日本人の働きがいは低下している。なぜ、職場は「つらい場所」になってしまったのか。この問いに解はないかもしれないが、変革の一手を仕掛けようと、ビジネスを立ち上げている企業がある。適性検査SPIからスタートし、クライアントの経営・人事課題の解決を40年以上支援し続けてきた人事コンサルティングファームである、リクルートマネジメントソリューションズだ。
同社は、これまで培ってきた技術・ノウハウを世の中のあらゆる企業に提供し、企業理念に掲げる”個と組織を生かす”を実現すべく、新たなHR tech/Ed techサービスの開発に取り組んでいる。その背景や同社が実現したい世界について、代表取締役社長である藤島敬太郎氏が語った。
藤島 敬太郎 
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 代表取締役社長
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。株式会社リクルート映像入社後、HRR株式会社(現リクルートマネジメントソリューションズ)に転籍。
人事戦略構築、ビジョン浸透、リーダーシップ開発・組織開発など、多岐にわたるコンサルティングを経験。その後、グローバル人材マネジメントなどのソリューションサービス開発責任者として従事。研究開発・コンサルティング・事業開発機能統括する執行役員を経て、2018年4月に代表取締役社長就任。

私のマネジメント失敗談「セオリーがわかっていても、良いマネジャーにはなれなかった」

私がまだマネジャーになりたての頃、マネジメントのセオリーは十分わかっているつもりでしたが、具体的に今日から、明日から、何をどんな順番で手をつけていけばいいのか、本当に暗中模索でした。また、プレイヤーとして、もっと戦闘力を高めたい時期だったので「何で、俺がマネジャーなの?」という想いも重なり。そんな状態で組織をマネジメントしていますから、メンバーの心がどんどん離れていきます。挙句の果てには「藤島さんはこの組織をどうしたいんですか?」とグループ会でメンバーから問われる、いや詰められる(笑)。これが、私のマネジャー人生の始まりでした。
私と同じようにマネジメントに失敗してしまうミドルマネジャー(中間管理職)の方は、少なくないはずです。昨今、テクノロジーの進化により、職場に来なくても、何の支障もなく働くことができるようになってきています。加えて、様々な雇用形態や、副業推奨など働く人も多様化。AIやRPAで単純業務の負荷軽減は徐々に進みつつありますが、ミドルマネジャーの負荷はむしろ増していくばかりです。

私が実現したい世界「日本で働く人たちが、みな明るく前を向いて職場に通勤する社会」

マネジャーが悩み、苦しみ、うつむいていたら、職場だってつらい場所になってしまいます。そんな職場に明るく出勤できる人なんていないですよね。マネジャーがマネジメントに悩むのではなく、楽しみながら、メンバーとコミュニケーションがとれれば、イキイキ働ける職場は増えると思うんです。青臭いかもしれませんが、「日本で働く人たちが、みな明るく前を向いて職場に通勤する」、私は本気でこんな社会を実現したいと思っています。
当社が実施した調査によれば、実際にそういった職場を求める人はとても多いことが分かっています。働く個人を対象に意識調査を行ったところ、回答者の実に9割が、職場で「自分らしく振舞いたい」と回答しました。しかしながら、「自分らしさ」を職場で自由に表現するのは簡単ではありません。実際に振舞えているか?との問いに対して、自分らしく振舞えていないと答えた人が、一般社員層では4割にのぼります。
同調査において、自分らしく振舞えてないと感じる理由は、「意見が言えない」「本音が言えない」「尊重されていない」といったものでした。一方、「心理的安全性」の必要度に関する別の調査においても、約8割のミドルマネジャーが「職場における自分の考えや感情を安心して気兼ねなく発言できる雰囲気の必要性」を認識しています。
職場を変えていく核となるのは、ミドルマネジャーです。職場に変化を起こすアプローチは多数ありますが、私たちは彼・彼女らのマネジメント支援を通じて変化を起こすアプローチを得意としています。労働人口減少に伴う人材不足や、働く一人ひとりの働き方や価値観の多様化など、変化の激しいVUCAの時代で、未だかつてないほどに、ミドルマネジャーのマネジメント負荷が高まっています。今ほど、現場で孤軍奮闘しているミドルマネジャーを支援する仕組みが求められている時代はないのではないでしょうか。

