ITと人材に特化したメディア、マーケティング事業、HR事業などを実施するレバレジーズ株式会社が2018年2月、IT企業を対象としたM&A支援サービス「レバレジーズストラテジックM&A」をリリース。大きな話題となっている。今、なぜ、M&Aなのか?同社は何を武器に、このホットな市場へと切り込んでいくつもりなのか?二人のキーマンに話を聞いた。

エンジニアの価値を正しく評価する

―まずは、御社がM&A事業に乗り出すことになった背景からお聞かせください。
垂水 ITベンチャー同士、あるいはベンチャーと大手企業のマッチングを想定した「レバレジーズストラテジックM&A」というサービスの着想は、“事業承継”という社会課題の解決手法のひとつとして、M&Aが活性化しているという現状認識から生じています。
ところが、私たちがお取引をしているIT業界では、ニーズがありながらも、他業種に比べて活発にM&Aが行われてはいませんでした。M&Aをサポートする金融機関や証券会社、大手のM&Aコンサルにおいては、どちらかというとIT企業やSIerの優先順位が低くなっていたのは事実としてあります。
垂水隆幸 レバレジーズ株式会社 取締役 経営企画室長
アクセンチュア、不動産関連ベンチャーの営業部長を経て経営共創基盤(IGPI)に参画。IGPIでは国内大手企業の戦略立案、業務改革、人材開発、事業再生等のプロジェクトに従事。”事業価値の向上”を事業の当事者として実現する志を果たすべく、レバレジーズに参画。
高橋 なぜなら、従来の企業価値の算出論拠は、財務諸表や事業計画ベースが中心となっていましたが、ITベンチャーでは、そのセオリーのみでは通用せず、在籍するエンジニアやクリエイターの価値や買収後のグロースを熟考した上でのシナジー効果が重要視されるからです。そこに着目するM&Aアドバイザーは、ほとんどいませんでしたし、正しい企業価値の算出が実行されてこなかったと思っています。
ただ、近年、IT業界のM&Aニーズの高まりを察知したM&A仲介会社が、この領域への参入を試みています。ところが、着け焼刃的にITリテラシ―が高まったり、エンジニアやクリエイターのスキル価値査定ができたりするかというと、なかなか難しいと思いますし、売り手も買い手も納得はしません。
やはり、ITに理解のあるアドバイザーに仲介やサポートしてもらいたいと思うのも当然かと思います。
高橋 慧 レバレジーズ株式会社 新規事業検討室
学生時代からECのスタートアップ系企業にジョイン。2015年にレバテッククリエイターの法人営業担当としてレバレジーズ株式会社に入社。レバテック大阪支店立ち上げ、本社にて中途採用責任者を経て、2017年10月、新規事業検討室にアサインされた。
垂水 さらに、イグジットに関する課題もあると感じていました。これまでは、IT企業の経営者の中では、“最終的にはIPO”という観念が強かったかと思いますが、実は現在、“上場審査基準の厳格化”が囁かれ始めていて、今後、IPOはどんどん難しくなっていくことが予想されています。それに伴い、今後はIT企業に限らず、多くの“IPO断念層”が生まれると危惧しています。
これらのIT企業界隈で発生している課題の解決は、私たちが新たな事業を展開するうえで重視している、“社会貢献性”にも合致し、これまで弊社が提供してきた「レバテック」というIT特化型の人材サービスで蓄積してきた、約3万社の顧客データベースを用いて解決を図れるのではないかと考え、事業参入を決定しました。

ITベンチャーの多様なM&Aニーズに応える

高橋 垂水からこの話をもらって、私が主担当となり、まずは顧客データベースを活用した市場調査からスタートしました。そこでIT領域のM&Aの買い手のニーズには大きく2つあることがわかりました。
1つ目は、エンジニアやクリエイターといったIT人材をM&Aを通じて確保したいというものです。大手企業でよく見られる例ですが、自社で採用してもナレッジが蓄積されていないため、技術を持っている企業自体を買収し、傘下に入ってもらうという戦略を考えています。
私たちは、創業期からずっとIT人材、IT企業と向き合ってきたので、エンジニアの価値を正確に算出することができますし、企業同士をマッチングする際に、カルチャーがマッチするかどうかまでアドバイスができます。
2つ目が自社のサービスと親和性のあるWEBサービス自体を買収するというニーズです。事業拡大を目的とし、同業の企業からサービスを買い取る水平的なM&Aと、自分たちは参入していない領域ではあるけれども、自社事業とシナジーが期待できるサービスを買収していくパターンがあります。
垂水 あるいはベンチャーが抱えているメディア事業を買って、ユーザー数を増やしてバリューアップを狙っている買い主も一定の割合でいらっしゃいます。
高橋 WEBサービスの価値算出に対しても、アドバンテージがあると思っています。社内のマーケッターが、WEBサービスを分析し、PV数や、どのような属性の会員がいるかなど、定量的な情報をすべて洗い出し、それが買い手にとって、どのような価値を生み出すかまで検討します。
さらに、ソースコードやサーバー環境、インフラ回りなどをチェックして、買収後のシステム統合に関するコストも算出することも想定しております。おそらく、ここまで細かく対応できる会社は他にないのではないかと自負しています。
非常にユニークなサービスであるため、現在、M&Aを実施するかどうか考える以前に、自分の会社の価値を算出したいと考えている経営者の方からのお問い合わせも増えている状況にあります。もちろんそういった部分的な対応も可能です。

