【中竹×岩政】「どうしましょう?」は禁止。部下を育てる質問法

2018/8/23
岩政 サッカー日本代表はロシアのワールドカップで、西野(朗)さんがボトムアップ式のチームづくりをしました。すべてを成功と言っていいのかわからないですけど、うまくいったところがあります。
サッカーでは日本の指導のやり方が変わってくるのかなという気配もありつつ、そこに難しさを感じる指導者もたくさんいるのだろうなと思っています。
【中竹竜二×岩政大樹】組織を成長させる「ゴール設定法」
今、ラグビーもそうだと思うんですけど、いろんな社会で「上と下」っていうものの関係性が変わりつつありますよね。
中竹さんがコーチングディレクターに就任されてからのこの8年、もしくはその前の指導のときからのスパンで変わってきているところを感じられますか。
中竹 私が指導者を始めた頃、自分で考えるとか、自走するとかってほぼ出てこなかったけれど、今では当たり前になっています。私はかなり早い時期から「フォロワーシップの組織をつくろう」と言い始めたんですけど、当然、就任初年度は多くの人から「意味がわからない」って言われていました。
でも、今はスポーツの世界でも普通に「フォロワーシップ」と言われているので、時代の流れがそうなってきているなと感じますね。

考えて自分の人生を歩もう

岩政 中竹さんが最初にフォロワーシップをやられようとしたときは、どういうきっかけで大事だと感じられたんですか。
中竹 私自身はたまたま昔からそのやり方がやりやすかったのと、特に日本社会においてはそれがあまりに軽視されていて、もったいないなと思っていました。いろんな組織でもみんな、結構考えてしっかりやっているのに、ただ引っ張るだけのリーダー型やトップダウンではなく、ボトムアップをやらないのかなという疑問を持っていました。
ラグビー協会でコーチングディレクターをやる前、早稲田(大学)で監督をしていた頃にフォロワーシップを導入したら、かなりはまったというのはあります。
岩政 早稲田の最初の頃、戸惑う学生たちもいましたよね?
中竹 はい。
岩政 我慢の時間があったのかなと想像します。
中竹 そうですね。これまで考えてきていなかったら、考えられないですよ。学生もプライドがありますから、自分が考えられなかったら人を批判するんですね。最初だから当然ですけど、「考えるのは監督の責任でしょ? あなたがやりたいラグビーを示してください」って。偉そうに言っているけど、私からすると「考えていないんだよね、君たちは」っていうところがあって。
でも、否定してもあまり良くないので、メッセージとしては、「今まで考えていなかったから考えることがド素人なので、これからちょっとずつ考えていって、自分たちで考えられるチームづくりと自分の人生を歩もうね」っていうアプローチをしました。当然、時間がかかると思っていたので。
そうなると、みんな、「いい考えを思い付かないといけない」ってなっちゃうわけです。「いきなり到達点に行かないといけない、考えないといけない」ってなるんですけど、まずは「自分で考えたことが偉いんだ」となるように。
このファーストステップからサードステップぐらいまでに、相当な時間を費やしました。

発想を出させる質問法

岩政 セカンドステップ、サードステップのあたりでは、どういうことに目を向けさせるんですか。「考えなさい」と言っても、わからない人たちじゃないですか。手掛かりをつかめると、ガンガン進んでいけるようになるんだと思うんですけど。
サッカーでもトップの選手、いわゆる代表クラスの選手たちは自分で考える習慣がありますが、そこに行けない選手たちはそうではない傾向があって。その子たちに「考えろ」と言うだけでは、やっぱり通用しないなってすごくよく感じていて。試合の中、あるいは練習の中で「こういうことを考えなさいよ」って具体的に言ってあげると、手掛かりがつかめるかなと思って接しています。
中竹 試合のミーティングをやるじゃないですか。普通のチームでは監督がビデオを編集し、「このプレーのときにはこうするんだよ」という感じでやります。
私の場合はストップをかけて、「この場面、どうしたらいいでしょう?」「この場面はこの後、どうなったか覚えている?」とか言って、とにかく質問して発言させる。質問しても、確信がないとみんな手を挙げないんですけど。
最初は「もう1回試合をやるとしたら、ここでどうする?」「本当はどうしたかった?」とか、正解を聞くのではない形で質問すると、みんな発言せざるを得なくなります。
それでもあまり意見が出なかったら、YESかNOで答えるような選択肢を示す。とにかく手を挙げたり、うなずいたり、しゃべる場面を何度もつくってあげるしかないです。
岩政 選手たちに正解を考えさせるのではなく、それぞれの発想をどんどん出させるっていう感じですね。
中竹 そういう仕掛けはいろんなミーティングで相当やりましたね。あとは、考えることの楽しさをすごく感じてほしいなと思いました。
これは結構当たったんですけど、相手チームになった気分で自チームの分析をします。例えば選手たちに対し、「君たちの半分は明治です。今シーズン、すでにうちは4試合やっている。練習は見ていない。この試合だけを見た明治の選手たちは、われわれ早稲田をどんなふうに分析しているでしょうか?」。
これが結構面白くて。選手たちもゲーム感覚で分析して、議論して、それに基づいてどう戦略を立てればいいかを考える。実際そうやって1回、負けたときがあったんです。帝京だったかな、ドンピシャで分析が当たって。
あとは選手だけではなく、女子マネジャーや主務もチームにとってすごく大事です。選手より、彼らとの個別のやり取りのほうが多かったですね。
例えば、夏休みのスケジュールや食事の手配、遠征をどうするか。このときにはっきりルールを決めたのが、「中竹さん、これ、どうしましょう?」っていう、ざっくり質問を禁止にしたんです。まったく考えていないし、僕からするといきなり質問されてもわからないし、私に相談するときは時間を取ってねと。
「どうしましょう」を禁止にすると、去年の例をちゃんと調べてきてくれるようになりました。「去年の合宿がこうだったんですけど、今年もこうでいいですか?」「今年、曜日がずれているので、ここからスタートにしましょう」「遠征経路はこうしますか?」とか、みんな私になった気持ちで考えてくれて、私はそれに対してOKか、そうじゃないかを言う。
選手たちもそうですけど、ざっくり質問をなしにすると、すべてオプションを考えた上で、「自分はこう思います」という意思を持って提案してもらうようにしました。
ビジネスでも同じように、部下に「どうしましょう?」って言わせたら、上司は駄目だと思います。
だから私が代表を務めているチームボックスでは「どうしましょう?」って聞かれたら、私も「どうしましょう?」って質問し返しています。

