コンサル立ち上げ請負人が若い世代に用意するステージ

2018/6/25
マイクロソフトとアクセンチュアのジョイントベンチャー、アバナード。両者のテクノロジーとナレッジを生かし、ITシステムの上流から下流までを手がけるビジネス基盤が強みだが、ここ数年で戦略ファームの顔も持つようになった。その仕掛け人は、安間裕社長とバイスプレジデントを務める入江孝弘氏。両氏のタッグによってアバナードはITコンサル、開発、そして戦略コンサルのトライアングルビジネスを手がけられるようになっている。単なる合弁会社とは言えないアバナードの今の姿、そして仕掛け人2人のビジョンを説く。

約20年の経験を“開放”

──入江さんは、何社にもわたってコンサルティング部門の立ち上げに携わってきましたが、今回も、戦略コンサル部門の立ち上げ請負人としてアバナードに参画しました。
IT系企業は、入江さんのキャリアにとって初めてだと思いますが、アバナードを選ばれた理由は何ですか。
入江:率直に言えば、社長の安間と仕事がしたかったんです。それと、グローバルデジタルイノベーターを志向して、そのビジネス基盤が整っていることが、時代にマッチしていて、魅力を感じました。
 安間とはもう15年以上前に知り合い、相性が合うというか考え方が似ているので、頻繁に会う関係だったのですが、一緒に仕事をする機会はこれまでほぼなかったんですね。
 50歳を前にして、約20年のコンサルキャリアを伝える場を求めていたというか、私の経験や知識をチームに継承したいと考えていた中で、今回、安間が戦略部門を立ち上げたいという考えがあったので、力になりたいと思い加わらせていただきました。

アバナードはコンサル人生の集大成

──多くの経営者と対峙していた経験がある中で、安間さんに引かれるポイントは何ですか。
入江:本人を目の前にして言うのはやぼったいんですが(苦笑)、とにかく現場で働く社員を大事にすることです。
 一般的に社長は、ともすると、社員を置き去りにして会社の業績を最優先にする、最悪のケースでは保身のための政治に多くの労力を費やす。
 アバナードは、現場を大切にし、政治がほとんど存在しない。価値観の共有があるので、この私ですら(笑)、ケンカをする必要もない。
 自分で言うのもなんですが、私ほど、多くの「コンサルティング会社」のマネジメント層を経験した人間も少ないと思うのですが、そんな私の知る限り、こういった会社は、数少ないと思います
 社員の方々にとっても、政治や私利が垣間見えると、本来の「学び」や「お客様と費やすべき時間」のなにがしかを、それらにそがれることになります。
 余計なことに費やす時間は、あるべきではない。コンサルタントは、とにかくお客様のそばにいてなんぼの世界なんです。
 それは何よりも顕在化していないお客様の課題をしっかりとくみ取るため、こちらの提案内容をしっかり提案するためです。生身の人間を相手に、かたちのないものを売り物にして対価をいただいていますから、お客様とのコミュニケーションが他の業種以上に大事だというのが私の持論です。
 この考えを安間は私と同じくらい、またはそれ以上に重視して実践しています。失礼な言い方かもしれませんが、社長だけれども、現場で各スタッフが最高のパフォーマンスを出すためには誰よりも働き、表向きには誰よりも目立たない存在なんです。だから、全幅の信頼を寄せて、チャレンジできる。
 約20年のコンサルティング部門の知識と経験、チャネルをアバナードに全開放して、メンバーに移植し、経営戦略+ITの会社へと進化させる決意です。

社長は「係」。目立たないくらいがちょうどいい

──「一番目立たない存在」と言われて安間さんはいかがですか。
安間:飲み会などでは、一番目立つことを心がけていますが……(笑)。
 これは、入江とも合致する重要なポイントですが、やっぱりお客様と接する社員、現場が一番重要なんです。そして、現場を支える、人事や経理といったバックオフィス部門においても、そのお客様との接点を最高の状態にするといった意味では、これもひとつの現場、と私は考えています。
 アバナードのオフィスにいて社長の椅子に座っていても、お客様に何の価値も提供していない。現場で働く人のほうが価値ある仕事をしているんです。だから、私は現場の優秀で若いコンサルタントやエンジニアが自分たちの能力を最大限に発揮できる環境を用意することのみが、私の最も重要な役割だと、心からそう思っています。
入江:アバナードの「社長係」(笑)は、本社やアクセンチュア、マイクロソフトとの調整など、きっちり裏で進めてくれている。だから、私は、それなりの要職に就かせてもらっていますが、100%の力でコンサル部門の立ち上げに集中できています。面倒くさいことをやらずに現場にいられる。ありがたいことです。
──安間さんの「現場重視」の考えはどのような形で表しているのですか。
安間:一例を挙げれば、「情報公開」です。全部とは言いませんが、私が知っている情報はほぼすべて社員に公開します。
 一般的に言えば、内容によって情報を出す人やボリュームを調整して棲み分ける。ただ、そうすると、差別が生まれ、派閥も生む。情報があらぬ方向に変更されて伝わってしまうこともある。結果的に現場の社員は上層部に対して不信感を感じてしまうと思うんです。
 現場を重視しているということは、現場を信頼しているということ。現場を信頼し、現場が知りたいことや私の考えを包み隠さずに公開しています。漏れるリスクも高まりますが、それらの情報を糧に、会社の「今」や「方向感」を理解してもらい、そのことを踏まえて、もっと良い仕事をして、お客様のビジネスの変革に、会社の成長に、貢献していただくことの方がはるかに大切なことだと思います。

