ここでキャリアを終えてもいい。コンビニ経営は20年越しの夢

2018/2/26
伊藤忠商事では数々のビッグプロジェクトに携わり、ユニクロでは柳井正会長兼社長の右腕として売上を10倍以上に引き上げた。その後、自ら立ち上げた事業再生会社リヴァンプではロッテリアの再建、クリスピー・クリーム・ドーナツの日本法人立ち上げなどを指揮した。

次のステージに選んだのはファミリーマート。プロジェクトを成功に導いては新天地に挑むサイクルを繰り返してきたが、今回は違う。「ここで骨を埋めてもいい」。澤田貴司の集大成は、コンビニ大改革だ。
悲願だったコンビニ経営
──なぜ、ファミリーマートだったのでしょうか。
澤田:コンビニの経営は、20年来の夢だったのです。
私は、1981年に新卒社員として伊藤忠商事に入って1997年まで在籍していました。当初は世界中の取引先を相手に化学品のトレーダーをやっていましたが、1990年代前半に伊藤忠が米セブン-イレブンの再生を支援するプロジェクトを立ち上げ、そこに私も携ったのです。
この当時の私は、数百億円のプロジェクトをいくつも担当し、自分で言うのもなんですが、社内外に名の知れた存在だった。今振り返ると青二才でしたが、鼻っ柱が強く、かなり自信家だった(苦笑)。
だから、コンビニの経営は未経験でしたが、「おれなら必ずできる」くらいの気持ちで乗り込んだのです。でも、その場で見た、経験した現場に衝撃を受けました。
──その衝撃は、良い意味ですか?悪い意味ですか?
「感動」と言ったほうがいいかもしれません。商社マンの仕事って、言葉を選ばずに言えば安く買って高く売る商売です。そんな世界にずっと棲んでいたなかで、100円、200円という少額の商品をていねいに販売し、地道に売上を積み上げていく小売業は、新鮮でした。
商社が、いろいろな情報をもとにデスクで決断して売り買いを指示する商売なら、小売業は経営のトップ層でも自ら現場に足を運び、お客さまに喜んでいただけるお店づくりができているかを常に探っている。とにかく現場。
ありきたりかもしれないですが、この猛烈な現場感がたまらなく肌に合った。他の小売業態をはるかに上回る店舗数を持ち、アイデア次第で商品もサービスも思いのままに創出、拡充できるコンビニエンスストアという業態はとても魅力的でした。
伊藤忠時代に、「商社は本格的に流通業に参画すべきだ」と当時の室伏社長に直訴しましたが、なかなか意見が通らなくて、「ここじゃ無理だな、じゃあ辞めてできるところに行こう」と。
──伊藤忠を離れてユニクロを選んだのも、小売業に魅せられていたことが大きかったのですね。
私がユニクロに移った時は、まだ売上高が400億円ぐらい(昨年度のファーストリテイリングの売上高は1兆7864億円)。規模は決して大きくはありませんでしたが、柳井さんの考え方は刺激的で、小売や流通に対する思いも私と合致していたので、入社して死ぬ気で働きました(笑)。
入社10か月後に副社長に就き、その後、玉ちゃん(玉塚元一さん(現:ハーツユナイテッドグループ代表取締役社長CEO))にも加わってもらい、フリースブームも相まって、もうイケイケで!入社4年後の売上は10倍の4000億円に到達していました。
その後、柳井さんから社長就任を打診されたのですが、起業の夢を追いかけたくてユニクロを辞めました。ここでの経験は私の本当に大きな財産。ファミリーマートの経営にも生かしていますし、一緒に働くメンバーにもこの時に私が学んだことを伝えています。
伊藤忠、ユニクロ、そして自分で設立したキアコンやリヴァンプで支援してきたいくつもの企業経営の中で、学んだことがたくさんあります。失敗もたくさんしてきました…。売上数百億円の会社に投資したが失敗して眠れない日々や、従業員に給与が払えなくなりそうで、この先どうしたらいいのか恐怖で押しつぶされるほどの経験も味わいました。
今となっては失敗も成功と同じくらい大きな財産。そうした私の経験をファミリーマートに全部ぶつけていくつもりです。
──そうすると、念願のコンビニ経営だったわけですね。
