仕事が求めるものを満たすために、自分を犠牲にするのはやめよう。仕事のほうが「あなたが求めるもの」を満たしているべきなのだ。

戦略的計画を立てるトレーニング

「自分が死ぬ日時を決めてください」
ニューメキシコ州アルバカーキでコンサルタントを務めるラニー・グッドマンは、戦略的計画を立てるためのトレーニングで、いきなり核心に触れる。
クライアントに対して「5年後に自分の会社がどうなっていると思うか」という質問はしない。それよりも、25年、35年、50年先に、永遠の眠りにつこうとするときに、自分の人生を振り返ってどう思うかを知りたいと問いかける。
あなたの人生は、自分の期待を上回る人生だっただろうか。

「創造的なわがまま」と呼ぶ手法

「腹を決めて、『よし、じゃあ73歳まで生きる』『自分は85歳まで』と宣言してもらう。その目的は、あなたの仕事には終わりがあるということを認識させることだ」と、グッドマンは説明する。
彼は40年近く、企業の設立者たちを相手にコンサルタントをしてきた。このトレーニングは、起業家が、自分が求めているものに目を向けられるようにするためのものだ。
グッドマンによると、自分が何を求めているかを認め、それを満たすことは、彼らのビジネスが成功する確率を高めることになるという。グッドマンはこの手法を「創造的なわがまま」と呼ぶ。
「わがまま」は、たいてい望ましい特徴とは思われない。しかし「起業家にとっては重要な資質」だと、グッドマンは主張する。
自身も起業家だったグッドマンは、会社というものを従業員や顧客、投資家、サプライヤーなどによる複数の「正当な利益」で構成されるシステムだと考えている。ところが設立者は、自分の「正当な利益」を犠牲にすることがあまりに多い。それがビジネスのためになるという誤った考えのもとにだ。
じつを言うと、設立者が求めるものと会社が求めるものがかみ合っていないと、一方が他方に対して害を及ぼすものになることがある。

会社があなたを所有するとき

起業家にとっての大きな皮肉は、自分の人生をコントロールするために会社を始めたのに、たいていの場合は会社からの貪欲な要求のためにたちまちコントロールを失ってしまうことだ。
設立後の数年間は、異常なほど働くのは仕方のないことだとグッドマンは認める。しかし、そうした労働が短期間で終わることはめったにない。そして、起業家は疲れ切ってしまうようになる。
「10年、15年、20年前に仕事ぶりをトーンダウンしておくべきだったのに、まだ仕事に追われているというクライアントを非常にたくさん見てきた。彼らは『これだけ一生懸命働いた成果を楽しむためには、自分にどう投資すればいいのだろう』と考えるべきなのだ」
グッドマンは起業家に対して、意識的に自分が疲弊しないビジネスをつくるよう強く勧めている。
たとえば、パンのチェーン店「グレイト・ハーベスト・ブレッド(Great Harvest Bread)」を設立したローラ&ピート・ウェイクマンは、毎年3カ月間の旅行に出かけられるように仕事を調整していたという。彼らが四半世紀近く、新鮮な気持ちで充実して仕事を続けることができた秘訣だ。
カヤックのブランド「ジャクソン・カヤック(Jackson Kayak)」を立ち上げたエリック・ジャクソンは、キャンピングカーで仕事をしながら米国中の河川を回っている。「パドリングによる経営」という彼のやり方は、クライアントとの新しい関係と新製品のアイデアを生み出している。

起業家が自問すべき4つのこと

グッドマンは「起業家は4つのことを自問すべきだ」と言う。
1. 私は人生から何を必要とし、人生から何を求めるのか。
2. 私の仕事は、それを達成するためにどのように役立つか。
3. それを達成する会社はどのような会社なのか。
4. 私の会社がそうなるためには、どうすればいいか。
「人生最後のとき」について考えることは、第1の質問への答えを見つけるためのトレーニングのひとつだ。グッドマンがつくったこのトレーニングでは、現在を起点に、過去と未来の両方に時間軸を伸ばして書く。
時間軸の左側には、今ある自分をつくった人や出来事、その影響を自分も再現したいと思うような人や出来事を並べる(たとえば、導いてくれた人のおかげで人生が変わったという起業家は、同じことを別の誰かにもしたいと思うのではないだろうか)。
時間軸の右側には、自分の最善の未来をつくるために貢献してくれると思われる人や出来事を挙げる。
このトレーニングによって、起業家は本当に大切なことに目を向けることができる。
「会社が株式を公開する」「ポルシェのカレラを買う」など、物質的な達成を時間軸に書き込む人もいる。しかし、そういうケースは稀だ。
「人生最後のときを考えると、ほとんどの人が大切なのは愛であり、人とのつながりであり、何かに奉仕することや周囲に影響を及ぼすことだと悟る」とグッドマンは述べる。

あなたにとっての完璧な未来

企業のオーナーは、影響を及ぼすのにとくに適した立場にある。
誰かが未来の時間軸に「若い女性を事務員として雇う。彼女はその後、会社の1部門を任されるようになり、子どもをスタンフォード大に行かせる」と書いたとする。このような功績は充実した人生につながるものだと、グッドマンは語る。
セミナーに参加した起業家たちが自分の望みや求めるものを確認した後で、グッドマンは、彼らがそのような未来を生きられるようなビジネスプランの策定を促す。たいていは、時間とお金の問題が関わってくる。
グッドマンによると、鍵は「てこ」となってくれる周りの力だという。つまり、より深みのある豊かな人生を楽しみながらベストな行動ができる方向であなたを解き放ってくれるような素晴らしい人々を、自分の周りに置くということだ。
グッドマンは、これまで最も人気のある起業家の1人として、リチャード・ブランソンを挙げる。彼が愛されるのは「多くのことを成し遂げたからだ」と、グッドマンは言う。
もちろん、利息を使い切ることができないほどの財産を稼いだ。しかしそれ以上に「それだけの偉業を成し遂げながら、彼が素晴らしい人生を送ってきたから」なのだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Leigh Buchanan/Editor-at-large, Inc. magazine、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:JaffarAliAfzal/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.