目指すのは規模ではなく「エッジ」

──個性の違う二人がタッグを組んだことで、どんなアバナードを築いていこうとしているのですか。
安間:アバナードは、ITコンサルファームのアクセンチュアとマイクロソフトの合弁で誕生した会社です。グローバルレベルでそれぞれの分野でリーダーポジションにいる両社のナレッジ、チャネルを使うことができるのは以前から変わらない強みです。ITの上流であるコンサルから中流のシステム設計・開発、そして下流の運用を一気通貫で手がけられるチームはなかなかないと思っています。
 この組織に今回入江が参加してくれたことで、コンサルティング部門が加わった。手前みそですが、かなりエッジの効いた組織へと進化を遂げる可能性を秘めていると手応えがあります。
 今後、経営戦略を練る上でデジタルを意識しないビジネスはないくらい、ほぼすべての企業でデジタルトランスフォーメーションが進むでしょう。そうなれば、経営戦略の段階からお客様をお手伝いでき、ITの上流から下流をお手伝いできるアバナードの良さが生きる。
 会社は、売り上げや利益を大きくし、成長し続けないと生き残れません。そうしないと、我々の「相場よりも高い報酬」の維持もできません。それに、マーケットに何らかの影響力を持ち、社員の方々にやりがいと誇りを持って仕事をしてもらうためには、規模は重要です。
 でも、大きくなることそのものを目的にした瞬間に業績が最優先になり、現場主義が崩壊します。
入江:集大成と言っちゃっていますからね、相当ちゃんと頑張りますよ(笑)。アバナードのコンサルティング部門をしっかりと根付かせながら、安間の描いたカーブに沿ってしっかりと伸ばしていきます。
 私が冒頭に話した、時代にマッチしたビジネス基盤がここにはあり、それをより一層エッジを立てていくためにコンサル機能をより強くしていきたい。
 勘違いしないでほしいのですが、私が入ったからといって戦略コンサルティングの会社にアバナードをしようとは思っていません。あくまでアバナードはITのコンサル、開発、運用にかなりの強みを持っている会社であり、それがマーケットにも既に認知されている会社です。申し上げたとおり、私が率いるコンサルティング部門はそのフックとして役割を果たしていければと思っています。
 下請けのような形でエンジニアが仕事に携わるのではなく、同じ社内にいるチームが描いた戦略をもとに、場合によってはその戦略や戦術を相互に連携し、相談しながら開発メンバーがより納得できる環境を築いていければとも思っています。

欲しい人材は「人たらし」

──アバナードは、世界企業である強みを生かし、日本企業のグローバリゼーションとデジタル化の波をうまく取り込んで業績は年率50%増に迫る勢いと聞いています。それに今回、コンサル部門が加わり、ビジネスとしてはかなり追い風ですが、人が足りていない、と。どんな人材が欲しいですか。
安間:抽象的な表現をしますけど、「ものすごい嫌なやつだけど仕事ができるやつ」と「まぁ仕事はそこそこだけどいいやつ」のどちらを選ぶかといえば、後者を採ります。
 お客様の要望は多岐にわたり、テクノロジーの進化も激しい。私たちの業容も広がっている。そんな中で、一人で仕事をこなせるプロジェクトはない。一人のスーパースターよりも、チームの輪の中に入り、チームで力を発揮できる人材が欲しいんです。
 だから、いいやつ(笑)。そういうやつじゃないと、一緒に仕事したいって思わないでしょ? そういう“いいやつ”を、我々がグローバルでデジタルに強い人材に育てます。その方が、きっと、チームで力を発揮する、いい人材になると思います。
入江:私も同じです。
 私、新卒の面談では、「君、モテる?」って聞くんです。モテる要素は容姿とかだけではなくて、相手にモテるっていうのは、相手がどんなことをしてほしいかを真剣に考えて、それを実行に移す力がある人間だと思うんです。仕事もそれと同じ。能力や知識は後から身につきますから、良い意味で「人たらし力」がある人材を求めています。
──空前の売り手市場のエンジニアやコンサルタントにどんな魅力を与えますか。
入江:おこがましいかもしれませんが、私の20年のキャリアをすべて開放します。学びたいという意欲がある人にはすべて提供する。そして、私がケンカしない、現場を大切にする社長がこの会社にはいます(笑)。
安間:先ほども申し上げたように、アクセンチュアとマイクロソフトというリーディングカンパニーのナレッジに触れながら、アバナードオリジナルの戦略コンサル部門とも一緒に仕事ができる。それをデジタル化の波が一気に押し寄せている絶好の機会の中で、世界を相手に手がけることができます。
 我々は、入江の言葉を借りると、真の意味で現場主義の稀有(けう)な会社だと思います。年齢や立場に関係なく、成長したいという意欲があれば、そのやる気と能力を十分に発揮できる環境を提供しますので、激動のデジタル時代に、アバナードのナレッジやリソースを活用して、グローバルでデジタルな人材に成長してもらいたい。
 誤解を恐れずに言えば、アバナードを長いキャリアの中での1ステージと思ってもらって構いません。私たちをうまく利用して、今後のキャリアに生かしてもらいたいと思っています。
(取材・編集:木村剛士、文:加藤学宏、撮影:風間仁一郎)