運転者支援システムの有力メーカー、モービルアイ(Mobileye)にとって格好がつかないこの出来事は、完全自動運転車開発レースの未来に不安を与えるものになった。

無線送信機の電磁波が原因か

インテル傘下で運転者支援システムを製造するモービルアイ(Mobileye)は5月中旬、完全な無人自動車の開発競争に加わることを発表し、エルサレムで何台ものプロトタイプを披露した。そして、競合メーカーが試験走行の際に頼り切っているレーザーやレーダーを使わずに、市内の一般道を走らせてみせた。
『Bloomberg Businessweek』の記者は2018年4月、一足先にこれらの車両を見る機会があった。そのときは、カメラだけを搭載した車が、交通量が多く混雑したエルサレムの町中を問題なく走行していた。
しかし、先日モービルアイの本拠地で行われた報道機関向けのイベントでは、イスラエルのテレビ局「チャンネル10」のカメラを搭載した車両が、同社の車庫まで400メートルほどのところで、赤信号を無視して直進した。それまでの走行は、特に問題はなかった。
けが人はなかった。チャンネル10の動画によると、モービルアイのテストドライバーが同乗して走行を監視していたが、車を止めようとはせず、そのまま走らせている。
モービルアイのアムノン・シャシュアCEOは、テレビ局のクルーが使っていたテレビカメラの無線送信機の電磁波が、信号機のトランスポンダー(送受信機)からのシグナルを妨害したと説明した。
車に設置されたカメラは、信号が赤であることを正しく認識していたが、車はその情報を無視し、トランスポンダーからの(干渉を受けた)シグナルに従って運転したのだという。シャシュアCEOは、誤動作はその後修正されたとインタビューで語った。
シャシュアCEOは、カメラクルーの件に言及しながら「大変特異な状況だった」と述べた。「このようなことが起きるとは、まったく予想していなかった」
シャシュアCEOは、今後同じような状況が起きるのを防ぐため、自動車のコンピューターを電磁妨害から保護するよう、ハードウェアについても変更しているところだと述べた。エルサレムで行われているモービルアイの自動運転車試験走行は続いており、自動車メーカーから苦情は受けていないという。

信号機という安全上の難題

インテルは2017年に、イスラエルを本拠とするモービルアイを約150億ドルで買収した。そしてその技術を、インテルの自動運転車戦略の中心に据えている。BMWやフィアット・クライスラー・オートモービルズをはじめとする企業が、自社の無人自動車にモービルアイの技術を使う計画だ。
現在のプロトタイプはレーザーやレーダーを使っていないが、カメラのみを使った同社のシステムが機能することが証明されれば、モービルアイはこれらのセンサーを追加する予定だ。
しかし、モービルアイやほかのさまざまな企業が膨大な数にのぼる従来型の自動車を無人自動車に置き換えるのに、どれくらいの期間がかかるかはわからない。唯一、グーグルの自動運転車部門が2016年に分社してできたアルファベット傘下のウェイモだけが、テストドライバーなしで路上での走行をテストしている。
一方、一時はウェイモにとって最大のライバルと見られていたウーバーは、自社の自動運転車がアリゾナ州フェニックス近郊で歩行者を死亡させる事故を起こして以来、試験走行を保留にしている。
自動運転車を開発する企業にとって、信号機は難題だ。安全上の問題になる可能性については言うまでもないが、特に、格好のつかない事態になるきっかけになってきた。
2016年末、ウーバーがサンフランシスコで自社の車のテストを始めてすぐに、赤信号を無視して走る自動運転車が監視カメラに捉えられた。ウーバーは、この車は自動走行中ではなく、原因はドライバーの不注意であると主張した。
ウェイモは、2018年2月に同じような経験をした。YouTubeに投稿された動画は、同社の自動運転車が左折のため停止したあと、赤信号を無視して走行する様子を捉えている。ウェイモは、運転はドライバーがしており、赤信号を無視して左折したと説明した。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Max Chafkin記者、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:monticelllo/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.