ビジネスコンディショニングで大切なのは、“自分を一定に保つこと”

2018/4/13
時間外労働の削減や生産性の向上を目指して、政府をはじめ多くの企業が取り組んでいる「働き方改革」。多様な働き方と生産性向上を両立させるためビジネスパーソンに必要となるのは、自らのパフォーマンスを安定的に発揮するための「ビジネスコンディショニング」という意識だ。徹底した国内生産にこだわるアパレルブランド「ファクトリエ」を立ち上げ、日本各地の工場を駆け巡る日々を送る、ライフスタイルアクセント株式会社の代表・山田敏夫氏が、その概念と経験を語る。

いかにして疲れないカラダを作るか

「ファクトリエ」で扱うすべてのアイテムを試着することができる、銀座フィッティングスペース。
訪れてまず目に飛び込んできたのは、ハンガーラックに美しく等間隔に掛けられた商品だ。色合いや洋服の並び、ラック全体の視覚バランスまで細かく計算されているように思える。
「ファクトリエ」は、メイド・イン・ジャパンにこだわり、国内工場との直接提携により高品質・適正価格をコンセプトとした商品を取り扱うアパレルブランドだ。
提携する工場は、代表取締役である山田敏夫氏が足を運び、自身の目で確かめてから交渉しており、中には世界的な一流ブランドから依頼を受けている企業もある。
縫製や生産技術はもちろん、ものづくりへの熱意にあふれたパートナーを今も開拓し続けており、これまでに600以上もの国内工場を巡っているという。
週の4日間が地方出張ということも少なくない彼は、常にベストなパフォーマンスを発揮するために、どのような健康マネジメントを取り入れているのだろうか。
「ビジネスコンディショニングで大切なのは、“自分を一定に保つこと”だと考えています。
たとえば僕が、“寝不足だから”という理由でビジネスにおいて決断する内容が変わったり、何かにむしゃくしゃしていることで違うジャッジをしたりしたら、大問題ですよね。
そうならないためにも、自分のマインドを常に一定にしておかなければなりません。
具体的には、『身体的健康』と『精神的健康』の2つの軸で実践しています。
身体的健康を維持するにあたって重視しているのは、“いかにして疲れないカラダを作るか”ということ。
カメラやパソコンなどたくさんの荷物を持って長距離を移動するので、どうしても体に負担はかかってしまいます。
なので、週に1、2回のランニングと体幹トレーニングを取り入れています。
ただ、現代はどちらかというと身体的健康よりも精神的健康を手に入れることのほうが難しい気がします。
生産効率性といった数字ばかりを追いかけた結果、目に見えない精神面は置き去りにされてしまった。その結果、うつ病などの問題が浮上したのではないでしょうか」

お客様に売っているのは「感情」

こうした精神性を大切にする考え方は、ファクトリエのブランドコンセプトそのものにも通じている。
ものづくりへのこだわりが詰まった商品を身に着けることで、顧客は機能だけではない、「精神的な満足」を得られるのだという。
「僕たちのミッションは、長く愛着を持って着られるメイド・イン・ジャパンの製品で、世界の人たちを夢中にさせること。大量生産・大量消費のファストファッションとは対極に位置します。
とはいえ現実として、日本で一番売れているネクタイは、100円ショップで売られているポリエステル製のもの。
最近ではポリエステルも進化して、シルクに近い風合いを出せるようになっていますから、多くの人は“だったら、それで十分じゃん!”となりますよね(笑)」
いっぽう、ファクトリエのネクタイは、1本で約1万7000円。京都の職人によるオールハンドメイドのため、デザインにもよるが1日に2本程度しか織ることができないからだ。
それでも、人気のデザインは入荷待ちとなっている。
「100円のネクタイが当たり前となっている時代に僕らが売っているのは、『感情』なのだと思います。
お客様のマインドが、知的欲求を満たすことを求めている。
どんな工場でどんな職人が作っているのか、生地や素材の特徴、使われている貝ボタンは、裏の柄が全部違うということ、どのように洗えば傷まないのか、どう扱えば長く着られるのか──」
こうした様々な知的欲求が満たされて、さらには“この服を着ている自分は、ファクトリエや日本のものづくりを支えている一員なのだ”という所属欲求につながる。
「実際、お客様向けに毎週のように開催している50人規模のイベントは、おかげさまですぐに定員が埋まってしまいます。
僕は、100人いたらその中の1人か2人が熱狂してくれればいいと考えています。
だからこそ、とがったことをしないといけないですし、工場の情報やコスト配分までオープンにするという、業界のタブーを犯しているわけですが(笑)」