本当にそう。2015年末にファミリーマートの筆頭株主である伊藤忠から連絡をもらったのです。新生ファミリーマートの経営を任せたい、と。
正直に言って「今ごろ遅い!」と思いましたよ(笑)こっちとしては20年前に言っていたのですから。でも、素直に嬉しかった。即決でした。
徹底的に会社・現場を知る
──ファミリーマートにジョインして、何から手をつけたのですか。
ファミリーマートを知ることです。これまでの経営から学んだことですが、「たぶん、こうだろう」と“分かったつもり”でビジネスを進めるとだいたい失敗します。
医者と一緒です。名医と呼ばれるドクターは、患者さんの体をまずは隅々まで徹底的に調べますよね。経営もまったく同じ。まずは会社のどこが悪いのか、自分の目で見て判断することが大切です。
だから、徹底的に現場をまわりました。ストアスタッフさんに直接話を聞いたり、自らユニフォームを着て店頭に立ったりもしました。物流センターにも足を運び、商品を運んでいるドライバーさんにも話を聞いたりして。
そして、そこで見つけた課題をテーブルに乗せ、解決策を社員とともに徹底的にブレストする。その数は年間600回以上になるんじゃないかな。現場を見て、みんなと一緒に考えて実行に移す。ただただ、その繰り返しです。
──それで、具体的にどのような課題や改善点が見えてきたのですか。
改善点もそうですが、その前に手前味噌だけど、ファミリーマートってすげえ会社だなと思いましたよ。ここで働く社員って、素晴らしいヤツが多いな、と。
とにかく真面目な社員が多い。僕はこういう性格だから何でも思いついたことをワーっと言うんだけど、それに素直に、愚直にやり遂げようとする。
だから、私が来る前から十分がんばっていたと思うし、結果も出ていました。ただ、僕から言わせると、そのがんばりが本社都合だったと思う。それが現場を足繁く通って見えてきた課題でもあります。お客さまや加盟店が本当に求めているニーズとはズレが出始めているな、と。
ファミリーマートはここまで店舗数を急速に増やしてきました。もちろん組織を大きくして規模の論理を追求することは、コンビニエンスストアとして重要な戦略ではありますが、これから先のステージはもう規模だけの勝負じゃない。
商品やサービスの「質」を上げていくことが重要だし、そこにビジネスチャンスがあると思ったのです。ファミリーマートは今まさに、「量」から「質」の追求へと大きく舵を切っているところなのです。
コンビニが地域の“コンシェルジュ”になる
──どのような改革を推し進めているのですか。
改革というより「進化」や「創造」。ファミリーマートはもう社会インフラの1つと言えると思います。なぜなら、店舗で働くストアスタッフは全国に約20万人いて、店舗数は国内だけで約1万7000店舗を超える。年間に訪れるお客さまは約55億人。圧倒的なボリュームです。こんなインフラのもとでお客さまと接することができる業態なんてなかなかありませんよ。
食料品の販売から始まったコンビニはお客さまの利便性を考えて、これまでもさまざまなサービスを追加してきた。ATMや公共料金の受付サービスはいい例ですよね。でも、僕はもっともっとできると思っている。最新のテクノロジーを使ってレジ対応や商品の発注などの作業を簡素化し、そこで生まれた時間で新たなサービスを提供していきたいんです。
──たとえばどんなサービスでしょう。
既に動いているサービスもあるけれど、それぞれの地域にお住まいの方たちのお役に立つこと。これでもかというぐらい地域に密着して貢献していきたい。あえて言うなら地域における“コンシェルジュ”かな。特に、高齢者に向けたサービスに力を入れていきたいと思っています。
たとえば、田舎に残してきた高齢の両親が心配な都会で働く若い人って多いと思います。そこで、両親が暮らす地域のコンビニが、自宅に商品を届けると同時に安否確認をして離れたご家族に伝えるとか。
また、コンビニの2階にフィットネスジムを併設する取り組みは、健康寿命を延ばすことにも貢献できることからメディアで大々的に取り上げられ、現在多くの自治体から導入したいという声をいただいています。
