「技術による先進」を追求するアウディが描くモビリティ戦略

2018/10/12
 アウディのフラッグシップモデルである『Audi A8』『Audi A7 Sportback』の新型発表を記念したイベント「Audi A8/A7 Sportback Japan Launch Premium Night」が9月5日に開催された。
 会場は華やかな雰囲気に包まれ、ハイブランドが開催するパーティーといった趣だが、もちろんそれだけではない。随所に、アウディらしさがちりばめられていた。
イベントには、アウディ ジャパンのフィリップ・ノアック社長も登場。『Audi A8』『Audi A7 Sportback』の先進性を自らプレゼンした。右はドイツのアウディ本社から訪れたエクステリアデザイナーのアマール・ヴァヤ氏
 ここでのアウディらしさとは、「先進性」だ。会場は主役である『Audi A8』『Audi A7 Sportback』が引き立てるプロジェクションマッピングで彩られ、未来感が演出されている。
 NFCタグが埋め込まれたリストバンドをプレゼンターにかざすことで、壁に大きく動画として車両情報が表示される仕組みだ。
NFCタグが埋め込まれたリストバンドをプレゼンターにかざすと、『Audi A8』の後ろには機能を解説する動画が流れる
 今回のイベントが、プレミアムブランドにありがちな華やかさだけでなく、先進性を想起させる趣向に富んだ理由は、『Audi A8』『Audi A7 Sportback』の位置付けにある。
 この2台は、「Vorsprung durch Technik(技術による先進)」を具現化したクルマなのだ。
 「Vorsprung durch Technik」は、ロゴマークにも記されたアウディの企業理念だ。日本では「技術による先進」と訳されるこの言葉は、アウディの父と呼ばれるアウグスト・ホルヒ博士が残した。
 「Vorsprung(先進)」には、現状に満足せずもっと高みを目指すという意志が込められているという。
 その理念通り、さらなる高みを目指した『Audi A8』『Audi A7 Sportback』は、アウディの持てる技術が惜しみなく投入された。そして、その技術とコンセプトからは、アウディが見据える未来の方向性を読み取ることができる。
会場には、スマホのように操作できる新しいユーザーインターフェイスを採用した『MMIタッチレスポンス』が展示されていた。10.1インチのアッパー、8.6インチのローワーの2画面からなり、車内のさまざまな機能を操作できる
 自動車業界は、100年に一度といわれる激変期の真っただ中だ。そのなかで、アウディはどういった未来を目指すのか。アウディジャパン プロダクト&リテールマーケティング部の石田英明部長と、マーケティングコミュニケーション部の藤井隆行部長に話を聞いた。

アウディの未来──「デジタル化」「都市化」「持続可能性」

──ドイツでは既に販売されている『Audi A8』『Audi A7 Sportback』が、日本でもお披露目されました。まず、アウディにとっての日本市場は、どのような位置付けなのかを教えてください。
藤井 マーケットの大きさでいえば、北米や中国ほどの規模はありません。それでも、世界でトップ10に入る重要な市場です。
 しかし、それ以上に重要視しているのは、国産自動車メーカーが持つ独自性からの学びです。
 燃料電池といった新技術の開発やサプライヤーとの強いつながりなどは、ヨーロッパのメーカーとは一線を画します。ガラパゴスとも言われますが、参考にすべき部分も多い。
アウディ ジャパン マーケティングコミュニケーション部の藤井隆行部長
石田 国産車メーカーが国内シェアの約95%を握っている国は日本くらい。海外メーカーからすると、そのビジネスモデルは常に気になっています。市場を分析する面でも、重要な位置付けだと思っています。
アウディ ジャパン プロダクト&リテールマーケティング部の石田英明部長
──重要視するマーケットだけに、「Audi A8/A7 Sportback Japan Launch Premium Night」も力を入れたイベントでした。会場に入るところから趣向が凝らされており、トンネル状になった入り口では壁の全面にさまざまな映像が流れて驚かされました。
藤井 あれは、ラグジュアリーセダンである『Audi A8』の室内からインスピレーションを得た趣向です。『Audi A8』は、静的なイメージで内面を意識した作り。車内はサンクチュアリ(聖域)で、乗り込むと精神的な開放感が味わえます。
 キャッチコピーは「心の響くまま」。イベントの入り口はこの聖域をイメージしました。1人しか通り抜けできず、投影される映像も毎回異なります。
 一方、『Audi A7 Sportback』は、スポーティーな4ドアクーペです。動的なイメージで、ダイナミックでアクティブ。自由に疾走してどこへでも行けるし何者にもなれる。キャッチコピーは「自由をどう使うか」です。
 アウディは2025年に向けた企業戦略「Audi.Vorsprung.2025」を発表しています。ここでは、3つの方向性への対応が示されていますが、『Audi A8』『Audi A7 Sportback』は、それらを具現化したクルマです。
 そういった意味では、アウディの未来にとって大きな意味をもつ一台と言ってもいいでしょう。
会場にはトンネル状の入り口を抜けるとたどり着く。トンネルに入る際、NFCタグが埋め込まれたリストバンドを壁面のセンサーにかざすと、壁全面に映像が流れる仕組みだ
──「Audi.Vorsprung.2025」で発表された、アウディの未来を示す3つの方向性を教えていただけますか。
藤井 「Digitalization(デジタライゼーション/デジタル化)」、「Urbanization(アーバニゼーション/都市化)」「Sustainability(サステナビリティ/持続可能性)」です。
「デジタライゼーション」は、デジタルの力によって生み出されるビジネスモデルや顧客体験。スマホから利用できるカーシェアリングやコネクテッド機能は、ここに入ると思います。
「アーバニゼーション」は、自動運転に代表される都市の移動に適したモビリティの考え方。「サステナビリティ」は環境を考えたCO2の削減。その答えのひとつが電動化です。
 この3つの戦略に基づいて、それぞれを融合させる。それこそ、アウディが見据えるモビリティの未来です。