自分を律することも経営やマネジメント能力

たしかに、ファクトリエのビジネスモデルは革新的だ。公式オンラインショップでの販売が基本だが、フィッティングスペースと呼ばれる直営店舗がある。
ここでも店頭在庫は基本的に持たず、試着して気に入った商品は店頭のタブレットを使い、ネットから注文する。もちろん、試着なしでも購入可能だ。
さらに驚くべきなのが、製造原価、つまり工場への支払額が価格の50%を超えるということ。
これは工場の利益を確保するとともにお客様にも適正価格で購入してほしいからだそう。
これを実現させるために中間流通を省き、自社のコストとして挙げられる店舗在庫を持たないことやそれによる店舗のコンパクト化、現金決済にかかるコストや広告費などを極力削減しているという。 
さらに、工場ツアーを開催すれば、熱狂的なファンが自腹で交通費を負担して駆けつける。顧客が新たな顧客を連れてくるため、膨大な広告費も必要としない。
ファクトリエは、「モノ」と「コト」を同時に提供し、ブランディングに不可欠な「感動の体験」を顧客に与えてくれる。
「ビジネスコンディショニングについても同じで、マインドはカラダの健康と切り離して考えることはできません。
過重労働から体調を崩し、その苦しみからうつ病になることだってありますしね。
僕の場合、ランニングや体幹トレーニングも、疲れにくいカラダを作るだけでなく、マインドを一定に保つために行っている要素が大きいかもしれません。
音楽は聴かず、過度なペースではなく自然なリズムを作ることで、精神的にクリアになっていくというか……。
運動でも日常生活でも、決めたタスクを淡々とやることで、自分を一定に保つことができるんです」

乳酸菌を粉砕。脂肪をエネルギーに

おそらく、山田氏が実践していることは東洋医学の考え方に近い。病気になってからの対症療法ではなく、病にならないための“未病”。
「疲れたときはごぼう茶や漢方を飲むのですが、田舎ではわりと今でも普通に行われていると思いますよ。
地方にある工場の年配の男性と話をしていると、似たようなことを昔からやっていると聞くこともありますし。
それから、腸内環境は免疫機能にもかかわるので一番重視していて、錠剤の乳酸菌を毎日飲んでいます」
乳酸菌については、近年、様々な研究が進んでおり、乳酸菌を粉砕することで、脂肪燃焼にかかわる成分を体内に吸収しやすくした「粉砕乳酸菌」を使った乳性飲料「カラダカルピス」までも登場している。
「カラダカルピス」は「カルピス」由来の乳酸菌科学により選び抜かれた独自の乳酸菌「Lactobacillus amylovorusCP1563株」を配合した、体脂肪を減らす機能がある乳性飲料だ
小腸から吸収された乳酸菌の働きで肝臓や筋肉などで脂肪を燃やしやすい酵素が生成。
脂肪が燃やされやすい状態になるので、効率的に脂肪をエネルギーに変えられるという。これは世界初の技術だそうだ。

