昔ながらの産業におけるいくつかの小規模企業は、オートメーション化を採用し、将来に向けて従業員教育に何十万ドルも費やしている。

人間の従業員と「自動化」の意味

従業員にロボットが含まれるのは当然という、いくつかの産業がある。たとえば物流や製造など、競争が激しく、効率が求められる企業を経営するには、いくつかの工程をオートメーション化する必要がある。
それでも、こうしたオートメーション化が人間の従業員にとって何を意味するのかという問題に悩まされている経営者もいる。
オートメーション化を採用した小規模企業は、いまだに人間の従業員が必要なだけでなく、特定のスキルセットを持つ人間が必要であることに次第に気づき始めている。
マッキンゼー・アンド・カンパニーによる2016年のレポートでは、62%の企業幹部がオートメーション化に伴い、今後5年以内で従業員の4分の1以上を再教育または入れ替える必要があると回答した。
今日の厳しい雇用市場において、適切なスキルを持つ人員を妥当なコストで見つけることは難題だ。
ハーバード・ビジネス・スクールのジョセフ・フラー教授(専門は管理業務)によれば、多くの企業はいま、こうした課題に適切に対処するべく、既存従業員の再教育に投資し、次世代の従業員を育てている。「自社(の従業員)を育てたほうがベターだ」とフラー教授は言う。

「頭脳を使う労働に変化」に対応する

理論上は良く聞こえるが、実際にはどのように機能するのだろうか。そして、どれだけのコストがかかるのだろうか。Inc.ではその答えを見つけるために、従業員再教育のまっただ中にある企業数社に話を聞いた。
コロラド州エドワーズにあるシンビア・ロジスティクス(Symbia Logistics)のミーガン・スミスCEOは、生産性向上のため、1600箇所ある自社の流通センターに最新テクノロジーの導入を拡大してきた。
これまでの5年間で、シュリンク包装マシンやベルトコンベヤー、自動式プリンターだけでなく、仕分け・解体ロボットも流通センターに整備してきた。成長するeコマースビジネスに対応するためだ。
「身体を使う労働から、頭脳を使う労働に変化してきていると言える」とスミスCEOは話す。オートメーション化により、かつて従業員が作業していた仕分けと塗装業務から「ほぼすべての肉体労働」をなくすことができた。
スミスCEOは、25歳のときに父親からシンビア・ロジスティクスを受け継いだ。2009年のことだ。そのとき同CEOは、従業員に対して「キャリア」以上のものを与えたかったという。従業員たちが6カ月よりも長く、会社に在籍したいと思ってほしいと望んだのだ。
スミスCEOは具体的な離職率は明らかにしなかったが、同社を継いだときには「人がただ入れ替わっている」状態だったと話した。そのため、持続可能なチームを築くことを最優先にしたという。
同社は、全社的に給料を10%から15%増やしたり、仕事の肩書きをより排他的でない性格のものに変えたりした(たとえば「journeymen(日雇い職人)」を「熟練工」に変えた)。さらに、技術者たちをオートメーション研修に送り込み、トラブルシューティングやロボット修理を学ばせている。
数カ月後には、監督者向けの無料のオンラインコースを公開する予定だ。製造品質に関するデータ分析などの新しいスキルを学べるコースだ。同社の従業員のほとんどは大学卒ではないと、スミスCEOは話す。
スミスCEOは2016年以来、35万ドル以上を再教育に投資してきた。資金は主に、トレーニングマニュアルの書き直しと特定のコース作りに費やされた。
これまでのところ、トレーニングや構造改革を実施した流通センターでは、従業員の雇用維持に関して20%から30%の改善が見られたと、スミスCEOは話している。

高校生向けの研修プログラムを実施

一方、オハイオ州ヒックスヴィルにあるAPTマニュファクチャリング・ソリューションズ(APT Manufacturing Solutions)は、同社が必要とするハイテク人材を若いうちから育てることで、将来に向けて備えている。
同社の仕事は、他の製造業者が組み立てラインをオートメーション化するのを支援することであり、ロボット的な装置を組み立てて設置している。
アンソニー・ナイズワンダー社長は、毎年新たに満たす必要がある雇用数はおそらく約20人に上ると話す。従業員候補者のプールを拡大するため、同社は2015年、高校生向けのオートメーション研修プログラムを開始し、翌年には見習い実習プログラムを始めた。
高校生たちは2学年にわたって、毎日午後に電気工学やオートメーション組立、ロボットプログラミングを学ぶ。そしてその後、続けて見習い実習プログラムを受ける資格を得られる。この実習プログラムは、コミュニティカレッジの単位にカウントされる。
現在、トレーニングプログラムでは9人が学んでおり、40人が見習い実習プログラムに進んだ。たとえば、続けて同社の機械工となった場合、毎年6万ドルの報酬を得られる。約4年前は、同じ役職でも報酬は約3万5000ドルだった。また、ロボットを使って始めるのではなく、一から部品を組み立てていた。
「彼らは大学に行かなかったために、ある種、見下されてきた時期がある」とナイズワンダー社長は話す。「しかし、彼らなしではアメリカは生き延びられない」

再教育は決して完了しない現実も

ナイズワンダー社長はスミスCEOと同様に、正しいトレーニングと高い給料を提供すれば、離職と新規雇用を延々繰り返す状態を抑制できると確信している。現在APTの従業員数は140人であり、離職率は10%から14%だ。
しかし、どちらの経営者も従業員教育への投資の厳しい現実についてはほとんど語っていない。従業員教育には、かなり大きな変革が必要だ。
ナイズワンダー社長は、高校生プログラムや見習い実習プログラム、ロボット研修に年20万ドルを費やしているという(この額には、オハイオ州ディファイアンス郡経済開発部門からの初期投資3万ドルは含まれていない)。
同社長の場合、全トレーニングが終了した後に学生がキャリアパスについて心変わりしてしまうリスクもある。
テクノロジーの進化が速まるなかで、再教育は決して完了しないという現実もある。スミスCEOは将来、拡張現実と視覚認識の技術を従業員に身につけさせたいと話すが、さらなる大規模投資には慎重な姿勢だ。
スミスCEOは「たくさんのチャンスがあるが、不透明なリスクにも数多く直面している」と話した。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Michelle Cheng、翻訳:新多可奈子/ガリレオ、写真:EtiAmmos/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.