【ゆうこす×石川×村上】目の前のボールをすべてチャンスと思えるかが勝負だ

2018/9/21
自由に働くというのは、その分、先が見えないということでもある。どんな人でも予想もしていない転機を迎えているものだ。8月30日に虎ノ門ヒルズで行われた「CAMP NIGHT 2018」。CAMPのキャプテンのはたらクリエーティブディレクターの佐藤裕がモデレーターとなり、星空の下でトークセッション第2部を開催。活躍のフィールドの異なる、菅本裕子(ゆうこす)氏、石川直宏氏、村上臣氏の3氏が、「人生の分岐点との向き合い方」「キャリアの切り替えで変えるべきこと、変えないこと」をテーマに議論をする。
佐藤 今回のテーマはキャリアの分岐点、キャリアチェンジへの向き合い方です。それぞれやっていることも世代もまったく違う、個性あふれるお三方のお話を聞いていきたいと思います。
ゆうこす モテクリエイターのゆうこすこと、菅本裕子です。2011年にHKT48に第1期生として加入、アイドルをやっていました。1年で脱退してニートも経験しています。イベントに3人しか集まらなかったことをきっかけに、「これからは本当に好きなことで生きていこう」とSNSで自己プロデュースを始めて、モテクリエイターと名乗るようになりました。
モテクリエイター。ニックネームはゆうこす。1994年生まれ。アイドルグループを脱退後ニート生活を送るも自己プロデュースを開始し「モテクリエイター」という新しい肩書を作り、自ら起業。現在はタレント、モデル、SNSアドバイザー、インフルエンサーとして活躍中。10〜20代女性を中心にその影響力は絶大。SNSのフォロワー100万人以上。近著に『SNSで夢を叶えるニートだった私の人生を変えた発信力の育て方』。
 2016年に起業して、モテクリエイターとしてSNSや生配信、コラム執筆やイベント開催をするほか、コスメブランドのプロデュースも。あと生配信で自分を語るLiverの育成やマネジメント、旅とファッションとライブコマースをかけ合わせたタビジョンというサービスもやっています。
石川 FC東京クラブコミュニケーターの石川直宏です。高校卒業後、プロサッカー選手になって、FC東京では16年間プレーしてきました。昨年、選手を引退。引退後、自分がやりたいことをいろいろ思い浮かべる中で、FC東京クラブコミュニケーターという、これまでにない形の仕事に就くことになりました。今は、クラブとお客さまをつなぐため、幅広く活動をしています。
元サッカー日本代表・FC東京クラブコミュニケーター。横浜マリノスジュニアユース→ユースを経て2000年Jリーグデビュー。2002年、FC東京へ移籍。2003年から2004年にかけてはアテネ・オリンピックを目指すU-22日本代表とA代表に。度重なるケガを乗り越えてファンを魅了し続け、2017年に引退。現在はFC東京クラブコミュニケーターとしてクラブの発展に尽力しながら、メディアや講演など幅広く活動をしている。
村上 私は世界最大のSNSでもあるLinkedIn日本代表をやっています。もともとは学生時代にモバイルサイトの開発ビジネスを起業。新卒で野村総研に就職するのですが、結局、ベンチャーに戻ります。その会社がヤフーに買収されたことで、2000年にヤフーに入社。ヤフーやソフトバンクで17年間働いて、去年の11月に今の会社に転職しました。
LinkedIn日本代表。大学在学中に仲間とともに有限会社「電脳隊」を設立。その後統合したピー・アイ・エムとヤフーの合併に伴い、2000年8月にヤフーに入社。一度退職した後、2012年4月からヤフーの執行役員兼CMOとして、モバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月にLinkedInの日本代表に就任。複数のスタートアップの戦略・技術顧問を務めている。
 LinkedInは外資系のグローバル企業ですが、僕は留学経験も海外在住経験もゼロ。本当にまっさらな状態で外資系に転職して、キャリアチェンジをしている真っ最中です。それから、本業はLinkedInですが、ほかのベンチャーの顧問やアドバイザーもやっているパラレルワーカーです。働き方改革という観点では時代の最先端の働き方をしていますね。
佐藤 前回の「肩書きはジブン」のセッションに引き続き、モデレーターは、CAMPでキャプテンを務めている私、佐藤が担当させていただきます。
キャリア教育支援プロジェクト「CAMP」キャプテン・はたらクリエイティブディレクター。これまで3万人以上の学生と接点を持ち、2017年には、年間216本の講演・講義を実施。アジア各国での外国人学生の日本就職支援なども行う。文部科学省留学支援プログラムCAMPUS Asia Programの外部評価委員。パーソルホールディングス株式会社グループ新卒採用統括責任者、パーソルキャリア株式会社新卒採用責任者。

