【エストニア重鎮】我々は、いかにして「電子国家」を作り上げたか

2018/4/6

テクノロジーは「生存戦略」

「国にとって『領土』は必須条件ではないと考えています。我々は、ロシアがいつ攻めてきたとしても、国家を電子上に存続できるようにしようとしています」
3年前、エストニア政府のCIO(最高情報責任者)、ターヴィ・コトカ氏の取材をした時に出てきた発言は衝撃的だった。「新しい国家に必要なのは、領土ではなく人。デジタル上に国家があればいい」とまで。
近年、最先端の「電子国家」として注目を集めるエストニア。あらゆる行政手続き、医療、交通がデジタルで完結し、電子居住権や、仮想通貨の構想まで、積極果敢にテクノロジーの導入を進めていることで知られる。
だが、実際に現地に足を運ぶと、単なるトレンドへの乗っかりではなく、明確に国家の「生存戦略」として取り組んでいる「凄み」が見えてくる。
政府とスタートアップが一緒になって、テクノロジー国家へと突き進むエストニアはどのように形作られ、一体、どこへ向かうのか。エストニアのスタートアップ界を束ねる連続起業家、ラグナー・サス氏に聴いた。
ラグナー氏が立ち上げた、スタートアップのための拠点「Lift99」は、旧工場地帯をリノベしたエリア「テリスキヴィ」にある(写真:森川潤)

32歳の首相が敷いた土台

──エストニアは、電子国家の取り組みから、スタートアップの世界進出までテクノロジーで存在感を出しています。その背景は一体何なのでしょうか?
我々は、かなり「若い国」なんです。
ソビエト連邦からの独立で自由を手に入れたのは、1991年です。そして、その直後に首相になったマルト・ラールが、良い意味でぶっ飛んだ政策を次々と実行しました。
彼は当時32歳で、欧州でも最も若い首相でした。
ラールが行った政策は、次に起こるすべての変革の土台になりました。電子政府もそうですし、すべての学校にインターネットとコンピューターを提供したのも彼です。