マーク・キューバンやNASAも支援

魚を使用しない魚の切り身、有色人種の女性のためにつくられたヘアケア製品、遺骨をダイヤモンドに変えるメカニズム──。
こうした商品は、素晴らしいものに聞こえるだけではない。
Inc.が選ぶ「30アンダー30」によれば、若い起業家にとって2018年の最も有望なビジネス分野でもある。30アンダー30はInc.が年に1度発表する、30歳以下の創業者が経営する印象的なスタートアップのトップ30である。
ミレニアル世代、さらにはZ世代が意外なニッチ市場に参入しているが、勘違いしてはいけない。「ニッチ」は決して、利益にならないことを意味する言葉ではない。
これらのビジネスは年間に数億ドルを売り上げ、実業家のマーク・キューバンやNASA、評価の高い映画監督ダーレン・アロノフスキーなどから投資や支援を受けている。
それでは、ミレニアル世代の起業家たちのために、2018年の最も有望なビジネスを順不同で紹介しよう。

1.「意識の高い」食料品

もしオーガニック食品市場の有望さがまだ明白でなかったとしても、アマゾンが2017年夏、グルメスーパー「ホールフーズ・マーケット」を137億ドルで買収したことは決定的だったはずだ。
事実、ワシントンに拠点を置く「オーガニック・トレード協会」によれば、2016年、オーガニック食品の売り上げは前年から8.4%伸び、過去最高の430億ドルを記録している。
このトレンドは、2018年の30アンダー30に複数の健康食品企業がランクインしたことにも反映されている。
たとえばノー・カウ(No Cow)は、砂糖や乳製品を使っていないプロテインバーやクッキー、ナッツバターを販売する企業で、年間1000万ドル以上を売り上げている。現在21歳のダニエル・カッツが2015年にデンバーで創業。2018年中には年間売り上げが2倍に達する見込みだ。
いっぽう、こちらはまだ売り上げを計上していないが、フィンレス・フーズ(Finless Foods)も有望なスタートアップだ。ベイエリアに本拠を置く細胞農業(cellular agriculture)の企業で、魚の細胞を食物の酵素で結合させた「コイのコロッケ」などを開発している。
サンディエゴを拠点に、健康的なシェイクやサンドイッチ、アサイーボウルを製造するシェイク・スマート(Shake Smart)も紹介しよう。主な顧客は大学生で、2017年には360万ドルを売り上げた。

2. インフルエンサーの支援

インフルエンサーマーケティングは間違いなく、2018年の起業に最も適したビジネスのひとつだ。市場調査会社IBISワールドによれば、インフルエンサーマーケティング市場は2017年、100億ドル以上の売り上げを記録している。
ソーシャルメディアを使いこなすインフルエンサーたちを相手にするのに、同世代である20代の起業家ほど適した人物がいるだろうか。
実際、30歳以下の起業家たちが次々と、メールマーケティングからユーザーエンゲージメントを追跡するためのメトリクスまで、インフルエンサー向けの製品やサービスを開発している。
コンバートキット(ConvertKit)を例にとってみよう。ネイサン・バリーCEOが5年前に立ち上げた同社は、メールマーケティングツールを専門とする企業だ。プロのクリエーターたちが、ブランディングの一貫性を維持しながら、さまざまなプラットフォームでオーディエンスを獲得する手助けを行っている。
ミックスパネル(Mixpanel)は、評価額10億ドルに迫るサンフランシスコのスタートアップで、モバイルアプリやウェブアプリのユーザーエンゲージメントを計測するためのソフトウェアを開発している。
売上高は公表していないが、資金調達の詳細は明らかになっている。29歳の創業者兼CEOスハイル・ドシのもと、すでに7700万ドルの出資を集めている。

3. ムーンショット

Inc.では、ビジョンの分類が難しい起業家を「ムーンショット(月ロケット計画のように野心的な挑戦)」に分類している。イーロン・マスクの「ハイパーループ」構想や、ジェフ・ベゾスの航空宇宙企業ブルーオリジンが先例だ。
テキサス州オースティンに本社を置くエターネバ(Eterneva)は、遺骨から抽出した炭素をダイヤモンドに変えるサービスを提供している。創業者のアデル・アーチャーは、火葬を選択する人が増えているという事実に着目した。近年のアメリカでは、土葬より火葬の数が多くなっているのだ。
エターネバは、人工ダイヤモンドを製造する研究所や世界中の研磨会社と提携し、愛する人の遺骨を、好きなデザイン、大きさ、色のダイヤモンドに変えている。2017年の売り上げは28万ドルだったが、2018年は180万ドルに到達する見込みだ。
レラティビティー・スペース(Relativity Space)も、ムーンショット部門のスタートアップだが、こちらはまさにムーンショット的だ。創業者のティム・エリスとジョーダン・ヌーンは、世界初となる3Dプリント製ロケットの開発に取り組んでおり、2020年までの打ち上げを目標に掲げているのだ。
創業2年の企業だが、すでに10億ドル超の契約を獲得した。出資者には、全米プロバスケットボール協会 (NBA) のチーム「ダラス・マーベリックス」のオーナーで、テレビ番組「Shark Tank」の審査員も務めるマーク・キューバンもいる。
また、ミシシッピ州にあるNASAのジョン・C・ステニス宇宙センターでテストを行うための契約も結んでいる。