“売却の支援”=“創業の支援”

―ベンチャー企業がM&Aを実施する、その目的というのは非常に多様なのですね。
垂水 そうかもしれません。様々な属性の会社がありますからね。大手企業では、業界再編や同業内でのシェアアップみたいな話が多いかと思いますが、そういう意味ではベンチャーのほうが、比較的“クリエイティブなM&A”を実施しているといえるかもしれません。
エンジニアの価値算出を厳密にやっていく、そしてIPOだけでなく、M&Aというイグジットの可能性も示していくことで、“IPO断念層”に属してしまうようなベンチャーに対して、ある種の低空飛行を続けるのではなく、例えば大手企業の傘下に入って、より生産性の高いプロジェクトを進めることができる、そんな可能性が提示できます。
そしてベンチャーに属するエンジニアのキャリアを広げていけるような、そういった流れを私たちが作っていけば、IT業界も大きく変わっていくと思っています。
―IT企業同士のM&Aについては海外、特にシリコンバレー界隈では盛んに行われているイメージがありますが、日本ではポピュラーではないのですね。
垂水 ベンチャーのイグジットについても、日本においては、M&AよりもIPOを選択する企業が圧倒的に多いです。アメリカのスタートアップにおいては、大手企業に買収されることを最初からターゲットにして創業しているケースもけっこうあります。ところが日本ではイグジットの文化も、それをサポートするアドバイザーも存在していなかったというところでしょう。
―今後は、御社がそういう役割を担っていくのですね。
高橋 そうですね。私たちはシリアルアントレプレナーを増やしていきたいと思っています。要するに、ゼロからイチを生み出すのが得意な起業家は、自らが生み出したサービスを、運用が上手な大手企業に任せていって、売却した資金で、また大きな事業を作っていけば良いと思うのです。私たちがそういったサイクルを作っていくことが、日本のGDPの底上げにつながると思っています。
垂水 結局、売り手の社長にヒアリングをしていると、“実はこのビジネスを売却して、これまででは挑戦できなかった大きなドメインの中でビジネスをやりたいと思っている”という話がポロッと出てきます。IT企業を立ち上げた若い社長の中には、次のビジネスに対するモチベーションが非常に高い方が多くいらっしゃいます。
確かに、私たちはM&Aというかたちで“売却の支援”を実施しているのですが、実は同時に“創業の支援”でもあると捉えています。

今しかできない経験が待っている

―2月15日にサービスのリリースについて記者発表をされましたが、その後の反響はいかがでしたか。
高橋 記者発表を行った直後、IT系企業とつながりのある士業法人やM&Aの仲介会社などから、“相談は受けているが自社で対応できずにいた”との理由から、多くのアライアンス要請が寄せられました。
もちろん、売り手からのお問い合わせもありますが、現在は圧倒的に買い手からの問い合わせが殺到している状況です。思ったよりも反響は大きかったですね。
―まさに立ち上がりのフェーズですね。
高橋 現段階では、商品設計はもちろん、一緒に事業そのものを作っていくことができる、事業会社の醍醐味を存分に味わえるタイミングであると思います。これが一年後になると、事業の成長フェーズが変わってくると思いますので、ある意味、今しかできない経験が待っているのは間違いありません。
垂水 今は、まさに事業開発のフェーズにあって、このサービスはどんどん進化しているのですが、今後はもっと幅広くなっていくような気がしています。
例えば、買い手企業側の買収を進めていくCTO的な立場になっていったり、あるいは売り手企業のコーポレートファイナンスも含めて相談に乗ったり、それこそ、これから入社してくるメンバーの経験や発想によって、大きく広がっていく可能性があると思っています。
私たちと一緒に、「M&Aの仲介×IT」という新しい事業領域に果敢に挑戦していきましょう。
(インタビュー・文:伊藤秋廣[エーアイプロダクション]、写真:岡部敏明、バナーデザイン:kanako kato)