「健康経営」のために体脂肪率を維持

ファクトリエの商品撮影では、経費を抑えるために自らが着用モデルになることもある山田氏。183センチほどの長身痩躯(そうく)でモデルも顔負けだが、体形を維持することもアパレル経営者としての責務なのだろうか?
「体脂肪率は13~14パーセントを維持して、血糖値も上げすぎないように心がけています。“健康経営”と言っているのに、自分の体調が悪かったら説得力ありませんから(笑)。
僕は24時間365日、ファクトリエを体現する人間でなければならないし、ファクトリエに沿った生き方をしているつもりです。
たとえば、モノを大切に扱う、食べ物をできるだけ残さない、買ったものは長く愛着を持って使う、などですね。
これは、社員全員にも課しています。使命やミッションを遂行するために、それに見合った人間であることは当たり前だと思っていますので」
同世代のビジネスパーソンと接する機会も多い山田氏だが、「健康意識という点では、男性はまだ女性に比べて低い人が多い」と感じるという。
「ただ、ビジネスコンディショニングの大切さを理解している人は、確実に増えていると思います。
特に、経営やマネジメント職はあらゆる面で管理能力が求められますが、自分を律することができなければ管理もできません。
また、営業職なら自分をどう見せるかというセルフ・ブランディングも必要になります。
“どんな人間にビジネスチャンスが多くあるか?”と考えたとき、どんな答えが浮かぶか。これは顔とか見た目の問題ではなくて、仕事に対するプロ意識や心がけという意味です。
僕自身、運動・食事・睡眠の大切さを実感していますが、たまには暴飲暴食もしますし、2012年に資本金50万円で熊本に会社を設立した頃は、それはもうひどい生活でしたよ(笑)。
社員は僕ひとりで、オフィスは雑居ビルの4階にある六畳一間。エレベーターがないので、運送会社のドライバーさんには嫌がられていました(笑)。
オフィスはワイシャツが入った箱が13個くらい山積みになっているので、窓から光も入らず薄暗いんです。
ファクトリエのサイトを開設したものの、アクセス数が1から増えなくて……。
そこで、制服でワイシャツを着用する企業に500社くらい片っ端から電話をかけて、“商品を制服として買っていただけませんか”と営業したものの、予算が合わないとすべて断られました。食事は缶詰だけとか、普通でしたね」

行動からマインドを健康にすることもできる

ビジネスコンディショニングの重要性を理解し、マインドを一定に保つことを日頃から実践している現在の姿からは、少々想像しがたい。
何か打破するきっかけがあったのかと尋ねると、山田氏は大きくうなずいた。
「最初の行商時代、電話営業の切り口を、“無償で着こなしセミナーをやります”に変えてみました。
セミナーといっても、冠婚葬祭やビジネスシーンでの服装マナーをレクチャーするレベル。そのセミナー後に、ファクトリエのワイシャツを売らせてもらうことにしたんです。
それでも100件電話して2、3件受けてもらえるかといった状況ですが、担当者も“無料だし、それならやります”といった感じで承諾してくれました。
トランクケースにシャツを詰めていろんな企業に行きましたね。
そうやってとにかく行動することで、マインドも自然と変化していったのです。身体的な健康面は多少悪くても、やっていて楽しかったですね。
行動が変わるとマインドも変わる。行動からマインドを健康にすることもできるのだと気づきました」
ファクトリエは現在、海外100カ国からアクセスがきており、2017年には台湾に2つの店舗がオープン。現在、3店舗目も進行中だという。
「僕らがやっていることは、ファストファッション全盛の今、一般的にはまだまだ受け入れられない価値観なのかもしれません。
しかし、海外の人たちも巻き込んでいきながら、メイド・イン・ジャパンを世界に通用する本物のブランドとして発信し続けることで、いずれそれが本流となる日が必ず訪れると確信しています」
運動・食事・睡眠の大切さを実感しながら、日々ビジネスコンディショニングを一定に保つ山田氏。
これからも世界中に「感動の体験」を届けるため、走り続けるのだろう。
(構成:秋山美津子 撮影:佐々木信行 デザイン:九喜洋介 編集:奈良岡崇子)