マネジャーの日々に寄り添うことで、彼・彼女らの明日を変えたい

1960年に創業したリクルートが、採用広告事業に次ぐ2つ目の事業の柱として1963年にスタートしたのが人事測定事業、現在の適性検査SPI3の前身となるサービスでした。これが私たちの企業としての起源です。さらに1970年、新たな事業として私たちがチャレンジしたのが、現在の企業向けラーニングサービスの前身となる組織活性化事業です。特徴的なのは、人と人との相互作用の中で人は成長し、組織としての成果も生まれるという思想を、事業の根幹としているところです。この想いは、私たちの経営理念である「個と組織を生かす」という言葉に集約されています。
私たちは、これまで測定技術研究所、組織行動研究所、HR Analytics & Technology Labの設立など、アセスメントやラーニング領域の研究開発に対して積極的に投資。その研究成果をベースとしたアセスメントツールや研修、コンサルティングなどのソリューションサービスを提供してきました。これからは、それらのソリューションサービスに加え、私たちが培ってきた、“人の能力や特性、組織の状態を明らかにし、学びにつなげていくためのメカニズム”に最新のテクノロジーを掛け合わせたこれまでにないサービスを開発・提供していきます。
例えば、既に提供している「マネスタ」というサービスは、着任後間もないミドルマネジャーに対して、“ここからどうやって一人前になっていくか?”をシステムが伴走しながら支援するサービスです。日々直面する問題に対して、都度、どのようなマネジメント行動をとればよいのか、行動ログやサーベイデータ、他のマネジャーとの情報共有・交流を通じて、最適なマネジメント行動をとれるようになります。

ミドルマネジャーのマネジメントを日々に伴走しながら支援するモバイルラーニング

多くのミドルマネジャーが最初につまずくのが人の問題であり、メンバーのマネジメントです。代表的なのは、それまでプレイヤーとして優秀だったがゆえに 、マネジャーになった途端、メンバーと意識のすれ違いが生じてしまうケースです。
彼・彼女らに必要なのは、職場と自分の現実を、正しくとらえ直すこと。そして、マネジャーとしての自分が本来とるべき行動を知ることです。これは、マネジャー自身が独力でできることではありません。「マネスタ」は、職場が今どのような状態か。例えば、メンバーが組織の方針に納得しているのか、チーム内の人間関係は問題ないか、協力しあえているか。マネジャーとしての自分の振る舞いはメンバーにどのように映っているのか、など。捉えきることのできなかった現実を可視化。さらに、打つべき最適な一手を、適切なタイミングで提供します。
さらに、現在提供している「マネスタ」等のサービスは、私たちのHRプラットフォーム構想の入口に過ぎません。ミドルマネジャー自身の育成からはじまり、さらにメンバーの育成や、仕事・職場について率直に意見交換できる仕組みの提供など、ミドルマネジャーのマネジメント業務を支援するサービスを今後展開していきます。それらのサービスで、マネジャーたちがイキイキと働くことができれば、働きがいのある職場は増えていきますし、ひいては日本全体の働きがいにもインパクトを与えられると思っています。非常に難易度の高いプロジェクトですが、チャンレンジする価値はあると確信しています。
この構想の実現には、多様な人材が必要です。今、特に必要としているのは、社会に対して新しい価値を提供するために必要なサービスを企画するプロダクトマネジャーや、共に企画し、サービスを具現化するエンジニアです。
私たちと一緒にこの構想の実現にチャレンジしてくれる仲間を探しています。
(インタビュー・編集:伊藤秋廣[エーアイプロダクション]、写真:岡部敏明)