【就活生レポート】社会に出るってどういうこと?ワークショップ

2018/5/13
就職活動中の学生さんや新社会人のピッカーさん向けに開催した、NewsPicksのワークショップでは、吉田将英さんを講師にお招きしました。
プロジェクトプランナーであり、電通では「電通若者研究部」の代表でもある吉田さん。約30名の就活生ピッカーが、吉田さんオリジナルのワークショップ「社会に出るとはどういうことなのか?」に参加し、対話を重ねました。
その模様を、参加者の一人でもあり、3月に掲載した記事「就活生ピッカーのリアルな『NewsPicks活用法』」でも紹介した、Tsutsumi Harunoさんにレポートいただきました。

「やりたいことリスト」を携えて

さまざまなヒトやモノの「関係性」をデザインすべく、経営者にコンサルテーションを行うかたわら、企業活動に「新しい感性」を還元すべく若者研究にも従事されている吉田将英さん。
今回のワークショップで吉田さんは3つのセッションを行い、その合間に振り返りやアドバイスをくれました。
吉田将英(よしだ・まさひで)
プロジェクトディレクター。専門は、物事や組織の間の「関係性のデザイン」。クライアント企業のビジネス全般に対してアイディアで新しい価値を創造する、電通ビジネスデザインスクエアのメンバーとして活躍。それと並行して、“若者”と社会の関係性をデザインする「電通若者研究部」の代表を務めている。2018年5月、NewsPicksマンスリープロピッカーに参画。
ワークショップに参加するにあたって、参加者には「自分が人生で実現したい“やりたいこと”を100個あげてくる」という宿題が出されていました。
ひとつ目のセッションでは、さっそくこのやりたいことリストを用いて自己紹介。
ここでのルールは、「100個あげてきたやりたいことの中から“自分らしさが特にあらわれていること”3つを使って、自己紹介をすること」。その際、自分の肩書きや出身地といった基本情報は伝えてはいけません。
普段とは違う自己紹介スタイルに戸惑いつつも、不思議と自然に言葉があふれてきました。自分の好きなものの話をしているからでしょうか。いつもより笑顔で、前のめりに話してしまいました。

「やりたいこと」の重なりを探る

2つめのセッションでは、自分のやりたいことを1つ決めて、それを相手に伝えました。このときに設けられたハードルが「相手にも力を貸してもらえるように話すこと」。

私は「各々が学びたいことや探求したいことをみんなにシェアするゼミを作りたい」ことと、このゼミが実現したら自分の知識と見える世界が広がることなど3分で伝えました。
やりたいことを伝え終わったところで、吉田さんからこんな問いかけが。
「相手が自分に対して、その“やりたいこと”を実現するために何をしてほしいか。それが理解できた人はどれくらいいますか?」
この質問には、参加者の多くが首を傾げ、手を挙げる人の数は半分以下に。
確かに、自分のやりたいことばかりを伝えてしまい、そのために何を協力してほしいか、言語化できていなかった……。
この2つめのセッションのポイントを、吉田さんはこうまとめました。
2人1組になり、“自分らしさ”のある「やりたいこと」を説明し合いました。
“相手がしたいことと、自分のやりたいこと。このふたつを重ねて説明できること”
「何かをやるときに、“私一人でできます”とか、“誰にも迷惑をかけずにやりたいことやって一人で生きます”という人もいます。でも、これが成り立つことって、実はとっても難しいんです。
なぜなら、今の社会は『誰かにとっての価値を生み出す代わりに、対価をいただいて生活する』社会だからなんですね。
その社会において、今、皆さんが向き合っている『就職』という形の場合は、会社に対して価値をもたらすことを求められるわけです。
就職活動では会社から『この子が実現したがっている夢を、我々と一緒にやれば、うちの会社もメリットがある』と期待できないと交渉が成立(内定)しません。
つまり、就職活動における会社選びとは、『自分が“やりたいこと”を語ったときに最も協力してくれそうな人を選ぶ』活動だと言い換えることができそうです。」(吉田さん)

