2014年の価格を分析する


 1月22日に発表された田中貴金属のリリースによれば、2013年の金地金の販売は前年比63%増だった。金価格は2011年に1トロイオンス=1904ドルの史上最高値をつけた後、下落トレンドをたどっている。とりわけ昨年は大きく1700ドル台から1200ドル台と、大きく値下がりした。高値圏にあった頃は、購入よりも手持ちの金を売却する動きが目立ったが、最近は価格が下がったことで値ごろ感が出て購入に回る人が増えている。

 価格が下がったのは、米国の連邦準備理事会(FRB)が、これまで続けてきた量的金融緩和を縮小する方向で動いているからだ。これまで量的緩和によって経済の建て直しを図ってきた米国経済が、いよいよ正常化する局面に入っている。これによりこれまで新興国の株や為替、金、原油などのリスク資産に流入していたマネーが徐々に引き揚げられ、先進国の株式やドルに向かっているといえよう。

 さらに、2010年前後に世界を賑わせていたユーロの信用不安が後退したことも大きい。金は利息や配当を生まないが、現物の裏づけがあり、世界中どこでも換金できることから「有事の金」と呼ばれる。歴史を振り返ると、戦争や内乱などの紛争や、リーマンショックやユーロ危機の際、金は必ず買われていた。金価格が下落するのは、世界にこれといったリスクが顕在化していない証でもある。

日本人には円安が追い風

 世界経済の要である米国経済に大きな狂いがない限り、金価格は下落トレンドだ。この数年間、これまでにない上昇相場を演じた金の時代はもう終わったのだろうか。

 マーケットアナリストの豊島逸夫氏は、「長期的には中国とインドの買いが価格を牽引するだろう」と見る。両国は世界の二大「金消費国」で、世界需要の約4割を占めている。

 米国景気が本格回復すれば、その恩恵は新興国に波及する。そして、中国、インド主導の買いが価格を再び押し上げると考える。しかし、両国の景気回復には時間がかかるため、「早くとも2015年になるだろう」(豊島氏)。とりわけ中国の中央銀行は、米国債券に偏っている外貨準備のポートフォリオを分散させる一環として、金を購入するニーズがまだまだあるという。

 「採掘コストを大幅に下回るような下落はあり得ない」と、金の生産コストが金価格を下支えすると考えるのはマーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘氏だ。世界の主な金鉱山会社が公表している産金コスト(新しく金を生産するために必要なコスト)は、平均1200〜1300ドルと言われている。これは、ちょうど今の金価格の水準に合致している。従って、これを下回るようなことはないと見ている。

 ただし、金価格は投資家のリスク許容度を反映しやすい。足元では中国に端を発する新興国経済リスクが高まったことで、1トロイオンス=1250円台から1270円台まで一時上昇するなど、小幅な動きが見られた。今週28日、29日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果次第でも、価格は上下に動く可能性はある。短期的にはこういった市場の動きに気を配る必要がある。

 また、円建て価格は為替の影響を受ける。金の国際価格を円建て換算した国内価格は昨年1年間に14%下落した。ドル建てでは20%下落しており、円安が金価格の下落を緩和している。冒頭、金の購入量が増えている背景にはこういった「読み」があるのも事実だ。だがこのことは裏を返せば急激な円高には注意しなければいけないということである。世界経済のリスクが高まる時、金価格は上がるが円は買われる傾向にある。従って、円建て価格の先行きを見るのは難しい。

 金は投資家心理を映す鏡である。2014年にどう動くかは、世界経済を皆がどう予想しているのかを示しているといってよい。歴史的上昇は終わったとはいえ、当分価格動向からは目が離せないことは変わらないだろう。