ビズリーチは、創業から9年で多くのプロダクトを生み続けているテックカンパニーである。なかでも、同社の強みである高い技術力が際立つのが求人検索エンジン「スタンバイ」と、戦略人事クラウド「HRMOS(ハーモス)」だ。

人事が本来の役割を発揮するにあたっての課題を解決するために生まれた「HRMOS採用管理」の技術環境はどうなっているのか。HRMOS採用管理事業部 事業部長古野氏と、エンジニア豊田氏に聞いた。(全2回)

HRMOS採用管理が提唱する戦略人事

古野:「HRMOS(ハーモス)」の開発は、「人事が、経営者の右腕として、戦略的な活動に従事できるように」という想いから始まりました。
 HRMOSは、人事データの可視化・分析によって戦略人事を支援するSaaSです。人事本来の役割は、経営戦略に基づいた採用・育成、適正な評価や、適材適所の人材配置によって、従業員のパフォーマンスを最大化し、事業成長に貢献することだと考えています。そのために必要なのは、データに基づいた客観的な基準でPDCAサイクルを回し、組織としての判断精度を向上させることです。経験や勘だけに頼らない意思決定を行うためにも、HRテクノロジーを活用するのです。
 現在、HRMOSシリーズの第一弾として「HRMOS採用管理」を提供しています。戦略人事をテクノロジーでどのようにサポートするのかを考え、まさに新しい市場を開拓している段階です。
株式会社ビズリーチ HRMOS採用管理事業部 事業部長 古野 了大
神戸大学工学部卒業後、大手通信教育会社に入社し、複数のEdTech領域の事業立ち上げに従事。2015年11月、ビズリーチ入社。即戦力採用サイト「ビズリーチ」のプロダクト開発及びマーケティングの責任者を経て、現在は、HRMOS採用管理事業部長。
 多くの採用担当者が直面しているのは、候補者のデータベース化や面接日程調整などの煩雑な作業。 HRMOS採用管理は、これらの入力からデータベース化までのフローを自動化することができます。入力データに基づいて、「採用管理レポート」を1クリックで作成することもでき、お客様の採用業務を戦略的に効率化することが可能です。
 レポートは、採用の現場で何が起きているのかを客観的なデータで可視化し、採用業務のボトルネックを見つけることができます。たとえば、一次面接から二次面接で急激に候補者が減ったのはなぜか。選考辞退なのか、面接官の評価が厳しすぎたのかなど、候補者だけでなく面接官の評価も同時に分析することで、課題解決の道筋を示すことが可能になります。
 採用業務は今までデータによる分析があまり進んでいなかった分野ですが、戦略人事を実現するためには欠かすことができない要素です。業務効率化だけでなく、データを活用した戦略人事として具体的な解決策を提示できるのが、HRMOSの特徴です。

プロダクトドリブンで開発を加速

豊田:HRMOS採用管理の開発を通じて、これまでにない新しいマーケットを創造していると感じています。「これが正解」というビジネスモデルや最適なテクノロジーがあるわけではないので、常にプロダクトに必要な最新技術を学び、ユーザーが真に求めるサービスの実現を目指しています。
すべて内製で開発しているので、社員同士で情報を共有しながら対応することでSaaSに求められるスピード感が実現しています。いわゆるプロダクトドリブンのチームですね。
株式会社ビズリーチ HRMOS採用管理事業部 プロダクト開発部 アプリケーションエンジニアグループ 豊田 淳平
2014年にビズリーチに新卒入社。ビズリーチ事業のエンジニアを経て、新卒エンジニア採用担当を経験後、社内の勤怠管理ツールのインフラ、サーバーサイドを1人で開発。現在は「HRMOS(ハーモス)」のサーバーサイドエンジニアとして従事。
HRMOS採用管理では、開発の生産性を高めるためにコンテナ仮想化ツールであるDockerを採用しています。ほかにもElasticsearch(エラクスティックサーチ)に格納しているお客様の大量な操作記録などの行動ログ。処理スピード向上のために、BigQuery(ビッククエリ)に置き換えるなど、常に新しいテクノロジーを模索し、効率化を計れる方法を選んでいます。
 また、エンジニアが求める最新技術に触れる環境も整っています。社内にはScala言語の第一人者 や、AWSサミットに登壇するエンジニアもいます。優秀な人たちの周りには、同じく優秀なエンジニアが集まり切磋琢磨する。自分が持っていない知識や知見を吸収できる環境はビズリーチの強みです。

