【求人掲載】ゲーム界の破壊者が目指す“真のボーダーレス”とは

2018/2/23

世界最大のゲームプラットフォーム

国籍、年齢、性別を問わず全世界からゲーム愛好者が集い、ときに味方となり、ときに敵となって、非日常の体験に興じる──。
これが世界最大級のゲームプラットフォーム「Steam」上で、2億人を超えるユーザーたちが日夜繰り広げている光景だ。
Steamを通じて発売されたゲームのタイトル数は、2017年だけで6000本を超え、総本数では2万本以上にもなる(さらにゲーム以外のソフトウェアやエンタメコンテンツも販売されている)。
数億ドルの制作費が投入された超大作から、個人やインディスタジオが開発した比較的規模の小さいゲームに至るまで、いまや北米・欧州・アジアなどあらゆる国で作られる新作PCゲームは、Steamを通じてローンチされることが常識になっている。
2017年最大のヒット作である「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」(開発元は韓国のBluehole)の売上は、4月のベータ版発売からわずか1カ月で160万本、正式版が発売された12月には2000万本を超えた
全世界のユーザーがリアルタイムで同じゲームに熱狂し、盛り上がりが伝播していく。そのスピードとスケールは、ゲーム業界の“標準”が大きく変化したことを意味する。
そんなSteamの運営会社であるValve社と強力なパートナーシップを組み、日本で “PCゲーマーの楽園”を展開しているのが、日系カナダ人のジャック・モモセ氏が率いる「デジカ」だ。
従業員数30人にして、年商33億円超を売り上げるデジカとは一体どんな会社なのか。ジャック氏が見据えるビジョンを聞いた──。

「決められたルール」が市場を潰す

ジャック:フルタイムで日本に来たのは2003年。その頃はカナダのソフトウェア会社に勤めていて、そこで開発したデジカメの画像管理ソフトの市場開拓をしに来たのです。とても使いやすいソフトで、製品には自信がありました。
私が売っていたのはシェアウェア(現在のフリーミアムに近いモデル)でした。無料で試用してもらい、よかったらお金を払ってね、という仕組み。開発者にとっても、ユーザーにとっても透明性があって、フェアな仕組みです。
でも、当時の日本のソフトウェアの販売は、売る方法が全部ルールで決められていた。「流通はこうしなければいけない」「そこの店とその間にこうして」。お店にできるだけパッケージを突っ込んで、売れなかったら返品。これは辛いなと。
私にとって、日本は一番クリエイティブな国です。ゲームをはじめ、映画や漫画、アニメも作る人はたくさんいる。そして大きなマーケットもあります。
しかし、販売側が作った各業界のルールを守らないと、良質なコンテンツであっても世に出せない。ユーザーの手元に届かない。そして、コンテンツ製作者の大半がビジネス的に苦しい立場に追い込まれているという問題があります。
これを打破するには、既存のルールを壊して、製作者とユーザーをダイレクトにつなげる必要があります。それができれば、日本の素晴らしいコンテンツが、ルールの制約なくグローバルな市場に飛び出していけます。その逆に、海外のコンテンツも日本に自由に流入してくる。
国境を超えてコンテンツが行き交う、本当にボーダーレスな市場のインフラを作ること。それがデジカの創業以来のミッションです。

既存プラットフォームを破壊する「Steam」

なぜSteamがゲームプラットフォームとして成功できたか。ユーザーの利便性はもちろんですが、もっとも大きな理由は開発者、あらゆるゲームスタジオが抱えていた課題を解決したことです。
日本をはじめとして、ゲームスタジオはどこも同じ理由で苦しんできました。商流に沿っていないと作品を売れない。売れそうな企画じゃないと通らない。もう関係ありません。Steamを通じて、全世界にどんどんコンテンツを投入していけるのです。
また、Steamは開発環境も変えました。ライセンス機能やコミュニティの管理機能、マルチプレイヤー対戦の機能など、現代のゲームに求められるサービスはSteam上にすべて揃っています。開発者は、ゲームの本質部分だけを集中して作り込めばいい。
つまり、Steamはゲームの開発、流通、販売の前提をすべて変えてしまったのです。
デジカがSteamの運営元であるValveと提携し、日本展開をスタートしたのは2014年です。その翌年には、日本からのSteamユーザー成長率は世界1位。そして2016年には、日本の開発チームが200を超える数となりました。
Steamの世界売上におけるアジア比率は初年度で2%ほどでしたが、現在では全世界の30%を占めています。今ではどこのパブリッシャーも、新作ゲームを売り出すときに必ず「Steamはどうする?」と考えます。
あえてSteamで出さないスタジオもありますが、それは今までの売り方、流通経路を守らないと自社の営業が困るとか、ハードウェアを抱えているメーカーが大作を独占販売してユーザーを囲い込みたいからとか、そういう理由です。
Steamには、そういった縛りは何もありません。誰でも自由に使える。信念をもったオープンプラットフォームなのです。
既存のルールを破壊して拡大するポテンシャルは圧倒的ですから、いずれ日本のゲーム産業も全面的に対応していくことは間違いないでしょう。