伸びている領域に飛び込む勇気

佐藤 まずはズバリ、「あなたにとって転機とは?」というテーマでみなさんの経験を教えてください。これから訪れるさまざまな転機、分岐点をうまくキャッチできる人もいれば、スルーしてしまう人もいる。自分にとっての分岐点をうまく捕まえるヒントを伺えたらと思います。
村上 僕は大学1年生のときに、現在ヤフーCEOの川邊健太郎と一緒に携帯電話のモバイルサイト開発のベンチャーを立ち上げました。一緒にヤフーに入ったのに、彼は社長、僕は途中で飽きちゃって辞めるという、両極端な人生ですが(笑)。
 僕の学生時代は、インターネットブームでホームページ制作の依頼がたくさんあって、すごく儲かったんですね。当事の起業は、今と違ってすごくハードルが高く、有限会社で300万円、株式会社で1000万円の資本金が必要。それでも、税金対策をしなきゃいけないほど儲かっていたので、何の目的もなく会社をつくったというのが、正直なところです。
 でも、そういった流れの中にいたことこそが、すごい転機だった。つまり、「伸びているところにいると、チャンスがどんどんやってくるよ」ということなんです。
 成熟した市場の中にいるよりも、次のwillがいっぱいある。伸びそうな熱い領域に、勇気を持って飛び込みさえすれば、なんとかなるんです。そういった伸びそうな領域で、自分が興味を持てる何かを見つけられるのがベストですね。
佐藤 伸びそうなマーケットをキャッチするには、アンテナが必要ですよね。どういうアンテナを立てておけばいいですか。
村上 NewsPicksを熟読すればいいんじゃないんですか(笑)。これは半分冗談で、半分本気ですけど。特に若いうちは、ひたすらつまみ食いして、全部食えという感じですよね。
 今は、インターネットで情報が取れるので、目立っている起業家やリーダーみたいな人で、気になる人をどんどんフォローしていけばいい。そういった先端を行っている人はアンテナがびんびん立っているので、その人の発言や行動を追いかけていれば、自然と伸びる領域が見えてくるはず。その中で、自分に合いそうなものを深掘りしていけばいいんじゃないですか。

夢が目標に切り替わる瞬間

石川 僕にとっての最初の分岐点は、Jリーグができたときですね。1993年、僕は小6だったんですが、国立競技場のスタンドでJリーグ開幕を生で見ていたんです。そのときにパーンってスイッチが切り替わって、絶対Jリーガーになるぞって。
 夢が目標に切り替わった瞬間が自分でもわかったんです。そこから逆算して、プロになるためにどうしたらいいのか考えて、ひとつひとつチャレンジしてきました。
佐藤 学生時代に、プロは無理だと言われたことがあると聞きました。
石川 そうです。僕にとってサッカー選手として一番苦しかったのは、中高時代。身長が伸びるのが遅くて小柄だったので、自分のイメージするプレーがなかなかできなかった。プロという目標があるのに、自分がそこに近づいている気が全然しないんです。
 そういった中で、目の前に訪れる小さなチャンスや転機をつかんで全力でチャレンジすることを繰り返した。例えば、自分と同じポジションの選手がケガをしたら、空いたポジションにベンチの自分が入ります。そのときに、「ここで絶対に結果を出す」という強い思いで、ピッチに立つ。
 結局、自分にとってネガティブなことが起きているときが、転機なんですよね。そこをチャンスとしてつかめるか、そのための準備をキッチリしているか。苦しいときほど、「この先に必ずチャンスがある、そういう景色を見たい」というモチベーションで、いろんな壁を乗り越えてきたように思います。
佐藤 モチベーションを保ちながら、チャンスに向けて常に準備する。その根っこにあるのは、目標とか夢ということですか。
石川 最初はそうですね。誰になんと言われようと、オレはこの道に進むという強い思い。それが、プロとしてキャリアを重ねていく中で、だんだん変わってきた部分はあります。自分だけで乗り越えるというより、周囲の応援してくれる人たちにもっと喜んでもらいたいという気持ちが強くなってきた。

「私って何?」。自問自答を繰り返す

ゆうこす 私にとっての転機はアイドルを辞めて、100人規模のイベント会場に3人しか来てくれなかったことです。それをきっかけに始めたSNSが、今の自分につながっています。
 アイドル時代はツイッターとインスタグラムしかやったことがなくて、SNSと言われても、誰とどうつながっていいかもわからなかった。「ランチなう」みたいな個人的なことを発信するだけでは、どんどんファンが減っていく一方だったんです。
 3人しかファンがいなくなって、これじゃダメだ、SNSの使い方を変えよう、って。もっとコアな熱量の高いファンに支持してもらうにはどうしたらいいのか、SNSを研究したんです。
 肩書きなんかなくて、有名人じゃない人でもたくさん「いいね!」やリツイートをされている。それって何なんだろうと思ったら、共感ポイントだったんです。共感ポイントに訴求できる人は、人を集められるし、仕事にもつなげている。
 私みたいなインフルエンサーとか芸能界にいる女の子って腐るほどいて、その人たちと同じことをしていてはダメなんですね。いい意味でとんがるためにもSNSで自分の本当にやりたいこと、必要な人に共感してもらえることを発信していこうと決めたんです。
 そのために、「私って何だ?」みたいなことをノートにいっぱい書き込んで、自問自答を繰り返したんです。その結論が「モテ」。モテたいってことだったんです。こうやって振り返ると、3人しかイベントに来てくれなかったことが、自分にとってはすごくいい転機になっていると思います。

