[ロンドン 1日 ロイター] - スイスは10日、中央銀行にのみ通貨創造を認める「ソブリンマネー」構想の是非を問う国民投票を実施する。これまでのところ制度改変への支持率は3割強と低く、提案は否決される見通しだ。

しかし世論調査では10%余りの有権者の態度はなお未定で、欧州連合(EU)離脱派が勝利した英国民投票のような番狂わせが起きる恐れは残る。その場合、スイスの金融通貨システムが激震に見舞われかねず、投資家は万が一に備えてヘッジの構築を進めている。

スイス国立銀行(中央銀行)のジョルダン総裁はソブリンマネー構想は「危険なカクテル」だと警戒感を露わにする。

もし構想が可決されれば民間銀行は自ら管理する預金口座にある資金か、高いコストを払って市場や中銀から調達した資金しか融資できなくなる。中銀の為替市場への介入能力も低下する。

そうなれば資金の逃避先と位置付けられているスイスフラン<CHF=EBS>はボラティリティが高まって恐らくは上昇し、UBS<UBSG.S>やクレディスイス<CSGN.S>など国内金融大手の業績は打撃を受けそうだ。

JPモルガン・アセット・マネジメント(ロンドン)の通貨ストラテジスト、ニール・ウェラー氏は「こんな制度は例がない。国民投票は株式や債券などスイスフラン建て資産の多くに不透明感をもたらす」と話す。

トレーダーの間ではオプション市場で株式やドル/フランのプットオプション(売る権利)を買い、想定外の事態に備える動きがみられる。

スイスの金融株は構想が可決されれば下落し、プットオプションを購入した投資家は利益が手に入る。トムソン・ロイターのデータによると、権利行使期限が投票後の週末15日に設定されたプットオプションが2万9080枚と最多。権利行使価格が現物よりおよそ25%から30%低い水準に設定されているプットオプションが2万7628枚となっている。

UBSとクレディスイスの株価は5月に数カ月ぶりの安値に沈んだ。イタリアの政局混乱などが原因だが、スイスの国民投票も株安に拍車を掛けた。

INGのストラテジストチームは、スイスの金融システムは国内総生産(GDP)の2倍の規模を持つだけに、ソブリンマネー構想に関する国民投票は同国にとって重大な意味を持つと指摘した。

構想の可決で最も大きな影響を受けるのは為替市場だろう。スイス中銀は世界の金融市場が緊迫化するたびに、フラン高を阻止するため市場に介入している。しかし「新制度に切り替わると中銀の市場介入能力は大幅に低下し、フランに上昇圧力が掛かる」(JPモルガン・アセットのウェラー氏)とみられる。

為替デリバティブ市場では、投票後の期間を含む2週間物リスクリバーサル<CHF2WRR=>でフランが対ドルでややコールオーバーとなっており、フランがドルに対して上昇すると予想されている。

イタリアの政局混乱でフランはユーロとドルに対して上昇したが、それ以前にはスイス中銀がフラン押し下げのために他の中銀よりも超低金利政策を長期間続けるとの見方から、投機筋がフランの売り持ちを過去最大規模に膨らませていた。

ブルーベイ・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャーのカスパー・ヘンセ氏は、提案が可決されればスイス経済はデフレショックに見舞われると予想。トレーダーが中銀はフラン高に歯止めを掛けようとしなくなるとの見方を強化するので「フランの最初の反応は上昇だろう」と述べた。

(Saikat Chatterjee記者)