自ら起案しプロジェクトを進められる風土

豊田:チーム内で活用している社員の勤怠管理や情報共有サービスなども、自社内で積極的に開発しています。でも、上長に「開発します」と宣言し、許可を得てから始めるわけではないんです。社員同士で「これ必要だよね」とアイデアを出し合い、自分たちが理想とするサービスをメンバー一人ひとりが主体となって開発しています。まさに、プロダクトドリブンな環境だと思いますね。
 たとえば、システムの不具合や朝会の開始を音声で通知させる機能を開発。小さなことかもしれませんが、チャットで流れてしまう情報を確実にキャッチアップできます。ほかにも専用アプリケーションで操作する書籍管理システムを導入した、デザイナーのための図書館『BIZREACH CREATIVE LIBRARY』もあります。これらは、プロダクトチームが有機的に組織を引っ張っている良い例だと思います。
古野:現在は、顔認証による勤怠打刻システムを試験運用しています。必要だと思えば、社内システムを自分たちで改善して、試せる。HRMOSの目的のひとつが「テクノロジーやAIで社内業務を改善すること」ですが、社内で新しいアイデアがあれば率先してサービス化できる環境。エンジニアにとってもスピード感を生み出す施策になっていると思います。
豊田:さらに特徴的な環境といえるのが、エンジニアとセールス、カスタマーサクセスチームの連携です。訪問に同行し、お客様の声を直接聞く機会があります。基本的にエンジニアは、お客様に会う機会が少ないので、不具合があったとき、誰がどう困っているのかを実感できないときがあります。
 そこで、同行してお客様が困っている状況を実際に見聞きすると、「この人のために頑張ろう」「このお客様にはこんな機能が必要だ」など開発の意欲が高まったり、イメージが膨らんだりするんです。
 セールスは、サービスの観点からお客様の困っている点をエンジニアにフィードバックし、エンジニアは、同行で得た情報も合わせてソリューションを考え、開発する。2つのポジションが隔たりなく意見を交換し、お客様への最善策を示すことで「HRMOS採用管理なら大丈夫」という安心感を生み出せていると思います。
古野:お客様へのヒアリングから、「採用における正解は何か」「自分たちのやっている採用手法は結果に結びついているのか」など、相談できる相手がいなくて悩んでいる担当者の方も少なくないこともわかりました。そこで、次の展開の1つとして、コンサルテーションを含めた「リクルートメント・サクセス・プラットフォーム構想」を進めています。
 テクノロジーでの解決だけではなく、お客様同士のコミュニティや、採用成功に導くためのコンサルテーションや、情報提供に取り組みます。その結果、導入したお客様、今後導入するお客様に対し、経営・事業戦略を実現するために必要な採用戦略、時代に沿った人事戦略を柔軟に提案していきます。

HRMOSが目指す戦略人事の未来

古野:今後のHRMOSを支えるのは、やはりプロダクトドリブンな開発スピードと環境。現場のエンジニアが裁量権を持ち、自らが意思決定をして進めていくこと。課題に一番近い人たちだからこそできることですね。プロダクトドリブンな環境では、PDCAではなく「まずはとにかく行動する」意味で最近使われている「DCPA」を提唱しています。まず一歩進んでみないと何も始まらない。これは、ビズリーチ社としても大切にしている考えです。
 HR領域のテクノロジーは、やはり欧米が先行しています。日本でも年功序列や終身雇用制度の撤廃、副業の解禁など、新しい働き方が推進され、雇用の流動化が加速していくでしょう。これまで意識していなかった戦略人事の有用性や課題が顕在化したとき、HRMOSを必要とする人が増えるのではないでしょうか。
 現在は採用管理が中心ですが、将来的には人事組織データベースを中心に「採用・勤怠・評価・人材開発・組織・健康・経費・給与」などのすべての情報を連携させたいと考えています。人・組織に関する情報の管理・活用を最適化し、企業成長のカギは戦略人事が担う。そんな未来をつくりたいですね。
(インタビュー・文:松田政紀[アート・サプライ]、写真:小島マサヒロ)