ウーバー元幹部のトラヴィス・ヴァンダーザンデンは7カ月前、電動キックスケーターのシェアサービスを手がけるバード(Bird)を立ち上げた。同社はいま、この人気サービスを年内に米国内の50市場に広める準備を着々と進めている。

楽しく低コストで街中を移動できる

3月のある土曜日の午後、タンクトップにビーチサンダル、サンドレス、あるいはビジネスカジュアルスタイルなど思い思いの格好をした人たちが、マットブラックの電動キックスケーターに乗り、カリフォルニア州サンタモニカのビーチに沿って自転車道を疾走していく。
見ていると、どうやらどの年齢層に属する人も同じタイプのキックスケーターに乗っているらしい。今回は、次にやって来るライドシェアリング業界でもっともホットなスタートアップ、バード(Bird)を紹介しよう。
2017年9月にローンチしたバードは、電動キックスケーターのシェアサービスを手がける企業だ。有効な運転免許証とクレジットカードを持っている18歳以上なら、誰でも1ドルでキックスケーターを借りられる(1分ごとに15セントが加算される)。
バードの背景にあるアイデアはシンプルだ。キックスケーターがあれば、車やウーバー、バスを利用しないで、楽しく低コストで環境を大事にしながら街中を移動できる。
創業者でCEOのトラヴィス・ヴァンダーザンデンは「バード」と呼ばれるこのキックスケーターについて、移動のための安上がりな代替手段を提供して、交通を緩和することが目的だと述べる。かつて同氏は、リフトとウーバーで幹部を務めていた。
一見するとこの電動キックスケーターは、テック・コミュニティのバカげたジョークのように見えるかもしれない。しかし、バードはカリフォルニア南部で一種の社会現象を巻き起こしており、デビュー以来の利用回数は50万回を超えている。

アプリで利用、歩道に乗り捨て可能

バードは2018年3月、ヴァロー・エクイティー・パートナーズとインデックス・ベンチャーズが主導するシリーズBラウンドで1億ドルを調達したと発表した。前回からひき続いて参加したクラフト・ベンチャーズとゴールドクレストも出資額を増やしたという。
これに先立ちバードは、2月のシリーズAラウンドでタスク・ベンチャーズやアップフロント・ベンチャーズなどのVCから1500万ドルを、2017年夏のシードラウンドでは家族や友人から300万ドルを集めている。
キックスケーター市場にいるのは、もちろんバードだけではない。ドックレス(乗り捨て)タイプの自転車シェアサービスを手がけるライムバイク(LimeBike)も2018年2月、独自開発の電動キックスケーター「ライムS」をワシントンDCとサンディエゴ、サンフランシスコ(一部地域)でローンチした。
さらにバードは、成功をおさめてはいるものの、その一方で早くも障害に出くわしている(文字通りの意味でも、比喩的な意味でも)。しかしヴァンダーザンデンによると、同社は2018年末までに従業員数を増やし、オフィスを借り、キックスケーターの台数を増やし、アメリカ国内の市場を50に拡大するつもりだという。
バードを利用するには、まずはアプリをダウンロードし、運転免許証とクレジットカードの写真をアップロードする。それからマップを開いて、いちばん近くにあるバードのキックスケーターを1台見つける。実物を見つけたら、ハンドルバーに貼られているQRコードをスキャンして利用開始だ。
バードはドックレスタイプのサービスなので、利用が終わったらどこにでも置いていける。一部の自転車シェアサービスのようにラックを見つける必要はなく、歩行者の邪魔にさえならなければ、歩道に乗り捨てできるのだ。
アプリで起動されないかぎり電動モーターのスイッチは入らないので、盗まれる心配は少ない。バードのネットワークは毎晩8時に終了する。終了すると、キックスケーターはバッテリーを充電するために回収される。

営業許可をめぐる市当局との争い

瞬く間にファンを獲得したバードだが、サンタモニカでの発進はスムーズとは言えなかった。バードはいかにもテック系スタートアップらしく、サービス開始前に許可を申請しておらず、市の歩道に駐車するライセンスを取得していなかったのだ。
2017年9月のある朝、目を覚ましたサンタモニカの住民たちは、街中の歩道に電動キックスケーターが置かれているのに気づいた。
これはバードのサプライズローンチだったのだが、市政担当官代理を務めるアヌジ・グプタによると、それからすぐにキックスケーターで違法に歩道を走る人々や、縦一列になってキックスケーターを乗り回し、交通ルールを守らずに騒ぎを起こす10代の若者たちが現れたという。
こうしてバードのサプライズローンチは、市の当局とコミュニティーから反感を買う結果に終わった。バードは本社のビジネスライセンスは取得していたが、市によれば、キックスケーターを歩道にとめるには、それとは別に移動販売の営業許可が必要だという。
バードがその許可をサービス開始前に取得しなかったのは、事前に確認したところ、同社のサービスはどのカテゴリーにも当てはまらないと思ったからだとヴァンダーザンデンは言う。
「移動販売の営業許可が、フードトラックのためのものであることは明らかだ。我々はホットドッグやタコスを売っているわけではない」とヴァンダーザンデンは語る。「我が社はグレイゾーンにいると思っていた」
だが、市はこの主張を受け入れようとはしなかった。また、そもそも事業計画についての話し合いを行わずにバードがサービス開始に踏み切ったことも芳しく思っていなかった。
ヴァンダーザンデンによれば、サプライズローンチの前日、サンタモニカのテッド・ウィンターラー市長にLinkedInからメッセージを送り、市の規制当局への接触を試みたという。
そして12月、サンタモニカ市検察局はバードがライセンスおよび市の承認を得ずに違法営業を行っているとして、9つの軽罪でヴァンダーザンデンと同社を起訴した。
結局、バードが30万ドルの支払いと許可の取得、公衆安全キャンペーンの実施に応じたため、この起訴は取り下げられた。同社は現在、アプリで申し込んだ利用者に無料のヘルメットを配布している。

失敗から学ぶ政府機関との友好関係

バードの利用者たちも、トラブルに巻き込まれてきた。
サンタモニカ警察のソール・ロドリゲス警部補によると、同警察は1月1日~3月10日の期間に電動キックスケーターが関係する車両停止を575回行い、273枚の交通違反切符を切ったという。事故も9件起きており、うち1件ではバードの利用者が一時停止を無視し、車にはねられている。
だがむしろ、バードはこうした失敗からさまざまなことを学んでいるようだ。その証拠に、サンディエゴでのサービス展開はスムーズに進んでいる。
サンディエゴ市議会のバーバラ・ブライ議長によると、同社はテストの実施に先立って市当局と話し合いを行い、各種許可をきちんと取得し、公衆安全キャンペーンとヘルメットの配布を実施したという。
バードの将来の目標は「政府機関と友好的な関係をもつ」企業になることだとヴァンダーザンデンは言う。同氏はこの戦略を、かつて勤務していたリフトから学んだ。「リフトは市や政府機関ととてもうまく協力し合っている」と同氏は言う。
それを実現するため、バードは先ごろ、リフトでガバメント・リレーションズ部門のバイスプレジデントを務めていたデヴィッド・エストラーダを迎え入れた。
こうした一連の動きによって、バードがいち早く新たな高みに到達できることをヴァンダーザンデンは期待している。「バードは、ひとつの規制枠には当てはまらない。だから我々は、各都市と協力して、適切にやっていきたいと考えている」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Will Yakowicz/Staff writer, Inc.、翻訳:阪本博希/ガリレオ、写真:Diy13/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.