【浅野拓磨】ドイツで痛感。FWとして決定的に足りないこと

2018/5/12
日本人選手として随一のスピードを誇る浅野拓磨の足には、世界トップレベルのブンデスリーガにおいても「速い」と評価されるだけの価値がある。
しかし、そのスピードをもってしても、所属するシュトゥットガルトでは満足な出場機会を得られていない。
ピッチ内外にあるその理由を、浅野は自らの言葉でいくつも挙げることができる。今はそれほど冷静に、自分自身の置かれた立場を客観視することができている。
もっとも、直面する壁を打ち破るためには、最大の魅力であるスピードを武器とするより他ない。浅野は言う。
「ブンデスリーガでは、単純なスピードが通用しません」
ドイツではなぜか、自分よりはるかに足の遅いDFを相手にしても、簡単には振り切れない。サイドのポジションを任されることが多い浅野がタッチライン際に開き、チームメイトからパスをもらったとき、対峙する相手を目の前にして何を考え、どんなことを感じているのか。
浅野が「単純なスピードが通用しない」と感じる理由には、日本人選手が世界で結果を残すためのヒントがある。
浅野拓磨(あさの・たくま)
 1994年三重県生まれ。四日市中央工業高校2年時に高校選手権で得点王に。卒業後、サンフレッチェ広島に入団。2015年日本代表に初選出。2016年アーセナルに移籍したが、労働ビザの取得が難しくシュトゥットガルトにレンタル移籍(撮影:Itaru Chiba)

ドイツのDFは「しつこい」

ブンデスリーガでは単純なスピードが通用しません。
トップスピードに乗ろうとする僕と並走するとき、こちらの選手たちは自分の身体を僕にぶつけながら走ろうとします。そうしてスピードを殺しながら走ろうとするため、相手がどんなに足の遅い選手でもなかなか振り切れず、トップスピードに乗らせてもらえない。
その感覚は、試合だけじゃなく練習でもあります。「なんでコイツに勝てないんだろう」と思うことがよくあるけれど、とにかく身体のぶつけ方と腕の使い方、スピードを殺してパワー勝負に持ち込む守備がうまい。その技術については「やっぱりすごい」と感じるし、日本では体感できないものだと思います。
一対一の局面における守備の方法論として、日本人選手は対峙する相手が自分より「速い」と思った瞬間、100%のスピード勝負を避けようとする傾向があります。同じように、相手が自分より「強い」と思った瞬間にも、100%のパワー勝負を避けようとする。それが一般的な方法論です。
でも、こちらでは足が遅い選手でも、反応が鈍い選手でも、つねに100%の勝負を挑んでくる。スピードを駆使して一瞬「抜けた!」と思っても、そこから身体や腕をうまく使って引き下がらず、最後の最後に足を伸ばしてボールをつついてくる。スピードで振り切ろうとして「よっしゃ!」と思う瞬間があっても、そこからスピードを上げさせてもらえない。並走するDFのパワーは、ブンデスリーガ1部でプレーするようになってからいっそう強く感じました。
日本人の守備はよく「しつこい」「粘り強い」といわれますが、個人的には逆じゃないかと思います。しつこいのはむしろこちらの選手で、一度身体をぶつけられたらなかなか振り切れない。
僕の個人的な感覚では、下がりながら構えてくれる日本のDFに“賢さ”は感じても、“しつこさ”は感じません。

「壁」ではなく「現象」

ただ、Jリーグとブンデスリーガにおけるそうした違いが、自分にとって“壁”になるとは考えていません。
自分の仕掛けがすべて止められているわけではないし、一対一の局面のすべてで「やられた」と感じるわけでもない。相手もリスクを冒した守備をしているから、抜けるときもあれば、そうじゃないときもあるのは当たり前。
むしろ、パワーでスピードを殺そうとする駆け引きがうまい選手を相手にしても、「やれる」と感じる瞬間はたくさんあります。
だから、一対一の局面において僕が直面しているのは、壁ではなく、一つの現象に過ぎない。たしかにレベルは高いと感じるけど、勝てないわけではありません。
それを証明するためにも、まずは数字に表れる結果を残さなければなりません。つまり、ゴールという成果を上げることこそが課題です。
一対一の局面で競り勝って、いいかたちでシュートまで持ち込む場面はつくることができている。その手応えは確かに感じているけれど、やはりFWとしてはゴールという結果を残さなければ評価されない。
シュートまで持ち込むことができていてゴールが足りないのだから、その精度を高めることに集中しなければいけません。
(構成:細江克弥、写真:アフロ)