起きたことは受け止めて、どうするか考える

佐藤 その転機をどうやってチャンスに変えるのか、その「キャリアスイッチ」の方法を聞いていきたいと思います。気持ちの切り替え方、自分にとっての成功や失敗を教えてください。
石川 サッカー選手にとって、ケガは大きな転機ですが、そういったときこそ自分にできること、そのときしかできないことをとことん考えるようにしていました。
 僕は苦しいことも楽しいことも、全部素のままに出てしまう。ゆうこすさんが共感と言ってますが、僕の場合も、自分のプレースタイルに共感して応援してくれる人たちがいる。そこに気づいたときに、自分をさらけ出すことが自分の生きざまであり、キャリアを歩む上でのキーになっていると思うようになりました。
ゆうこす SNSで発信している人にとって、失敗というのはないんですよね。失敗とか乗り越える、乗り越えないっていうのも、ある意味、ネタのひとつ。失敗だって、ポジティブに発信してしまえば、むしろプラス、みたいな。だから、失敗しちゃっても、私はラッキーって思うくらいです。
 その代わり、悲しかったことやつらかったこと、怒ったことも、自分の言葉で相手に届くような言葉で書かなくてはいけない。

過去は変えられない。次をどうするか

村上 起きた過去は誰にも変えられないですよね。ただ、起きたことを認めて、受け止めて、次に何ができるんだということはいつも考えています。
 マイナスのできごとにのまれるのではなく、どうリカバーするのか、もしくは新しいことを始めるのか。常に先を見て、何ができるかをひたすら考える。それが自分なりのやり方です。
ゆうこす 起きたことは変わらないけれど、今の自分の捉え方で過去のありようも変わってきますよね。

ポジティブでもネガティブでも、全部受け入れる

佐藤 最後に学生へのエールも込めて、「転機をチャンスに変えるコツ」についてアドバイスをお願いします。ぜひ、3人のチャンスのつかみ方を教えていただきたいですね。
石川 「起こる事は全て善き事!」ですね。
 現役時代、ケガや移籍など、いいこともそうじゃないこともたくさんありました。それを自分の中で消化するのは本当に大変です。それを乗り越えるのにどうしたらいいか考えたときに、全部「善き事」にしてしまえばいいんだって。
 目の前で起きていることがポジティブでもネガティブでも、全部受け入れる。そのうえで次に自分に何ができるのかを考えることが重要です。そうやって自分にとっていい形に変えたうえで、自分を納得させる。
 そうしたら、苦しかったことも自分にとってはマイナスじゃなかったと思えるようになりました。
 それを続けて形にしてきたことが、今の自分の力になっている。乗り越えた先の景色を知っているというのが、大きな強みになっています。
村上 石川さんと丸かぶりで、びっくりです。僕のアドバイスは「来たボールは全てチャンス!」です。サッカーはボールが来なければシュートにならないし、野球はバッターボックスに立たなければ何も生まれない。
 基本的に転機って、その舞台に立てたというだけで、すでにチャンスなんです。それをどう生かすか、見送るかは自分次第。
 そこでどれだけ真剣に考えて挑むかだし、それが次につながっていく。そう考えると、ネガティブな転機っていうのは、実はあまりないんじゃないかと思いますね。

失敗のほうがエモい

ゆうこす 私の転機をチャンスに変えるコツは、「全てエモく」です。「エモい」って、相手の感情をぐっとつかむような、エモーショナルなものという意味。いいことだけじゃなくて、ネガティブなこと、つらいこと、悲しかったことも、自分でエモく人に伝える。それができれば、もはや失敗ではなくてプラスですから。むしろ失敗のほうがエモいと思っています。
佐藤 3人とも肩書きやブランド、会社という枠にはまらず、自分自身が「枠」になっているのが強みです。そこに身を置くことで、出会いやチャンスを拾っているのでしょう。
 学生のみなさんにも、一度、自分自身の枠をつくってみるというような意識改革ができれば、そこからいろんなボールが飛んでくるのではないでしょうか。すでにボールはたくさん来ているのに、気づいていなくて蹴れていないということもありそうです。
 少しの意識改革が、さまざまなボールを拾うきっかけになる。そんな考え方のヒントがたくさんあったトークセッションでした。
トークセッション終了後は、登壇者たちと参加した学生たちの懇親会も行われた
(編集:久川桃子 構成:工藤千秋 撮影:稲垣純也 デザイン:國弘朋佳)
【正能×豊田×牧浦】人材ではなく、人物になろう