[ロンドン 7日 ロイター] - ドル高の再燃で新興国市場に激震が走っている。アルゼンチンやトルコの通貨が急落したほか、全般的に3年続いてきた利下げサイクルに終止符が打たれようとしている。

年初の段階では、新興国市場は順風満帆だった。堅調な世界経済やコモディティ高、物価の落ち着き、ドル安という環境にあったからだ。このため利下げ局面と債券相場の上昇は今後も続く公算が大きいと期待されていた。

実際ブラジル、ロシアといった有力国からアルメニア、ザンビアに至るまで利下げの動きが広がり、2015年1月時点で7%を超えていた新興国市場の平均借り入れコストは、今年序盤に6%未満まで低下した。

この間ファンドマネジャーの利益は膨れ上がり、現地通貨建ての新興国債券は最も値動きが良好な資産クラスとなった。昨年のドル建てベースに直したリターンは14%。今年第1・四半期でさえ、なお4.3%を確保していた。

ところが2013年の「テーパー・タントラム」(米連邦準備理事会=FRBが量的緩和縮小を示唆して国際金融市場に大混乱が生じた出来事)からほぼ5年が経過したところで、再び新興国債の相場が変調をきたし、大幅反落の憂き目を見ようとしている。

ドル高によって通貨ペソが急落したアルゼンチンは、政策金利を40%へ引き上げた。リラが対ドルで過去最安値に沈んだトルコも利上げを余儀なくされ、ルピア防衛のために大規模な為替介入を実施したインドネシアはこの先金融引き締めで対応する可能性があると表明した。

ほぼすべての新興国通貨が下落している関係で、現地通貨建て新興国債の利回りは跳ね上がり、投資リターンは年初来でマイナスに転落してしまった。

アリアンツ・グローバル・インベスターズのポートフォリオマネジャー、ナビーン・クナム氏は「利下げが巻き戻されている」と話し、新興国の金融政策を巡る不透明感が高まっているとの見方を示した。

JPモルガンの指数で判断すると、ドルの上昇とともに新興国通貨は過去2週間で3%程度下落した。国際金融協会が今週発表したデータでは、新興国債から2週間で55億ドルが流出し、資金流出ペースはテーパー・タントラム当時よりも急速になっているという。

<政策金利予想が一変>

インフレという問題については、新興国は既に克服したかのように見えていた。ロシアでは物価上昇率が目標を下回って過去最低になり、インドは5カ月ぶりの低い伸びで、ブラジルも今年の物価上昇率が目標の3.8%に届かない見通しだ。インドネシアの4月物価上昇率は1年前に比べて100ベーシスポイント(bp)も低下した。

それでも最近の情勢変化を受け、一部のアナリストは新興国の利下げが持続するかどうか疑念を持ち始めている。例えばロシアに関して、中央銀行が4月下旬に政策金利を据え置くと、市場関係者が予想する利下げ規模が縮小した。現在見込まれる年内の利下げは1回か2回だが、以前はもっと多かった。

ズベルバンクCIBのアナリストチームは、もはや9月前の利下げは想定しないと述べた。

インドなどエネルギーを輸入に頼る新興国では、ドル高だけでなく、原油価格上昇も逆風だ。こうした中で市場が織り込む今後1年のインドの利上げ回数は、1週間前の1回強から足元で2回強に跳ね上がった。

クレディ・アグリコルの新興国市場調査・戦略グローバル責任者セバスティアン・バーブ氏は「今や多くの新興国中銀が持つ疑問は、(金利を)より素早く引き上げるべきかどうかというものだ」と説明した。

新興国の中ではこれまで比較的落ち着いていた東欧でも、チェコ中銀が、通貨コルナの突然の急落に対応して再び利上げする可能性があると警告している。

こうした事態は、好調なリターンが続くと期待して新興国資産に資金を積み上げてきたファンドマネジャーにとっては大打撃だ。特に新規参入組には痛手かもしれない。今年に入ると多くの新規ファンドが立ち上がり、その中にはフランクリン・テンプルトンの著名ポートフォリオマネジャー、マイケル・ハッセンスタブ氏が設立したファンドも含まれる。

これまでのところは、債券市場における外国人保有比率が高いインドネシアのような国が最も売りを浴びせられている。

(Marc Jones、Karin Strohecker記者)