顧客と自分を変えるテクノロジーの力。それがIBMの戦略コンサルティング

2018/5/31
大組織が性に合わないと考えて、コンサルティングファームで仕事をしていたところ、期せずしてファームがIBMに買収される。その後、歯に衣着せぬ物言いでコンフリクトを起こしながらも、IBMでコンサルティング事業のリーダーを続けてきた。その理由は何か。日本IBMのコンサルティングサービスをリードする戦略コンサルティング&デザイン統括の池田和明氏に本音を聞いた。

「独立開業」に憧れて公認会計士に

──20年以上、コンサルタントとしてキャリアを重ねてきました。
池田:最初は、そんなつもりはなかったんですけどね。私のファーストキャリアは会計士なんです。学生時代、組織の中で働いている自分があまりイメージできませんでした。そこで、独立できそうな仕事は何かと考えて、思いついたのが会計士でした。
学生時代に、当時の公認会計士二次試験に合格し、しばらく修業するつもりで、新卒で大手監査法人に就職。7年余りにわたって、主に株式公開支援の仕事をしていました。ただ、数年間やっていると、会計士という仕事が自分に向いていないことに気づき、独立開業するイメージも持てなくなりました。
当時、仕事のかたわら、ロジカルシンキング、経営戦略論、リーダーシップ論、コーポレートファイナンスなどの本を結構読んでいました。そして、コンサルタントという職業に興味を持ち、コンサルティングファームへの転職を考え、数社の面接を受けました。
その中で一番活気を感じたのが、1995年当時のプライス・ウォーターハウス・コンサルタント(PWC)でした。平均年齢が30歳前後、スタートアップのようでしたし、「エンパワード・スモールチーム」をコンセプトに、7人程度のチームが大きな権限を与えられてクイックに動き、結果と報酬が連動した組織。実に活気にあふれていました。

コンサルタントの楽しさは知的好奇心から

──会計士からコンサルタントへの転身、異業種への挑戦ですがうまくスタートを切れましたか。
当時は200人程度の規模で、積極的な採用をしていました。私も含めコンサルティングビジネスの未経験者も多かった。
会計士とコンサルタントの思考様式は、かなり異なります。極端にいえば方向が180度違います。転職当初は「会計士のくせに、この仕事できるのか」という感じで、プロパーやMBAホルダーから白い目で見られていたように思います。
いわゆる会計系ファームだったのにです。自分としては「できる」と考えながらも、思考様式の違いについて思い当たる節もあり、それなら、ゼロからやり直してみようと決意しました。
最初のプロジェクトは自動車会社で、1年ほど常駐して、サプライチェーンのビジネス・プロセス・リエンジニアリングの仕事をしました。それが終わってしばらくして、オフィスにいるときに中途入社の同僚から、連結決算の会計処理について質問されたとき、借り方と貸し方を間違えてしまい、呆れられたことを覚えています。
その後、「企業価値経営」をテーマにコンサルティングをする専門チームに配属されました。事業価値評価に基づくポートフォリオの再構築、キャッシュフロー重視の経営管理の設計の仕事をしていました。
当時、日本企業の資本生産性の低さが認識されはじめており、その問題にアドレスしたテーマなので、仕事は好調でした。私にとって転機にもなりました。コンサルタントとしての思考様式が多少は身につき、それがあって会計士時代のファイナンスのスキルが生きてきたように思います。チームリーダーだったパートナーの方の引き上げもあり、出版や講演を実施するようにもなりました。
──戦略コンサルティングへの転機は、何だったのでしょうか。
そして、1998年頃、戦略コンサルティングの専門チームに移ることになりました。英国からシニアパートナーを呼んでリーダーにして、数十人を中途採用して立ち上げたばかりのチームです。
この頃は、不確実な未来に適応するためのシナリオ・プランニング、中期経営計画策定、グループ経営をテーマにしたプロジェクトを多数やりました。クライアントの期待は大きく、厳しいけれど、知的好奇心が刺激される楽しい仕事です。
──そして、2001年にパートナーに昇格しています。
ファーム系は基本的にラインマネジメントがなくて、自分でメンバーを集めてプロジェクトを進めていく、緩やかなつながりです。
自由を求める私には心地よかった。プロジェクトが変わればテーマも人も変わる。そんな環境での師弟関係や切磋琢磨も気に入っていました。ますます面白くなってきたな、と思っていたら、雲行きが怪しくなる出来事が起きました。エンロン事件です。

