テクノロジーは日常生活を根本的に変えようとしている。破壊的変革が始まったばかりの、日常生活に関連の深い5つの分野を紹介する。

「どんな企業も最終的にはテック企業になる」

テクノロジーはいまや、かつてはシリコンバレーとは無縁だった業界まで支配し始めた。これまでテクノロジーを必要としなかった日常生活のさまざまな領域が、新たなテクノロジーの色合いを帯びることによって、すっかり作り変えられつつあるのも何ら不思議なことではない。
「既存企業のCEOたちが、自分の会社はたまたまピザを作っているテック企業だとか、たまたま鉄鋼を作っているテック企業だと言うようになっている」と語るのは、人工知能関連の製品開発スタジオ、マニフォールド(Manifold)のマネージングディレクター、ヴィナイ・モータだ。
「どんな企業も最終的にはテック企業にならざるを得ない。そして多くの会社が、自分たちの顧客、パートナー、チームとともに、そこへ至るためのロードマップの策定に取り組み始めている」
では、このように雪崩のように押し寄せるAI、オートメーション、機械化は、わたしたちの日常生活にとって、何を意味するのだろうか。ここでは、テクノロジーによる抜本的な変革が迫っているか、あるいはすでにテクノロジーのルネサンスが始まっている領域を、いくつかご紹介しよう。

1. 食べ物の選択

新しいテクノロジーは、食品産業に大変革をもたらすだろう。
ビッグデータの文脈で眺めれば、食生活指針ピラミッド(注:アメリカ農務省の食品選択ガイドライン)のうちどのブロックで、これまで予想されていなかったことが起こり得るのかが見えやすくなる。その好例は、砂糖の取りすぎが健康に及ぼす悪影響を明らかにした最近の研究だ。
また、テクノロジーの助けを借りれば、わたしたちが体に取り入れようとしている食べ物について、実際に口に入れる前に確認することもできる。
食品に含まれるグルテンやピーナッツを検出するニーマ(Nima)のポータブル・センサーは、これらの食物に過敏だったり、まったく受け付けなかったりする人々がうっかり口にしてしまわないようにするのに役立つ。
ニーマの共同創立者シリーン・イェイツは「栄養学に関するテクノロジーは、まだ初期的な段階にあり、われわれは現在、データにフォーカスを当てている」と述べる。エキサイティングな未来を予想している同氏は、さらにこう続けた。
「栄養学的なデータに関していえば、主なフォーカス領域は2つある。わたしたちは何を体に取り入れているか、あるいは食物には何が含まれているかということと、人間の体がそうした食物にどう反応するかだ。
この2つの領域で、検証済みのデータを十分に集めることができれば、自然に第3の領域が見えてくるだろう。それは、そうしたデータに基づいて個々人に応じた判断をしてくれる、カスタマイズされた提案だ」

2. パーソナルアシスタント

さまざまな場所で目にするようになったパーソナルアシスタントは、わたしたちと会話する時間を重ねれば重ねるほど、さらに賢くなっていく。
エヌビディアの上級科学研究員アレハンドロ・トロッコリは「パーソナルアシスタントのAIは、ますます賢くなっていくだろう」と述べる。「パーソナルアシスタントは、わたしたちの日常生活についてさらに多くのことを学びつつある。人間が夕食の準備について考える必要がなくなる日も、わたしには十分に想像できる」
トロッコリが想像しているのは、比較的近い将来にAIがわたしたちの手伝いをする能力が、ほぼ限界のないものになることだ。
「わたしのAIは、わたしの好みや食料庫にあるもの、わたしが家で料理をするのは何曜日かを知っている。そして、わたしが仕事から帰ったときには、玄関前に必要な食料品が届けられていて、あとは待望のおいしい料理を作るばかりにしておいてくれるだろう」

3. 教育

質素な紙の教科書は、何世代にもわたって生徒たちの勉強に役立ってきた(成果のほどは、人それぞれだとしても)。だが最近では、個々のニーズに応じて生徒をアシストしてくれる、アダプティブなソフトウェアが普及しつつある。
シリコン・スクールズ(Silicon Schools)のブライアン・グリーンバーグCEOは「わたしたちは、7歳児は全員が同じであり、同じコンテンツを与えるべきだというパラダイムに戦いを挑んでいる」と語る。
生徒に算数を教える「ドリームボックス(DreamBox)」は、そうしたテクノロジーのひとつだ。伝統的な教室での授業とは異なり、ドリームボックスは、まずは生徒の能力を見定め、その生徒が無理なく達成できるペースを設定して、個々の生徒に合わせた教え方をしてくれる。
アプリベースの学習や幼稚園の年代からコンピュータを学ぶことと組み合わせれば、未来の子供たちは過去の世代と比べるとずっと速く、しかもその子に合ったペースで勉強ができるようになるかもしれない。

4. 金融取引

多少のトラブルを伴ったセキュリティチップ技術の導入を別とすれば、クレジットカードは発明されてから今日まで、それほど大きく変わっていないし、消費者の方も特に変化を望んではこなかった。
実際、消費者の大半は、いま使っている決済方法に満足している。しかし、そんなことにはお構いなく、AIは決済の方法に変化を起こそうとしている。
「AIのおかげで、ユーザーの顔が新たなクレジットカードになり、免許証になり、バーコードになる時代が来るだろう」と語るのは、オレンジ・シリコンバレー(Orange Silicon Valley)のジョルジュ・ナホンCEOだ。同氏は、テクノロジーが金融取引をどう変えるかについて、予想される未来の一端を示した。
「生体認証機能と組み合わせることで、顔認識はセキュリティを根本的に変えつつある。そして、たとえばアマゾンとホールフーズのようにテック企業と小売業者が次々と統合されていくのを見ていると、近い将来、買い物客がレジで列に並ぶ必要はなくなるだろうと予想できる」

5. ヘルスケア

ここ20年から30年の間に医薬品は飛躍的な進歩を遂げたにもかかわらず、時として、ヘルスケアは中世とほとんど変わっていないように思えることがある。
専門医との面会や救急処置室への搬送など、あらゆることにかかる長い待ち時間や高騰する一方の治療費の不透明性は、ヘルスケア領域における破壊的変革の機が熟していることを示すものだ。
「2018年は、AIが本格的に医療分野に進出する年になるだろう」と語るのは、マサチューセッツ総合病院/ブリガム&ウィメンズ病院の臨床データサイエンスセンターでエグゼクティブディレクターを務めるマーク・ミカルスキーだ。
「2018年の終わりまでに、主要なヘルスケアシステムのおよそ半分はそれぞれの診断部門に何らかの形でAIを取り入れると思う。その多くはまずは診断医療の分野で導入されるが、その後すぐに公衆衛生、病院経営、そして幅広い医療分野のためのソリューションが続くだろう」
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テクノロジーが驚くべきポテンシャルを持つ理由のひとつは、それが本来備えているスケーラビリティにある。シスコの予想では、2021年までにインターネットユーザーの数は46億人に達するとされている。そして、ここにあげた進歩の多くは、ただネットに接続するだけで利用できるのだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jeremy Goldman、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:Besjunior/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.