4. 利益と社会貢献を同時に実現

企業が利益を追求しながら、本当の意味で社会に貢献することは可能かという議論がある。しかし、不可能だと言い切ることはできない。
ビー・ダウンタウン(Bee Downtown)やアース・エンジェル(Earth Angel)などの企業は、動物や環境への悪影響を減らす手助けをしながら、数十万ドルの年間売り上げを生み出している。
ビー・ダウンタウンは、デルタ航空やレストランチェーンの「チックフィレイ」などさまざまな企業にハチの巣を販売し、建物への設置を請け負っている。
一方のアース・エンジェルは、映画スタジオやアロノフスキーをはじめとする映画監督たちと提携。映画やテレビ番組の制作プロセスを環境志向的なものにする仕事を請け負っており、1作品につき5万ドルを請求する場合もある。

5.「人々に力を」

有色人種が、一般の平均より早いペースでビジネスを立ち上げる傾向を見せている。ブルッキングス研究所のデータによれば、マイノリティーが経営する中小企業は1997年から2007年の間に25%以上も増えている。
若い起業家たちはそうした流れに追随するだけでなく、伝統的に十分なサービスを受けることができない同じマイノリティーをターゲットにしている。
デリアス・クォールズは、シカゴとブルックリンを拠点にして個人ファイナンスのプラットフォームを提供するブロー・キャピタル(Breaux Capital)の共同創業者兼CTOだ。
同社は2016年の創業以来、自社のソーシャルネットワークと自動貯蓄プラットフォームに有色人種1000人以上を呼び込み、追加機能にアクセスするための会費で利益を得ている。現在はモバイル版の開発を進めており、2018年の売り上げは12万ドルに達する見込みだ。
クォールズCTOは筆者の取材に対し「これは、もっと大きな問題の一部であることをわれわれは理解している。その問題とは、黒人たちが直面する不平等だ」と語り、次世代の中小企業経営者たちが価値のある貯蓄を投資に回す手助けを行っていると言い添えた。
一方、TONLは「ブラック・ライブズ・マター」運動から生まれた企業だ。黒人や褐色人種に関連したストック写真を提供しており、2018年は18万8000ドルの売り上げを見込んでいる。
スーダン移民のムガ・エルティガニは最近、ナチュロール・クラブ(NaturAll Club)を創業。まとまりにくい縮れ毛を持つ黒人女性を対象に、ヘアケアの会員制サービスを提供している。エルティガニによれば、2018年の売り上げは、前年比2倍近い25万ドルに達する見込みだという。

6. 人生の改善

これは「ホールマーク・チャンネル」の新しいリアリティー番組のタイトルではない。若い起業家たちが支配力を強めている、本物の豊かな市場セクターだ。30アンダー30もそれを示している。
マーケットデータ(Marketdata)の調査結果によれば、米国の自己改善(self-improvement)市場は2017年、2011年から4%以上成長し、約99億ドルの売り上げを達成した。
その一例が、個人に合わせたスキンケアを提案するハローアバ(HelloAva)だ。オンライン売り上げの一部を手数料として受け取る仕組みで、2017年には35万ドルを売り上げた。
一方、ドットコム・セラピー(DotCom Therapy)は、言語療法や作業療法、メンタルヘルスサービスを遠隔で提供する企業だ。世界規模で急速に市場を拡大しており、2017年には200万ドル以上の売り上げを記録した。
最後に紹介するのは、カリフォルニア州パサデナに本社を置くリオラボ(ReoLab)。最先端の医学検査キットを提供するスタートアップで、すでに50万ドルの出資を受けている。
創業者クリシュナ・バルガヴァの言葉は、同世代の起業家たちの野心を代弁するものかもしれない。「われわれは、驚くほど使いやすい診断検査キットを提供したいと思っている。目標は、キューリグのコーヒーマシンだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Zo Henry/Staff writer, Inc.、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:Peshkova/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.