“想定外”だったIBMへの移籍

──エンロン事件によって、会計系コンサルティングファームは大きな影響を受けました。
ええ、2001年、エンロンが粉飾決算の末に破綻した事件です。そこで、大手会計ファームが、エンロンの会計監査とコンサルティングの両方を実施していたことが問題になりました。
そして、SOX法が成立し、クライアントに対して、同一ファームが監査とコンサルティングの両方を行えないように規制されました。当時のPwCの監査部門は、多数の上場企業を監査していたので、それら企業に対してコンサルティングを提供できないとなると、コンサルティング部門は厳しくなります。
そこでコンサルティング部門を分離して上場する方針を打ち出し、新たな社名も発表しました。ところが、ドットコムバブルが弾けて株価が大きく下がっているタイミングでした。上場しても時価総額が小さくなって、敵対的買収の恐れがある。困っていたところに、オファーしたのがIBM。
パートナーたちは理由を告げられぬまま、早朝のオフィスに急遽呼ばれました。デスクに置かれたウォールストリートジャーナルの記事には“IBM acquiring PwC Consulting”とある。大企業、ましてやITの会社。私には全く想像し得なかった、対極の姿です。
──その時の心境は、ポジティブなものですか。
正直に言って、ポジティブじゃないですよ。IBMという巨大組織の中で、本当に戦略コンサルティングができるのだろうか、と。
IBMのライン型組織、経営管理、企業文化など、PwCとはかなりの隔たりがありました。だからこそ、激しくやり合ったりもしました。PwCから移ってきたコンサルタントを、守らないといけない。僭越ながらそんな思いもありました。そのなかで、ひとつの方向性を見出しました。
IBMは、ITだけでなくテクノロジーカンパニーとして認知されています。またIBM自身が、いち早くサービス・ビジネスにシフトした知見があるし、代表的な変革事例として世の中から認められています。
当時の日本企業、特に製造業は、技術的には素晴らしいものがあると言われながら、ビジネスモデルで負けていたり、事業化がうまくいっていなかったりする課題がありました。
そこで、IBMの認知を生かして、製造業を中心に、技術をベースにした新規事業の立ち上げや、新製品・新サービスの創出をテーマに掲げられないだろうか。そしてモノ売りからコト売り、ソリューションビジネスへのシフトも支援したいと考えたのです。すると、仕事も取れるし、自然と優秀なメンバーが集まってきました。
さらに基礎研究部門が持っている、ITだけではない、テクノロジーに関する深い知見を生かせるのは、他のコンサルティング会社にはない強みだと思います。
新規事業のプロジェクトも、研究員やエンジニアと一緒に取り組めます。彼らのテクノロジーの知見に、私たちの戦略策定、ビジネスデザイン、ビジネスプランニングを加えることに大きな価値があると考え、実現してきました。
自分とは全く職種が違うけど、優秀な人と仕事ができる。それが一つの魅力だと思います。お互いギブ&テイクですから、相手にとっても自分が価値ある人間であろうという刺激もあります。
──当初戸惑いすら感じていたIBMで、なぜ10年以上もコンサルティングを続けているのでしょうか
いままでIBMにいた本質的な理由は、何と言ってもテクノロジー。常に先端テクノロジーの最新動向や、そのユースケースに関する情報のシャワーを浴びて、それを取捨選択して、クライアントの変革や、自分自身の変革につなげることができるからです。
近年、企業にとっての戦力になっているデジタルネイティブ世代。この人たちは物心ついたときからデジタルテクノロジーに親しんでおり、かつ優秀で意識も高い。それに比べたら、オヤジになってから学んだ僕は、あっという間に時代に置いて行かれかねない、という危機感があります。
実際、こうした環境にいなかったら、僕みたいな怠け者は、完全に時代遅れになっていたでしょう。2011年、IBM Watsonがアメリカのクイズ王に勝ちましたよね。CEOのジニー・ロメッティが、これをビジネスの世界で使っていくと話していても、本当だろうかと多くの人が思っていました。私もクイズ王に勝ったところで「だから?」っていう感じでしたよ。
でも今、AIの活用は当たり前になってきましたよね。その先陣を切ったのはIBMです。AI、ブロックチェーン、そして量子コンピューティングなど、デジタルテクノロジーでは、世界の最先端を進んでいる企業のひとつです。その力を活用してクライアントを変革できる。こういう環境というのは、そんなにないと思います。
これまでITと言えば、企業の基幹業務システムを変える、会計やサプライチェーンのプロセスを変える、といったレベルでした。今は、デジタルテクノロジーが、企業のビジネスそのものを変えるようになっています。
そして顧客は、トップ経営層。この層とのリレーションは強いです。社長やCEOが直接のお客さまになる。
もう一つ理由があって、組織のリーダーを経験したことです。そもそも組織のリーダーになりたいとは思っていませんでした。
ただ、IBMのリーダーになってみると、組織が動いているメカニズムや、その中の人の気持ちを、身をもって体験できたような気がするんです。また、リーダーとしての振る舞いが周囲にどんな影響を与えるのかを実感しました。自分としては新たな修業の場でもあるような気がしています。
──池田さんが一緒に働きたいと思うのは、どのような人ですか。
テクノロジーが人々の生活、社会、企業、産業を大きく変えつつある時代です。その中で、自分を常に更新し続けたいという思いをもつ方々と切磋琢磨していきたいですね。
IBMは、本当にグローバルに統合された企業であり、多様な知見が得られて、違った種類の人と国境を超えて仕事ができるので、そのメリットを重視する人には面白い場所だと思います。
また、我々にコンサルティングを依頼されるクライアントは、常にグローバルな変革の実現を期待されています。日本企業であっても、スコープが日本国内だけの仕事は、ほとんどありません。それに応えられる、本当にグローバルな体制が組めるのが、IBMの強みです。
コラボレーションが苦手で個人プレイヤーのままでいたい方には、ちょっと難しいと思います。自分もかつては、そういう人間だったのですが(苦笑)。 個人が一騎当千でクライアントに乗り込む時代ではありません。今、お客様がコンサルティングを求める経営課題は広範かつ複雑で、多様なスキルを持ったチームでなければ解決できないと思います。
この会社の力をうまく使って、クライアントに価値を提供したい、日本の企業に成長してもらいたい、そして仕事を通じて自分が成長したいと、心から願っているメンバーに来てほしいです。結構、きれい事に聞こえるかもしれませんけど、本当にそう思っています。
(取材・編集:木村剛士、構成:加藤学宏、撮影:長谷川博一)
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