【最終回】NFLを魅力的にする、各競技間の「競争原理」

2018/5/6
4月の最終週、テキサス州ダラスにおいて2018年度のNFLドラフトが開催された。
主観の域を出ないが、NFLというリーグは、イベントのない、つまりメディア露出のない月を嫌う傾向がある。例えば2月のスーパーボウルが終わると、数週間後の2月末にはドラフトに向けたフィジカル測定を目的とした「NFLスカウティングコンバイン」が行われ、3月には多くの選手がトレードや新契約を行う「フリーエージェントの解禁」、そして4月末には「NFLドラフト」がある。
それぞれがテレビでの生中継を含み、多くのメディアに、まるでリーグに操られているかのように取り上げられていく。「オフシーズンもファンの目をフットボールから離させない」というリーグの戦略が見てとれるスケジューリングである。

競争なくして、成長なし

こちらの連載でも今まで何度かお話しさせていただいたように、ここアメリカにおいてスポーツとそれを取り巻くビジネスが成熟していることの大きな要因の一つは、競技間の競争である。
小さな頃からシーズン制でプレーし、日本人に比べてより多くのスポーツを経験してきた子どもたち。その中でもアスリートとしての能力が高い子どもたちにはやがて、その中から自分が好きで、自分が輝くことができ、(アメリカ人はわかりやすいので) 最もお金の稼げるスポーツを選択しなければならない岐路がやってくる。
その際に、フットボール、野球、バスケットボールをはじめとする競技は、トップアスリートにその競技をプレーするよう選んでもらわなければならない。ファンにしても同じことが言える。シーズン制とはいえ、多くのスポーツが併走する中で、各競技は「ファンにゲームに足を運んでもらい、見てもらう」という競争に勝たなければならない。つまり、競技としての魅力を磨き続ける必要がある。
日本に存在しないこの状況は、自然と競技間の競争を生み、それぞれのトップに君臨するプロリーグは誰に頼まれたわけでもないのに、その競争に勝ち抜くために、所属チームを束ねて、様々な戦略や戦術を駆使して、アスリート及びファン獲得に注力している。「競争なくして、成長なし」である。
前述のNFLのドラフトに関して言えば、NBAとNHLのプレーオフが佳境となるこの時期に、このコンテンツをぶつけてくる。テレビ局泣かせであるのは明らかだが、これも競争に勝つ戦略の一つなのであろう。

ドラフトもエンターテインメント

さて、このドラフト会議。競争原理が強く働くこのマーケットでは、ドラフト会議もエンターテインメントの一環であり、他の競技との差別化の手段の一つなのである。
2015年のドラフト会議
ダラス・カウボーイズの本拠地である巨大なドームスタジアムで行われたこのイベントでは、各地からチームの熱狂的なファンを会場入りさせ、それぞれの指名を盛り上げる。
また、上位指名が予測される選手とその家族向けに、メイン会場内に円卓を用意して、指名された時の感動の演出を生中継するなど、まさにエンターテインメントである。
1巡目はすべて、コミッショナーが指名選手の発表をするが、2巡目以降はファン、各チームのレジェンドやチームにゆかりのある人、退役軍人、はやりものやキャンペーンものが発表し、「ファンや視聴者のためにやっているのでは?」と勘違いするぐらい、エンターテインメントに富んだ内容なのである。
特筆すべきことがもう一つある。このNFLドラフト、数年前からいくつか場所を変えて行っている。皆さんもお気づきかと思うが、これだけ大きな3日間のイベントがその都市に来れば、その1週間、地域経済が潤うのである。各フランチャイズの都市やファン、社会貢献を強く意識した、アメリカのトッププロスポーツリーグならではのアイデアと言えるだろう。
サンフランシスコ49ersの指名選手をなぜかR2D2が発表し、ファンの子どもが訳す(撮影:筆者)

共存共栄を目指すNFL

私はスタンフォードの大学院でスポーツビジネスの授業をとっているが、その中であるスポーツエコノミストがNFLについて発した言葉が印象的だった。
「NFLというリーグのビジネスは、世界でも象徴的な資本主義的ビジネスモデルであるにもかかわらず、近寄って見れば見るほど、共産主義的である」
要約すると、マーケティング、プロモーション、あらゆる最新のビジネス手法を使ってお金を儲け、儲かったお金や資産、財産はリーグのものとなり、ひいては各チームに分配されている。
上記の事情を踏まえると、いろいろな説明がつく。例えばNFLが用いているドラフトの手法――前年度の最下位から優先的に選手をピックアップする「ウェーバー制」や、チーム全体の(選手に対する)給料に上限を儲けるサラリーキャップもその一環なのだ。つまり、各チームが一定の戦力均衡を図り、リーグ内での共存共栄を目指しているのである。
ドラフトされる選手の立場から考えてみよう。ウェーバー制では、選手に選択権は1ミリもない。特定の球団に行けないなら、浪人や社会人へという選択肢はない。言葉を換えれば、選手にとってはNFLに行くことが一番大事であり、それぐらい魅力的なリーグであるのだとも言える。
魅力的なリーグが繰り広げる魅力的な競技間の競争による、スポーツ産業の発展。日本でも見てみたいものである。
(写真:AP/アフロ)