メルカリは日本のお金を変えられるのか

2018/2/27
2017年、金融関連の新規事業を行うため、メルカリのグループ会社「メルペイ」が設立された。代表には元グリーの取締役として事業を牽引した青柳直樹氏が就任。この発表に業界は衝撃を受けた。ほかにも元WebPayのCTOでLINE Pay事業を経験した曾川景介氏など、業界のエキスパートをコアメンバーにそろえた本気の布陣だ。

そもそも、なぜメルカリが金融事業に参入するのか。――メルペイが描くのは、社会インフラのアップグレードという壮大な構想。同社が取り組む意義と、その実現可能性について、青柳氏に話を聞いた。

膨大な資産を糧に始める金融事業

世界1億ダウンロードを突破し、日本のみならず海外でも多くの方にご利用いただいているメルカリ。設立から5年を迎え、会社として財務面での体力、各方面から続々と集まった優秀な人材、そして、日々サービスをご利用いただいているたくさんのお客さまという、多くの「資産」を培ってきました。
この資産を活用し、メルカリがより大きな世界へと踏み出す第一歩として創出する新たな金融事業、それが「メルペイ」です。
その名が示す通り、まずはデジタルウォレットの提供を予定していますが、私たちは決済だけの会社になりたいわけではありません。
決済サービス自体はインフラとしての水のようなもの。社会インフラを圧倒的な利便性をもってアップグレードすることで、メルペイひとつで金融に関するあらゆるサービスが簡単に完結する世界を実現したいと考えています。
たとえば、メルカリの売上金やメルペイにチャージしていただいた残高が、他のオンラインサービスでもオフラインの店舗でも使え、さらには資産運用・与信情報を活用したシェアリングサービスなどともスムーズに連携するような世界観。
世の中のお金の流れを、もっと身近で簡単なモノに変えていきます。

オープンに社会と連携し、新しい世界を描く

メルカリはすでにCtoC領域での収益基盤を築いてきました。多くのお客さまを持つことに加え、一部のアーリーアダプターだけでなく、地方も含め日本全国の方の生活に密着し、接触頻度の高いサービスとして愛されています。
このようなアドバンテージを生かし、さまざまなサービスを提供しているフィンテックのプレーヤーと組めば、新しい世界を描けるはず。
さらに、メガバンクや地銀、証券会社、小売店、飲食店、美容院、医療機関などありとあらゆる法人や機関と連携することで、メルペイを基点としたより便利な社会が生まれると思うのです。
いままでのメルカリは配送・決済などの一部以外は、主に自社でサービスを提供してきました。しかし、メルペイはオープンな存在として、多種多様な企業とのアライアンスを通じ、この世界観を短期間で社会実装したいと考えています。

メルペイがあるから新サービスが生まれる社会に

また、イメージしているのは、社会とつながったメルペイがあることで、メルペイを活用した新しいサービスが次々と生まれてくる世界です。
たとえば、メルペイが金融機関や小売店などとつながれば、あらゆるトランザクションのデータが集まります。すると、メルペイには一人のお客さまに対する信用情報がたまっていく。その信用情報を軸にした新しいサービスが生まれたり、CtoCやシェアリング領域でのサービスが立ち上がる可能性も大いにあります。
AmazonがAmazon GOを始めたように、アリババがAlipayやスーパーマーケットを生み出したように、メルカリが社会との接点を増やし、テクノロジーを使ったサービスを広げることで、次のメルカリのようなサービスが続々と生まれる社会を作りたい。
メルペイが金融インフラの一端を担う理由は、そこにあるのです。

メルカリにはいない多様な人材が必要

2017年11月末にメルペイを設立した直後の、12月中旬、私は全社に向けてメルペイの事業構想をプレゼンしました。「一緒にこの事業を成功させる仲間が必要だ」と社内公募を行い、1月半ばには50人が各部署からメルペイに異動。
これはメルカリ新規事業のなかでも異例の垂直立ち上げです。
しかし、異動したメンバーの中心はプロダクト側のメンバー。ここに必要なのは、金融業界のプロはもちろん、事業構想力を持ち、法人のお客さまに受け入れられる事業やサービスを描き、社会実装までを本気でやり切る人材です。
もともとプロダクトに強みを持つメルカリには、法人のお客さまと向き合い、事業を推進するBizDev(事業開発)のようなメンバーは、全社600人の中でも現在5~6人ほどしかいません。
夢として構想を描くだけでなく、実際に使われるサービスにするためには、多様なパートナーとひざを突き合わせて話し、課題を解決しながらビジネスを進めていく体制が必要。よいプロダクトを作るだけでなく、ここまでを徹底的にやり抜きたい。
ナショナルクライアントに新しいテクノロジー広告を提案していたような方、システムやソリューションを提案し、導入・運用までサポートしていた方、ブロックチェーンに詳しいエンジニア、金融業界や流通業界で経験を積んできた方など、年代や経験を問わず、多様な人材が集まった組織作りをしたいと考えています。
メルカリは会社としてメルペイに大きな投資をするという決断をしています。テクノロジーとメルペイの可能性を信じ、メルカリのバリューに共感するさまざまなバックボーンの方が集まれば、メルペイは“Go Bold”に社会実装できるはず。
これは私のキャリアの中でも新しいチャレンジです。

次世代の輝く人を生み出したい

最後に、なぜ私がメルペイの代表になったのか、そのきっかけをお話しします。私はドイツ証券で4年間勤務後、当時スタートアップだったグリーに参画。CFOとして上場に導いた後、米サンフランシスコのGREE InternationalのCEOとして、グローバル事業を率いていました。
2016年9月にグリーを退職した後は、約1年間、クールダウンしながらこれからの人生を見つめ直すことに。アメリカでの単身赴任も長かったので、家族でゆっくり旅行をしたり、父親とゴルフに出かけたりしながら、自分は何をしたいのか考え抜きました。
結果、たどり着いたのは、「チャレンジを通して輝く人をたくさん生み出したい」という答え。私の希望する役割は、大きなビジョンを掲げ、それを実行する場所を用意すること。メルペイの構想は、これにピッタリ合致したのです。
それに、メルカリの経営陣は、かつてそれぞれに事業を行い、経営は2巡目、3巡目といった実力者たちがそろっている。そこに私も加われば、次世代の人材をより多く生み出せると考えました。
ただし、お客さまの資産を扱う金融事業をやるからには、より高い社会的責任が問われます。メルカリグループとして確固たる「安心・安全」の基盤を構築し、社会に対してもしっかりと責任を果たす必要がある。
その点、メルカリの最重要指標となっているのは、顧客満足度の向上です。メルカリ会長の山田(進太郎)は、経営会議で「プラットフォームとして一層の安心・安全が構築できない限り、事業のアクセルは踏まない」と言い切りました。
だからこそ、今ならメルペイという新しい社会インフラを作れると確信したのです。
メルカリが作ってきた資産を活用し、社会インフラをアップデートさせて作る新しい未来。その壮大な構想を社会実装する瞬間に立ち会い、より便利な社会を創造する立役者になるのは、「青柳」ではなく「あなた」。メルペイは最高のステージだと思います。
(文・田村朋美 撮影:片桐寿憲 デザイン:九喜洋介 編集:樫本倫子)