「センチ単位の美学」が生む高収益モデルで街に灯を

2018/6/22
「駐車場+空中店舗」のビジネスモデルで、2005年の創業以来、破竹の勢いで成長を続けるフィル・カンパニー。2017年11月期、売上高は前年同期比176.8%を実現。2018年11月期の業績見通しは、さらに前期比159.3%の売上高、172.1%の営業利益を見込んでいる。
不動産業界の数々の「常識」「慣習」に対し、率直な疑問を投げかけ続けてきた社長の能美裕一氏と社長室長の小豆澤信也氏に、これまでのビジネスの展開と求める人物像を聞いた。

全国のコインパーキング6万カ所にチャンス

「投資回収率は約年20%。(つまり、投資した金額は平均5年で回収可能)。ボリュームゾーン(全体の7割程度の案件)は年15%~25%程度で、中には40%を超える今までの常識を覆した案件もあった」(2013年12月~2017年11月竣工分、フィル・カンパニー社調べ)
これは、フィル・カンパニーが東証マザーズに上場する前から直近までの、お客様であるオーナーの投資実績の平均値だ。
ただの駐車場だった土地に、「駐車場の台数は8割程度まで残し、駐車場の上に2~3階建ての『空中店舗』をつくる。フィル・カンパニーが初期テナント誘致を行い、更なる利益を確保する」。これが、フィル・カンパニーが展開する「フィル・パーク」の基本ビジネスモデルだ。
今、日本にコインパーキングは、統計データでは約6万カ所、実態として10万カ所以上あると言われる。しかも年々、増加傾向にある。それに対して、フィル・カンパニーが手掛けた空中店舗の「フィル・パーク」は、まだ約130カ所。空中店舗を広げていく余地は大いにある。
しかし、成長余地があるという理由だけでフィル・カンパニーは事業をしているわけではない。空中店舗を世に広めていきたい一番の目的は、「街に灯をともすこと」だと、能美は言う。
街を歩き、ふと周りを見渡す。駅から少し離れただけで、駐車場ばかりが目立ち、急に辺りが暗くなる。そんな街の灯りを失ったエリアに、再び灯をともしたい。街に活気を呼び戻したい。これが、フィル・カンパニーのミッションだ。
能美裕一 フィル・カンパニー 代表取締役社長

不動産業界のシロウトだからできる

能美がビジネスモデルとその収益率の高さを説明すると、必ず聞かれるのは「大手は参入してこないのですか」。そこに対する、能美の回答は常に「たぶん、難しいと思います」。
なぜ、フィル・カンパニーだけが空中店舗の展開に、他の追随を許さない圧倒的な成功を収めているのか。それは、「創業メンバー全員が不動産業界のシロウトだったから」と、能美は言う。
フィル・パーク吉祥寺

「10センチの美学」と「角度の美学」

フィル・カンパニーがよく使う言葉は「10センチの美学」と「角度の美学」だ。
コインパーキング1台分のスペースは、場合によって月10万円以上の売り上げを生む。それを簡単にあきらめてはダメ。緻密な計算を繰り返し、10センチ、ときには5センチの微調整を粘り強く行い、スペースを最大限に活用できるように設計をする。
空中店舗に入るテナントのためには、どうすれば外観の「顔」がよくなるのか、数センチ単位で角度にもこだわりつくす。
一般的には、公的な建築確認申請の段階で、審査担当者から「ここに防火扉が必要」と言われ建設コストが高くなると、建物オーナーの負担増になる。
しかし、フィル・カンパニーでは、法律を遵守する形で設計を工夫し、安全性を担保しながら、コスト増を避ける努力を徹底的に行う。
残念ながら、現在の大手不動産ディベロッパーで、これほどの手間ひまを積極的にかけようとする会社がない。正確に言えば、「一度手を出してみても、すぐに諦めている」のが現状のようだ。