ゲームとVRは、新しい現実を作る

かつて世界トップレベルだった日本のゲーム文化は、スマホを中心としたカジュアルゲームに移行し、縮小しているように思えます。
しかし、10代20代の新しい世代にとっては違います。彼らはネットを通じて世界で流行っているゲームを知り、海外プレイヤーのYouTubeやtwitchの動画を見て戦略を学び、Discordなどのゲーマーに特化したコミュニケーションツールを使い、Steamで実際にプレーしています。これがグローバルの潮流なのです。
私は現代において、ゲームの世界こそもっともボーダーレス化が進んだ、次世代の感覚を持った人が集う「実験室」のような空間になっていると考えています。
ゲームの世界は、これからますます現実とバーチャルの境目がなくなっていきます。昔だったら、一緒に公園で走り回っていた子どもたちが、いまではゲームやVRの中で、フレンドとチームを組んで遊んでいます。
デジカのメンバーの約半数は外国人、オフィスの“公用語”は英語と日本語。メンバーとのオンラインゲーム上での出会いをきっかけにスカウトされたエンジニアも居る
今、海外で主流になっているオープンワールドゲーム(舞台となる広大な世界を自由に動き回って探索・攻略できるように設計された作品)は、まさに自由な遊び場です。国籍も民族も年齢も超えて、ボーダーレスな人々がそれぞれの思い出を作る場所になっているんです。

ゲームは“ボーダーレス”を作る実験場

デジカの事業基盤は、パブリッシングとイーコマース、そして決済です。実はSteamと提携するうえで、われわれは3つのミッションを決めました。
まずひとつは、海外産のゲームが簡単に日本に来られるようにすること。日本はランゲージのバリアもあって、海外の人気タイトルでも日本版が出なかったり、海外に比べて割高な価格がつけられたりと、フェアな市場環境が提供されていませんでした。それを壊すことが第一のミッション。
もうひとつは、日本のゲームスタジオが優れた作品をどんどん海外展開できるようにすること。
そして最後のミッションは、決済を変えることです。「komoju」という自社開発の決済システムが、すでにSteamをはじめとした複数の世界規模のサービスに利用されています。
ゲーム産業は、デジカにとってテストの場所であり、ひとつの足掛かりです。次世代のボーダーレスがどこよりも速く生まれているからこそ、ビジネスにとっても一番いい実験室なんです。
オープンなプラットフォームと、フェアな決済。これがもっとも重要です。それが回れば自然とエコシステムが加速して、世界でさまざまな商品が生まれて、世界の人たちに届くという、本当にボーダーレスの世界が作れるのです。
デジカは決してゲームの会社ではありません。社員の半分くらいがゲーマーなのは事実ですけど(笑)、作っているものはすべて、ゲーム以外の産業でも通用するものばかりです。
創業から10年かけて準備をしてきて、ストアも決済も、新しいビジネスを立ち上げるためのパーツはすべて揃いました。これからのデジカは、ゲーム産業の枠を超えて新しいビジネスを作れるプラットフォームになっていきたい。
外部の資本もないし、おかげさまで利益も全然困っていません。だから本当に新しいビジネスを作りたい人、ボーダーレスな事業を作りたいと思っている人にとって、自由に使える“オープンワールド”のような場所でありたいんです。
(取材・文:呉琢磨、撮影:岡村大輔)