社会にどんな大義があるのか

就活というと、業界を研究して志望企業を絞り込むプロセスだと思い込んでいた時期もありますが、そのやり方ではそもそも本気で“やりたいこと”を語るのは難しそう…。
そんな感想を持ちながら迎えた、3つめのセッション。相手に伝えた「やりたいこと」にもうひとつの視点が加わります。
「それを成し遂げることが、社会にとってどんな大義があるのかを加えて、もう一度相手に説明してみましょう」(吉田さん)
自分の実現したいことを話し、相手のやりたいこととの重なりを示し、それが社会にどんな価値をもたらすのかーー。セッションは続きます。
最後のセッションの締めくくりに、吉田さんは今回のイベントのキーワード「社会」について参加者に問いかけました。
「あらためて、『社会』とは何なのでしょう?
アマゾンの密林で暮らす原住民は、 iPad 新機種が発売されたニュースを知らないでしょう。NewsPicksを読んでいる大学生の皆さんは、ご存じかもしれませんね。
では、アマゾンの原住民と大学生の何が違うのか?
私はその違いを、生活している『社会』が違うのだと捉えています。
もう少し皆さんにとって、身近な話に置き換えてみましょう。
例えば最近、『AI』のニュースを目にすることが増えましたね。もし『AIがこれからの世の中を変える!』という主張を知る機会があったとして、これは『自分の生活(社会)に影響を及ぼす情報』なのか、それとも『距離の遠い情報』なのか、一体どちらでしょうか?
先ほどのセッションで皆さんが話した『やりたいと思ってること』と『AIが新時代を築く』という情報は、別の社会のことかもしれません。それなのに、世間が『AI! AI!』 と騒ぎ立てているからと、自分との関係性が分からないのに勉強せねばと焦ってしまったりする。
自分とは本来離れたところにある、別の社会で起きていることに焦っても、あまり意味が無いのではないかと思うのです」(吉田さん)

情報との向き合い方

そもそも、なぜ今世の中に色々な「社会」が広がっているのでしょうか。
吉田さんは現代社会が未だかつてないレベルの情報量を抱えていることを指摘します。
「米国調査会社IDCによると、人類の世界に飛び交っている情報の総量は、2000年までで6.2エクサバイト(10の18乗)ぐらいでした。それが2020年には44ゼタバイト(10の21乗)ほどになると言われています。
これは、2000年以前の有史以来の記録情報全ての情報量の約7000倍が、たった一年で流通しているという状態。
つまり、世に出回っている情報、選択肢が多すぎる状態で、皆さんのみならず誰もが迷って当たり前の時代です。
情報量が多いことが悪い訳ではありませんが、その情報とどう向き合うかということが一層大事になってきたということです。」(吉田さん)
そして吉田さんは、参加者たちに社会へ飛び出すためのメッセージをくれました。
「現在、皆さんが“難しさ”に直面しているのはは、『自分の幸せに辿り着くように、人生というゲームそのものを自分自身で自作せねばならない』時代を生きているからです。
そして、これだけ不確実性が高い世の中においては、能力よりも大きな意味を持つものがあるんですよ。では、何が武器になるのか?
私は『勇気』だと思うんです。好奇心に忠実に、いかに素早く行動にうつす勇気を持てるかが重要です。
誰も答えを知らない世界において、勇気を出して色々な経験をすれば、その経験則がどんどんその人に貯まっていく。これからは一層『やってみた人勝ち』な世界になる気がします。
大切なのは『自分にとっての”社会”は、どこに広がっているのか?どんな価値を発揮し、その社会にいる人たちを喜ばせられるのか?』を考えつづけることです。
他の人と自分を比べたりして、焦る必要はありません。むしろ、こんな不確実な時代であることを逆手にとってしまえばいい。

自分が面白いと思えることを貪欲に追求して生きればいいんじゃないかなと思います。」(吉田さん)

今回のワークショップを通じて、私は「自分から情報発信することによって、自分の“社会”が形成されていく」ことのリアリティと、その可能性を実感しました。

1年ほど前にNewspicksを使い始めたときは、自分の意見を実名で発信することに対して躊躇がありました。いざコメントを始めてみたら、吉田さんがおっしゃるところの「自分から遠い情報、近い情報」の感覚が養われていく実感がありました。

「このジャンルの記事はコメントができるけど、このトピックには興味が持てない。これは興味があるのだけど、コメントできるほどの知識がまだない。」そんなことを考えながらコメントを続けていたら、同じ就活生の友人が「こんなことに興味があるんだね、それならこのイベント興味ない?」と紹介してくれたり、私が書いたコメントを元に、ほかのピッカーさんが新たな発見をしてくださったり。

NewsPicksで私が体験したことは、「自分の内側から湧いてくる声に耳をすますこと」。それを繰り返すことで、私なりのものの見方を形づくることができると再確認できました。

吉田さん、充実の2時間をありがとうございました!(Tsutsumi Haruno)
(文:Tsutsumi Haruno/編集:小野晶子/写真:山下大智)