これから先、デジタル化が進めば進むほど、かえってアナログなサービスへの原点回帰が求められるようになると私は考えています。それはつまり、人と人との触れ合いです。それこそが、未来のファミリーマートのビジネスの核になっていくと思います。
このような様々なアイデア出しから実行までを、私と一緒になって取り組んでもらえる人材がほしい。既存のやり方や発想にとらわれずに、社会のインフラとしてファミリーマートを進化させる仲間を呼び寄せたい。
これまでは改革にドライブをかけるため、社内の意欲ある人材に加え、戦略コンサルティングファーム、広告代理店、総合商社出身者など、社外からも新たに仲間を迎えて立ち上げた社長直轄の専門組織が中心となって進めてきました。
ある程度成果も出てきたし、軸はかたまったと思います。ただ、まだ私の目指すゴールの10%にも届いていない。だから次のステージでは、全社員が一丸となって改革を加速させていきたいのです。
人気商品「ファミチキ」のPR看板。自ら「広告塔」になることもいとわない
社員の誰よりも圧倒的に仕事をする
──具体的にどんな人材を求めていますか。
何よりも気持ち。とにかく現場を大切に、一人ひとりのお客さまを大切にできる人。一緒にファミリーマートを社会のインフラに育てようとする気概がある人。この部分をしっかりと理解・共感でき、「自走」できることですね。それがあれば業種・業界を問わず、どんな経験を積んだ人でもいい。
──自ら積極的に動く人がいい、と。
ただ、僕は厳しいですよ。つまらない提案だったら徹底的にダメ出ししますから(笑)。でも人ってガーっと強く言われることで、あらためて深く考え、動ける部分もあるんですよね。
そしてその動きから、自分が本当に考えていること、何がやりたかったのかが見えてくる。僕はその部分を引き出したい。だから半ば強引にガーっと言うんです(笑)。
でも、ファミリーマートの社員もそうだけど、やっぱりガッツがある人って、僕が厳しく言ってもへこたれないよね。その時は真っ青な顔をしているけど、必ず新しいプランを持ってくる。
そのプランをダメ出しされても、また何度も何度も練ってくる。このような一人ひとりの社員のがんばりが質の高い商品やサービスを創造すると思うし、これからの社会を変えていくんだと思います。
──ご自身が気をつけていることはありますか。
単純。僕が社員の誰よりも圧倒的に仕事をすること。超・率先垂範(そっせんすいはん)です。別に社長の背中を見せるとか、おれについて来い、なんて考えていませんよ。自分が部下だった時代のことを思い出し、そうしているだけです。
だって、オフィスから偉そうに指示を出しているだけのトップに、ついていきたいと思います? 「あいつ口ばっかりで全く動かねえ。そんなヤツの言うことなんか聞かねえよ」ってなりますよね。
会社のボスたるもの24時間365日経営のことを考えなければいけない。これが僕の経営論です。それを社員に強いたりするつもりはありませんよ。でもトップはそれくらいでないと組織は腐っていくと思うし、それだけの気概がなければ、リーダーなんて引き受けるべきではないと思います。
──改めて、どうですか。20年間夢見ていたビジネスは。
やっぱり経営って素晴らしいな、楽しいな、と。久しぶりに自分の定位置のドライバーズシートに座っている気分です。やりたいことが山のようにあるし、実際にやっている。だから毎日仕事が終わると、もう、フラフラですよ。でも、その疲れが心地よい。やっぱり好きなんです。ビジネスと現場が。まだまだやりますよ!
私はファミリーマートでビジネスキャリアを終えてもいいと思っていますから。私の力不足でファミリーマートの進化が止まってしまったり、出ていけと言われたりしたら潔く身を引きますが、叶う事ならば大好きなファミリーマートの仲間とともに、ずっとお客さまや加盟店の皆さんを喜ばせたいんです。
(聞き手:木村剛士、文:杉山忠義、写真:森カズシゲ)