引っ張るより、引き出す

岩政 練習中の指示の出し方とか、選手たちのコミュニケーションの仕方で注意すべきだと思うことはありますか。
中竹 練習中にしろ、試合中にしろ、コミュニケーションの取り方は大きな問題だと思っています。かなり細かくやるし、結構厳しく言いますね。「このパスがどうだ」とかより、「ちゃんと議論したのか」と。
サッカーではあまりやる場面はないですけど、ラグビーではゲームが切れたときに、チームでパッと集まってパッと共有します。そのときには時間も計るし、円陣の大きさを写真に撮って、ちゃんと顔を見て話していたのか、チームトークが本当に機能していたのかを見ます。
あとはネガティブな要素ばかりではなくて、ちゃんといい要素や次につながる要素も話していたのか。コミュニケーションの内容の話から実際の形態の話まで、結構細かくチェックします。
岩政 いいチームは、どういう会話が多いですか。
中竹 試合や練習を重ねている中で、リーダーやキャプテンが1人でしゃべっているのは絶対に良くないですね。試合中にミスをして、点を取られて、「今のはこうしたほうが良かった」とリーダーが1人でしゃべっているのは、そこにコーチが行って選手を怒っているみたいですから。
現場の選手たちからすると細かい修正が必要なのにもかかわらず、コーチが怒っているのと同じ構造になると、次にいいプレーが起こるはずがありません。
岩政 選手たちを集めてみんなでしゃべらせようとしても、結局、何人かがしゃべる形になりがちですよね。上の子たちの接し方も大事なんでしょうけど、指導者としてはどういうふうに差し向けますか。
中竹 私が絶対にやるのは、リーダーグループをつくって、リーダーがちゃんと振り返ることです。最初はリーダーが引っ張っていきますが、シーズンが進むとチームトークでリーダーだけがしゃべっているのではなく、年下にしゃべらせます。重要なのは本音を引き出すことです。
ラグビーでは試合中、指導者はグラウンドの中に入れません。だからリーダーたちがいわゆるコーチ役になるというか、指導の“本当の在り方”が必要です。引っ張るというより、引き出すということをかなりトレーニングしていますね。

「日本らしさ」のつくり方

岩政 指導者たちと細かく接しながら、引き出す形をつくっていき、そこから指導者たちがそれぞれのオリジナルに帰っていくという形ですよね。
中竹 「オリジナルは絶対持ってほしい」と言っています。日本の大きな流れで言うと、構造的に、「日本らしさ」ってよく言うんですね。これは本当の代表監督がつくればいいだけの話で。
日本のラグビーにおいては、私が見ている世代で一貫指導と言われる、いわゆる19歳とか高校生レベルまでほぼ同じことをしています。しかも、それはスキルに特化します。体力づくりも含めて、ここは一貫して同じことをやらないといけない。
それで材料がそろったところで、どんなチームをつくりたいかを考えるのはヘッドコーチに任せます。高校日本代表のヘッドコーチにしても、毎年代わるので。だから素材を見て、自分の強みを生かしたチームづくりをやってもらいます。一方、こちらとして準備をする以上、代表監督がどんな人になろうが、同じことを一貫してやるという構造にしています。
岩政 同じことっていうのは、ある程度整理されたものですか。
中竹 基本的にはちゃんと走れて、飛べて、当たれてっていうストレングス&コンディショニングの部分と、動作の部分、つまり基本的なパス、ランですね。ちゃんと捕れて、ちゃんとパスする。サッカーで言うと止めて、蹴れるかっていうことです。それがなければ始まらないので。
岩政 プレー原則みたいなことをしっかり一貫してやるということですね。日本も広いですし、いろんな指導者の方がいますけれど、「一貫しましょう」って言うだけだと何を一貫すべきかわからなかったりもします。ここのバランスというか、するべきところとするべきじゃないところを定めてやっていくしかないと思います。でも大きい業界って、そうなりづらいんですかね?
中竹 担当者がちゃんといて、同じメッセージを出していけばできると思います。
日本ラグビー協会はサッカーほど規模は大きくないですけど、同じくらいみんな個性を持って、独自にやりたい。なかにはそっぽを向いている人がいるので、その人たちにちょっとでも響いて、「これをやったほうがいいな」と思わせられるように。当たり前と思っていたスキルに、「それ、実は本当の科学的な体のムーブメントからすると間違っている」っていうことがたくさんあるので、そういう場合は修正をかけてあげる。
そうしたチームが勝っていくと、過去の固定概念に基づいた理論が崩れていきます。だからいい情報を提供してあげて、そのうえで代表チームやユースが成果を上げていかないと、みんな「強くなった」と思ってくれません。
そういう意味では、ユースはすごく成功しています。今年3月にはアイルランドを破ったり、その前にはスコットランドを破ったり、着実に力を付けていて。高校、大学の人たちは、今、私が行っている一貫指導に共感してくれていると思っています。
*明日に続きます。
(構成:中島大輔、撮影:TOBI)