっている。

人民銀が実際にRRRの引き下げに動けば、中国政府の政策の優先度合いが変わり、この数年進めてきた金融機関の借り入れやリスクを圧縮する取り組みと、成長促進が同じ扱いになったことが浮き彫りになりそうだ。

人民銀は流動性を供給し、特に景気減速で経営が厳しくなっている中小企業への貸し付けを銀行に促すため、今年に入ってRRRを計3回引き下げた。

前回引き下げを発表した6月末以降、米中通商紛争が激しくなり、人民元の対ドル相場は6%以上下落した。

しかし中国当局は8月に人民元安に歯止めをかけるべく市場に介入し、資本規制を強化。その後は通商紛争が激化しても人民元相場は概ね安定を保ち、当局は人民元への売り圧力を高めずにRRRを再度引き下げるのは可能だと自信を深めているとアナリストはみている。

エコノミストなど市場関係者は、次のRRR引き下げは今月か10月の公算が大きいとみている。

ANZ(上海)の市場エコノミスト、デービッド・クー氏は「RRRは10月にさらに50ベーシスポイント(bp)引き下げられるだろう」と述べた。

引き下げ幅の予想は50bpから100bpで幅がある。

華宝信託(上海)のエコノミストのニー・ウェン氏は「全般的に銀行セクターの借り入れ圧縮は終了した。市中銀行は安定し、コストの安い資金を手に入れたいと望んでいる」と述べた。

中国は今年春に米国との通商紛争が激化する前から財政・金融政策の軌道修正に着手していた。借り入れコストの上昇と高リスク融資への締め付けが投資や経済活動の重しになっていたためだ。

政府は道路や鉄道などインフラプロジェクトの承認ペースを加速。さまざまな手段で流動性を供給し、資金調達コストを引き下げた。

アナリストの間で今は、中国が2015年末の政策金利引き下げのような強力で広範な金融緩和策を導入することはないとの見方が大勢だ。中国経済は明らかに減速しているものの、これまでのところ米中通商紛争に対して概ね耐性を示しており、来年は大型建設プロジェクトが立ち上がって景気を下支えし始めるからだ。

市場関係者の間では、人民銀には2016年2月のような全面的なRRR引き下げを行う心構えはまだなく、最も打撃を受けやすい企業や地方に資金を流し込む、的を絞った対応策を採るとの見方が出ている。

マッコーリーの大中華圏経済ヘッドのラリー・フー氏は「今のRRRは高すぎる。引き下げれば普通の水準に戻るだろう」と述べ、9月か10月の50bp引き下げを予想している。

2015年と16年のRRR引き下げでは、資金の一部が経済活動に回らず、投機に使われたことが分かった。以来、人民銀は金融緩和の手法を手直しし、中期貸出制度(MLF)など公開市場操作の利用を増やしている。

しかしアナリストによると、人民銀は一部の大手銀行が資金を抱え込んで大手行間で取引し、中小の銀行や企業には流動性が回らないという以前からの問題に直面している。

OCBC銀行(シンガポール)のエコノミストのトミー・シー氏は「中業企業の資金繰り支援を最優先課題と考えるなら、そのためにはRRR引き下げが最も効果的だ。ただ、中国が緩和を進めすぎれば人民元売りの圧力が再び高まるかもしれず、中国はこうしたジレンマについて慎重に検討する必要がある」と指摘した。

(Winni Zhou記者、Kevin Yao記者)