過去最少人数で上場

能美にはビジネスモデルへの圧倒的な自信がある。しかし、それを実行できるのは何といっても優秀な社員がいてこそ。
実は、2016年に東証マザーズに上場した当時、フィル・カンパニー単体では社員数10人にも満たず、過去最少人数での上場だった。連結でも13人。社員一人一人の貢献がどれほど大きいか言うまでもないだろう。
しかし、さらにビジネスを加速していくためには、とにかくマンパワーが必要だ。今、人材の採用を一気に進めている。
そのロールモデルの一人が、現在社長室長の小豆澤信也だ。ビッグ4の監査法人では、IPO、事業再生、M&Aなどを担当していた。監査法人から独立し、フィル・カンパニーの上場支援をしていた人物だ。
「あまりに優秀だったので、社長室を作るから、社長室長をやってほしいと何度も口説いた」と能美は当時を振り返る。
実際、入社してからの小豆澤の活躍は目を見張るものがある。昨年7月には託児機能つきワーキングスペース「ママスクエア」と提携した。保育園に子どもを預けられず、働きに出られない母親の中に優秀な人材が埋もれているのでは、と目をつけて、本社に託児スペースを作ったのだ。
「子どもを預けながら働ける」を前面に打ち出した求人を出したところ、わずか1週間で70名の応募があり、そこから4名を採用した。狙いは的中したわけだ。
フィル・カンパニーの本社には併設した「ママスクエア」。保育士が常駐し、子どもが遊んでいる様子を間近に見ながら働くこともできる
また、昨年11月には1日2件の大型資本提携を実行した。上場企業が1日に2つの別の資本提携を結ぶことは、極めて稀。それをやってのけたのも小豆澤だ。
1つは日本郵政の投資子会社、日本郵政キャピタルの投資第1号案件。全国の郵便局とフィル・パークのコラボレーションを目指した増資でもある。
もう1つは、いちごとの資本提携。この増資を機に、自ら土地を購入し、開発していく新たな事業展開を加速していく予定だ。
他にも、NEXTユニコーン企業と言われているfavyに事業会社では初めて出資し、資本業務提携を行った。
これらの提携はすべて、小豆澤が中心となって動いていた。現在も、提携関係を中心に会社全般の業務に携わっている。
小豆澤信也(あずさわ・しんや)フィル・カンパニー取締役社長室長  会計士でもあり、監査法人では、IPO、事業再生、M&Aなどを担当していた

初任給ランキング1位のワケ

高度なスキルを持った人だけではなく、新卒採用も実施している。外資系コンサルティングファームから内定をもらっていた学生が、フィル・カンパニーに来てくれることになり、自分で給料を決めさせた。その結果、「2018年の初任給ランキング、1位40万円」で話題になったこともある。
フィル・カンパニーが求めているのは、「常に常識を疑い、変化に柔軟な人」だという。このマインドを持つ、さまざまなキャリアの社員たちが年齢に関係なく活躍しているのが、新卒採用のエピソードからもわかる。
「良い」「悪い」ではなく、世の中には「ある一定ライン以上は、思考停止を求められる職場」と「常に思考をフル回転させる必要がある職場」がある。後者の職場に興味が湧きたつ人は、きっと我々と相性がいいと思う、と能美は言う。

99%ではダメ。120%勝つ

小豆澤は当初は業務委託で外部からフィル・カンパニーに関われればいいと思っていた。しかし、能美からの熱い「ラブコール」に、中に入って一緒に無限の可能性をもつフィル・パークを世の中に広めていきたいと感じるようになった。
なぜなら、会計士という職業柄、多くの経営者と会ってきたが、能美ほど事業への愛と自信がある経営者はいないと思ったからだ。「99%の勝ちではダメ、120%勝ってこそ幸せになる、といった厳しさも能美にはあるが、その分、本気で任せてくれるので実現できることが多い」と小豆澤は言う。
従来の不動産業界ではありえない「高収益モデル」を作り上げ、経営者としての先を見通す力とそれを実現していく能美の力を、すぐそばで体感している故の言葉だ。
実際に、フィル・カンパニーの中に飛び込んで、リスペクトできる仲間たちと共に会計士としてはできなかった相乗効果を発揮し、小豆澤は、「圧倒的な成長」を感じている。
それは、フィル・カンパニーが手掛ける空中店舗というビジネスの可能性と自身のキャリアの可能性が同じ方向に向かって突き進んでいる証だろう。
(敬称略)
(取材・構成:玉寄麻衣 編集:久川桃子、撮影:北山宏一、デザイン:九喜洋介)