Change.orgやフェイスブックで実践

ジェニファー・ダルスキーは長年、人々を団結させてきた。さまざまな社会的ムーブメントを広め、署名を集めることができる社会的企業「Change.org」では社長兼COOとして、社会の現状を変えるために立ち上がるよう人々に呼びかけてきた。
2017年にはフェイスブックにおける「グループ」機能の責任者になり、共通の関心を持つ人々を結びつけている。
だから同氏が、人々を巻き込むこと、動かすことをテーマにした本「『Purposeful: Are You a Manager or a Movement Starter?』(目的を持つ:マネージャーや社会運動を始める人のために)」を出版したことは意外ではない。
起業家や社会的ムーブメントのリーダーは支持者を駆り立て、ビジョンを確信させる。そして、お互いや自分自身を信じさせる。多くの力を集結させるため、個人のニーズや夢に注意を向ける。
ダルスキーは、これまでグーグルやヤフーなどの企業で働いてきた経験から、従業員の士気と役割への満足度を最大限まで高めるため、さまざまなツールやテクニックを開発、採用してきた。最近行われたあるインタビューで、それらのいくつかを説明している。

1. モチベーションのカスタマイズ

ダルスキーはヤフーでマーケティングチームを率いていたとき、あることを知った。ある女性が率直に「評価や賞罰には興味がない」と言ったときのことだ。この女性が成果の見返りとして求めていたのは、ただ給与が増えることだった。
「まったく予想していなかった」とダルスキーは振り返る。「もし彼女がはっきり言ってくれなければ、私は彼女の動機も自分と同じだと判断し、間違った方法をとり続けていただろう」
個人の動機を知る唯一の方法は本人に尋ねることだと、ダルスキーは結論づけている。
そこで生まれたのが「モチベーション円グラフ」だ。従業員に対して、真っ白な円が書かれた紙を渡し、自分の優先事項で構成される円グラフをつくってもらうのだ。たとえば、60%が個人の成長、20%が評価、20%が給与といった具合だ。
「『注目を浴びることが動機になる』など、ときどき珍しいことを言う人が現れる」
次は、現在の満足度に応じて、円グラフを色分けしてもらう。自分の動機づけに関して、会社が十分に役立っていると感じている場合は緑。不十分と思っている場合は、黄色。大きく不満を感じている場合は、赤だ。
ダルスキーによれば、従業員が正当な報酬を得ていないと感じている場合は、給与の割合が高くなるという。金銭的なニーズが満たされたら、主な動機は、目的、成長、コネクションに変わる。
「人々は、自分が重要な任務に関わっているかどうか、そのなかでの役割は何かを知りたがる」とダルスキーは話す。「彼らは、尊敬できる人や信頼できる人、楽しく過ごすことができる人と一緒に働きたいと考えている。さらに、学んでいる、成長している、力を試されていると実感したがっている」

2. 意思決定の明確化

人々に力を与えることが重要だと言われているものの、物事を前進させるにあたって関わる人々が無力感を覚える場合がある。ダルスキーは経験則として、従業員は職務上求められる決断の90%を自分で下すべきだと考えている。
ダルスキーの場合は、権限レベルについて話し合う際の共通言語をつくるため、上述の色分けされた円グラフを用いている。緑は、自分で下すことのできる決断。赤は、承認を必要とする決断。黄色は、権限が不明確な決断を表す。
ダルスキーは、この「90:10ルール」がなければ、次に挙げる2つのいずれかの形で物事が破綻する傾向にあると述べている。
「本来の役割を考えた場合、ふさわしくない人に決断を下すよう求めるか、決断を下す能力があるにもかかわらず、上司が不必要に干渉するかのどちらかだ」。いずれのケースでも、従業員はコントロール不能な状況に陥ったと感じる。
ダルスキーは90:10ルールに加え、誰がいつどのような決断を下したかを決断の理由、相談に乗った人物とともに記録することを提案している。この記録を見れば、意思決定が十分に分配されているかどうかがわかる。
「しかも、透明性が高まる」とダルスキーは述べる。「重要な決断が下されるときは、誰もが関わりたいと思うものだ」。たいていの場合、すべての人が関わるのは不可能だが、少なくともすべての人が決断の方法や理由を知ることができる。

3. 長期計画の作成

「人は、会社を辞めるというよりは、上司から去るのだ」という格言はつくり話かもしれない。「私の経験では、成長や学びが止まったとき、人々は会社を去る」とダルスキーは述べる。
同氏はChange.orgで「ホライズン・マッピング」というテクニックを学んだ。人々の動機を維持し、個人的な目標の達成に向けて前進させるための手法だ。
まず、従業員は経験に基づき、自分が持っているスキルを特定する。たとえば、人間関係の構築などだ。次に、5~10年単位の目標を設定する。
「これは、大きな目標になる傾向がある」とダルスキーは話す。「私が実際に聞いた目標は『選挙に出馬したい』『自分の会社を立ち上げ、CEOになりたい』『何かを発明したい』といったものだ」
最後に、現在のスキルと近い将来の目標を比較する。そして上司とともに、どのような役割や経験が、両者の隙間を埋めてくれるかを考える。
「ときには、興味の湧かないプロジェクトもあるものだ。しかし、そのプロジェクトが次のステップに導いてくれるとわかったら、たちまち魅力的なプロジェクトになる」とダルスキーは述べる。

4. 人を知る

上司と部下、従業員同士が強固な関係を築いていれば、より自然に楽しく協力し合うことができる。従業員が単なる同僚としてだけでなく、人間同士として互いをよく知る手助けをすることをダルスキーは提唱している。具体的には、リーダーがイベントや社外活動に少しだけでも参加することを提案している。
ダルスキーが採用している「ライフライン」というテクニックは、従業員を少人数のグループに分け、グループのメンバー全員に「今の自分をつくった体験」を3~5つ話してもらうというものだ。
「一段深い話をすることで、人々がとても強固な絆で結ばれる。私は実際にそれを目にしてきた」
とくに組織が大きくなり、関係が希薄になっていると悩むリーダーにとっては、語ることで親しみを感じてもらうチャンスだ。また、健全に感情をさらけ出すことの手本を示すチャンスでもある。
ダルスキー自身は、ライフラインを始めるときに「自分の人生の一場面を共有するようにしている」と述べる。「とても個人的なことやつらい体験を共有し、ほかの人が話しやすい雰囲気をつくるようにしている」
ダルスキーはさらに、人間味を見せるため、自分を犠牲にしてでも従業員に楽しんでもらうよう心がけている。その一環として同氏はハロウィンの衣装を従業員に選んでもらったり、会社のミュージカルに出演したりしている。
「『オズの魔法使い』の西の悪い魔女を演じることになったとき、舞台で甲高い笑い声を披露したところ、従業員たちは何週間もものまねをしていた」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Leigh Buchanan/Editor-at-large, Inc. magazine、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:LuisPortugal/iStock)
©2018 Mansueto Ventures LLC; Distributed by Tribune Content Agency, LLC
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.