指定の場所へデリバリーする「Audi on demand」

──デジタルの力によって生み出されるビジネスと言えば、シェアリングエコノミーもそのひとつ。アウディジャパンも「Audi on demand(アウディ オン デマンド)」を手掛けています。ハイブランドであるアウディがカーシェアリングを手掛ける強みはどこにあるのでしょうか。
石田 確かに、レンタカーやカーシェアリングのマーケットは、俗にいう大衆車でサイズもコンパクトなクルマがシェアの大半を占めています。しかし、みんなが小さくて安いクルマを借りたいわけではないはずです。
 では、なぜ大衆車が中心なのか。それは、ひとえにプレミアムブランドが腰を上げなかったからだと思います。つまり、需要側ではなく、供給側に問題があった。
 もし、既存のカーシェアリングサービスがプレミアムブランドを扱わないなら、我々が自ら提供すれば面白いのではないかと考えました。
「Audi on demand」のオペレーション自体は、特に目新しいものではありません。ただ、都心部ならば指定の場所にデリバリーする仕組みは、お客様に支持されています。
 国内では東京のみのサービスですが、観光や出張で来たタイミングで空港や東京駅にデリバリーを依頼されるケースも多いですね。『Audi A7 Sportback』の貸し出しも始まりました。
「Audi on demand」は世界9カ国で実施。スマホなどでオンライン予約すると、指定エリアならコンシェルジュによる受け取り・返却サービスが可能。返却時のガソリン補充も必要ない
──アウディのユーザーが「Audi on demand」に流れてしまう恐れはありませんか。
石田 これはあくまで私見ですが、「所有から使用へ」による需要の変化は止められないでしょう。世界的にみれば、多くのプレミアムブランドがカーシェアリングサービスに進出しつつあります。
 アウディがやらなければ、ほかのプレーヤーに持っていかれるだけ。そうならないために、魅力的なサービスを提供する必要があります。
──「魅力的なサービス」という表現がでましたが、アウディは「モビリティサービスプロバイダーを目指す」と公言しています。
石田 アウディは移動手段としてのクルマを超えて、モビリティを未来にわたって提供していくという決意のもと「Audi is more」というコンセプトを掲げています。「モビリティサービスプロバイダー」も「more」のひとつです。
──「モビリティサービスプロバイダー」は、フォルクスワーゲンも使う表現です。アウディも同じグループ企業ですが、すみ分けなどはあるのでしょうか。
石田 グループ内にはフォルクスワーゲンを始めとして、ポルシェやベントレー、ランボルギーニもあり、それぞれの役割もあります。
 しかし、「モビリティサービスプロバイダー」への移行は、電動化やコネクティビティと同じく世の中の流れ。それぞれのブランドが、個別に取り組むべきことだと考えています。
 都市部では、シェアリングエコノミーの普及に伴い「所有から使用へ」の流れは避けられません。そのなかで、アウディはどのようなソリューションを提供できるのか。答えのひとつが「モビリティサービスプロバイダー」への進化であり、最初の取り組みが「Audi on demand」です。

