AIと画像処理技術で進化する「メディカル・イメージング」の世界

2018/4/5

NVIDIAのカンファレンス

2018年3月末、シリコンバレーでNVIDIA(エヌヴィディア)のテクノロジーカンファレンスGTCが開催された。基調講演に立った同社創設者兼CEOのジェンスン・ファン氏自身が何度も壇上で繰り返していたことだが、5年ほど前からの変化はすごい。
というのも、NVIDIAと言えばコンピューターゲームなどの画像処理に利用されるGPU(グラフィックス・プロセシング・ユニット)を開発する企業として知られていたのだが、GPUが人工知能技術に最適であることが見いだされて以降、同社はあっという間にAIに最も近い位置にある企業に変身してしまったからだ。
今やGTCは、ITカンファレンスでは「マスト・ゴー(参加必須)」会議のひとつになっている。加えて、同社のオーガニックな発展を反映して、参加者はビジュアル系、コンピューター画像系、AI・ロボット系、IT系の関係者が交ざり合っていて、異なった領域が偶発的に融合していく面白さが肌で感じられるのだ。
さて、そのGTCでは興味深い話題がたくさんあったなかで、私自身が感銘を覚えたのは医療画像に関するものだ。
英語では「メディカル・イメージング」と呼ばれる医療画像の分野は、AIと画像処理技術に助けられて、現在急速に進歩を遂げている。それだけではなく、これが今後どのように利用されることになるのかについて、現在では想像もつかない可能性が広がっているのだ。

医療画像をクラウドで三次元に変換

GTCの基調講演で取り上げられたのは「プロジェクト・クララ」と名づけられた医療画像のためのスーパーコンピューティング用プラットフォームである。
これは、CT、MRI、超音波など従来型の医療画像装置から取得できる画像を、AIによって三次元画像に変換したり、そこに流れる血流量を予測したりできるというもので、診断や治療に役立つ精密な画像が短時間で取得できるようにする。
患者が放射線にさらされる時間を短縮できること、かつては多大なコストと電力がかかっていたのがほんの少しのリソースで可能になることも特長だが、何と言っても世界中の病院に備えられた医療画像機器を取り替えることなく、従来型の画像をクラウド上のAIがより有益な画像に変換してくれるという利点が大きい。
ファンCEOによると、現在世界には300万台もの医療画像機器が存在しているという。
医療画像については、私自身も近年の発展に触れる機会があった。20年近く前にスタンフォード大学の工学部と医学部が共同で研究していたのは、MRIやCT画像から三次元画像を構築するという技術だ。
これは面を重ねていって立体を作るといったアプローチで、こうしてできた三次元画像は主に医療教育に用いられていたが、後にロボット手術になくてはならないものになった。
ロボット手術では、画像ガイダンスが決め手になる。コンピューター内の立体的な画像に従って、ロボットのアームが動きを精密に決定する。脳の中の腫瘍を治療するガンマ線やX線の照射も、三次元画像があるからこそ、多方向から正確に的を定めることができる。

見えない部分を推測して全体像を

この研究以外にも、NIH(アメリカ国立衛生研究所)では「ヴィジブル・ヒューマン・プロジェクト」が進められており、こちらでは実際の男女の人体を薄く輪切りにして取得した画像を、やはり三次元に再構築したデータセットが作られていた。
ここで作られたデータセットは、教育などにオープンに利用されることを目的にしていて、現実の人体の生々しさが感じられるものだ。
人体から正確な画像を得るために様々な研究と努力が続けられてきたのだが、それぞれに異なった特徴があり、異なった利用方法があるだろう。そしてここへ来てAIが、見えない部分、見えにくい部分を推測して全体像を教えてくれるという時代になった。
医療画像では、それを見て診断する役割をすでにAIが担っている。今後、人間は医療機器が備えられたベッドに横たわるだけで、その後はAIが画像の取得から診断までやってくれるという時代になるのだろうか。
画像による健康診断も、瞬時に終わるのかもしれない。体内で薬を運搬する極小ロボットも、AIが生成する医療画像を地図にしてナビゲーションしていくことだろう。
AIの実力が医療に貢献するという、もっともうれしい発展のひとつである。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文・写真:瀧口範子)