[東京 13日 ロイター] - 日銀は30、31日の金融政策決定会合に向けて、鈍い物価上昇の要因分析を進めている。その中で新たに示す「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、見通し期間の最終年度である2020年度物価見通しも、下方修正の必要性について議論される可能性が高まっている。複数の関係筋が明らかにした。

足元の消費者物価(除く生鮮食品、コアCPI)は、4、5月に前年比0.7%上昇までプラス幅が縮小するなど日銀の想定を下回って推移している。人手不足を中心とした日本経済の需給の引き締まりにもかかわらず、物価がなかなか上がらない要因について、日銀は集中的に分析を進めており、7月展望リポートで結果を明らかにする方向だ。

これまでの展望リポートでも、物価上昇の力が鈍い背景について、1)長く続いたデフレ経済の影響で、企業や家計のデフレマインドが根強く残っている、2)企業が省力化投資や過剰サービスの見直しなど生産性の向上によって、賃金コストの上昇を吸収している──などを挙げている。

こうした点に加え、日銀はインターネットを介した通信販売の拡大のほか、女性や高齢者を中心とした労働参加率の高まりなども、物価を抑制している要因として意識している。

一方、日銀内には足元の物価低迷は、年前半の円高・株安など一時的な要因が影響している可能性があるとの指摘もある。

ただ、時間の経過とともに低減するとみていたデフレマインドや生産性向上によるコスト吸収など物価押し上げを抑制する効果が、想定以上に長く存在し、企業の賃金・価格設定行動に大きな変化がみられていないとの見方も出ている。

このため、実際の物価動向の影響を受けやすく、物価2%の実現に不可欠なインフレ期待の高まりも、後ずれが避けられない情勢との見方が多くなってきた。

4月の展望リポートでは、コアCPI見通しについて18年度を前年比1.3%上昇(政策委員の大勢見通しの中央値)、19、20年度ともに同1.8%上昇(同)としたが、18、19年度は引き下げざるを得ないとの声が多い。

一方、20年度をめぐっては、19年度の見通し引き下げの影響を受け、小幅引き下げと、見通しを維持する声が混在しているようだ。

見通し期間の最終年度となる20年度の物価見通しを引き下げた場合、物価2%目標の実現に懐疑的な見方が金融・資本市場でさらに広がる可能性がある。それでも、景気拡大が続く中で、日本経済の潜在的な供給力と実際の需要の差である需給ギャップの改善を柱とした物価上昇の「モメンタム」(勢い)は維持されており、20年度の見通しを小幅引き下げても物価が2%に向かっていく姿は描けるとの見方が日銀内では多いもよう。

4月の展望リポートでは、それまで明記し続けてきた物価2%目標の達成時期を削除しており、物価見通しの下方修正によって達成期限にこだわらない日銀の姿勢が、より鮮明になる。

一方、さらなる金融緩和の長期化が意識され、金融機関収益や市場機能への影響など副作用に対する懸念が、市場で一段と強まる可能性もある。

(伊藤純夫 梅川崇 編集:田巻一彦)