新型Audiは自動運転への転換点

──「アーバニゼーション」と紐付く自動運転ですが、『Audi A8』『Audi A7 Sportback』は、「世界初となるレベル3の自動運転を実現することができる技術を搭載」したことで大きな話題となりました。レベル3とは米運輸省が定める「条件付き自動運転」ですが、現在は法律の関係で運転支援機能の「レベル2」までしか認められていません。
石田 『Audi A8』『Audi A7 Sportback』も、日本での提供は「レベル2」の自動運転です。しかし、自動運転に必須のコア技術が搭載されています。その技術とは、「LIDAR(ライダー)」です。市販車として世界で初めて両モデルに搭載しました。
 赤外線照射することで前方約80m、角度約145度まで検知。周囲の環境を3次元マップとして取得できます。この「LIDAR」に、カメラ、中長波ミリ波レーダー、超音波レーダーを加えて、合計23個のセンサーを搭載しています。
2019年以降には、LIDARで路面状況を3次元スキャンして凹凸を先読みし、乗り心地を調整するサスペンション技術を導入するという
 結果として『Audi A8』『Audi A7 Sportback』は、洗練された「レベル2」へと格段に進化しました。
 正直、市販車への「LIDAR」搭載は、かなりぜいたくだと思います。しかし、アウディは「Vorsprung durch Technik(技術による先進)」という企業理念のもと、先進技術をいち早く搭載することで、高みを目指し続けてきました。
──その高みの先には、完全自動運転があります。アウディは、昨年開催されたフランクフルト・モーターショーのプレビューイベントで、完全自動運転のコンセプトカー『Aicon(アイコン)』を公開しました。
石田 アウディは、自動運転によってドライバーに生まれる時間を「25時間目」と定義しており、その活用方法も研究しています。『Audi A8』『Audi A7 Sportback』は「レベル3」の自動運転を可能にする技術が搭載されていますが、その目的は時間を有効に使ってもらうためです。
『Audi A8』『Audi A7 Sportback』は、『Aicon』が実現するための進化過程。一見するとこれまでのクルマと同じかもしれませんが、完全自動運転が実現したときには、転換点として語られるクルマになるでしょう。
──3つの方向性の最後となる「サステナビリティ」に紐付く電動化はどうでしょうか。
藤井 全世界の主要市場において、12の電気自動車を発売し、電動化モデルの販売台数を全体の約1/3にすることを目指しています。これには、EUのCO2規制が関係しています。
 EU内で販売するクルマは、2030年に2021年の目標値に対して3割のCO2削減が求められます。
 その中間目標として、2025年に2021年の目標に対して15%削減しなくてはいけませんが、達成できなければ莫大な違約金が発生します。そのため、電動化は避けて通れません。アウディの電動化モデルの多くも、EV(電気自動車)となります。
──9月17日には、アウディ初の量産EVとなる『Audi e-tron』が発表されました。
『Audi e-tron』は、スポーツ走行も家族連れのレジャーも楽しむこともできるSUV。EVだが運転する楽しさを追求して開発された
藤井 『Audi e-tron 』はアウディの電動化攻勢、その先兵となる位置付けです。特長のひとつが、1回の充電で400km以上という長距離航続。95kWhという大容量バッテリーの搭載と革新的な回生エネルギー技術の採用で実現しました。
 回生エネルギー技術では、減速時のエネルギーを電気エネルギーに変換します。『Audi e-tron 』は、最大300Nm、220kWの電力を回生することができ、航続距離に対する貢献度は最大30%に及びます。
石田 技術面では「ヴァーチャル・エクステリア・ミラー」の採用もトピックス。サイドミラーの代わりにカメラを設置し、車内の有機ELディスプレーで周囲の状況を確認します。
 また、デジタル化では、Amazonの音声認識ソフト「Alexa(アレクサ)」を搭載しました。車載インフォテインメントシステム「MMI」とシームレスに結合しているので、スマートフォンを使わず、車内から「Alexa」の機能を利用できます。
『Audi e-tron 』は、米国カリフォルニア州サンフランシスコで開催された「The Charge」で発表された。会場には船で赴く趣向で、空にはドローンが作ったアウディのフォーリングスが浮かび、会場の外観はプロジェクションマッピングで彩られた。アウディ初のEV発表にふさわしい近未来感が演出された
──アウディの未来である、「デジタル化」「都市化」「持続可能性」は、まさに、「技術による先進」によって実現するものだと感じます。
石田 今後も新技術の開発は続きます。しかし、アウディの代名詞である「quattro」(フルタイム4WDシステム)のように、突き抜けたエポックメイキングな技術は生まれにくいのも事実です。今後は、新開発したさまざまな技術を組み合わせながらの進化になるでしょう。
 今は、100年の歴史を持つクルマにとって、あり方自体が問われている大変革期。さまざまなコンセプトカーや考え方も発表されています。それらからすると、『Audi A8』『Audi A7 Sportback』は、大きく進化していないように見えるかもしれません。
 しかし、モビリティのあり方が大きく変わった未来では、「あのときからアウディが変わった」と思ってもらえるはず。それだけ先進的な技術を搭載したクルマです。例えば「LIDAR」などは、「あの頃からすでに搭載されていたんだ」と言われるかもしれません。
藤井 私たちのお客様はトラディショナルではなく、プログレッシブなマインドをお持ちの方々。だからこそ、『Audi A8』『Audi A7 Sportback』の先進性が支持されているんです。
 同じ価値観を持つ人なら、必ず気に入ってもらえるブランドなので、ぜひ乗ってほしいですね。きっと、高級輸入車ではなく、アウディが欲しいと思ってもらえるはずです。
(取材・文:笹林司 編集:呉琢磨 撮影:岡村大輔)