Gergely Szakacs

[パーパ(ハンガリー) 7日 ロイター] - ハンガリーの労働者不足が深刻になりつつあることを思い知らされた数年前のミーティングについて、オーストリア系企業で工場長を務めるガボール・キライさんは「ショッキング」だったと回想する。

ヒルテンベルガー・オートモーティブ・セイフティー社は同国西部パーパで従業員725人を雇用し、シートベルトのプリテンショナーなどを製造している。この町の失業率はほぼゼロに近づいており、高い離職率がすでに大きな問題となっていた。

同社はロボット時代に突入した。

顧客であるBMWやメルセデス、フォルクスワーゲンやアウディからの需要の高まりを受け、250万ユーロ(約3億4000万円)を投じて工場にある2カ所の製造ユニットをオートメーション化したのだ。

これは、ヒルテンベルガーに限ったことではない。

東欧各地で企業がオートメーション化への投資を拡大している。2008年の世界金融危機以降、そして2011年に欧州連合(EU)の富裕国が労働者流入制限を解除して以降の労働者不足を補うためだ。

ロボットが人間に取って代わることの否定的側面について、世界各国の当局者やエコノミストが懸念する一方、東欧におけるオートメーション化は、市場シェアを失いたくない企業にとって「渡りに船」となっている。

企業は大幅な賃上げを行っているが、若者に離職を思いとどまらせるには十分とは言えない。少子高齢化が進む人口動態のすう勢を補うにも不十分だ。

今後も低出生率が続く場合、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリーを合わせた総人口は2050年までに800万人以上減少し、5600万人になると、2017年の国連報告書は予想する。

「金融危機以前は、賃金は非常に安く、労働者も十分にいたが、資金が足りなかった」と、ハンガリーの屋根瓦メーカーで最高経営責任者(CEO)を務めるアッティラ・ゴディ氏は語る。同社は昨年、ロボットと補助装置を導入するために90万ユーロを投資した。

「こうした傾向は今では逆転してしまった。資金は手元にあり、それは最新の機能的なテクノロジーに投資される。その一方で、労働コストは増加している」と同氏は語った。

ドイツやオランダ、フランスや英国など西欧諸国でも労働者不足が起きている昨今、東欧における労働者不足は、2020年末までにこの地域の一部経済に壊滅的な影響を及ぼしかねないと、エコノミストは警鐘を鳴らす。

「労働市場は少なくともこの3年間、徐々にタイト化していることは明らかだ。労働者不足が経済成長を圧迫し始めており、2018年は転換点となるかもしれない」と、イタリアの銀行最大手ウニクレディトのアナリストは顧客向けノートでこう指摘している。

企業も移転を考え始める可能性がある。

<受注を断念>

イプソスがチェコ企業100社を調査したところ、3分の1近くが昨年、労働者不足を理由に注文を断ざるを得なかったと答えた。また、4社に1社がオートメーション化を加速する計画だと回答している。

ハンガリーでロボット生産設備向けの機械製造を手掛ける「Vesz-Mont 2000」は、需要に追い付くのに苦労している。同社自身も労働者不足に見舞われているからだ。

19年前に納屋から出発し、ジム用具や自動車部品メーカー向けの設備を製造してきた同社は現在、従業員170人を数える。

「(顧客のために)さまざまなタスクをロボット化している。過去1年で3倍以上になった」と、同社のティボール・ゼンタイCEOは話す。

昨年の売上高は約10%増え、今年はロボット販売倍増を目標としている、と同CEOは説明。「需要から言えば、もっと売り上げてもよかっただろうが、市場のペースに追いつけなかった」

国際ロボット連盟(IFR)の試算によると、中欧と東欧で昨年導入されたロボットの数は、前年比28%増の9900台。また、2020年末までに見込まれる同地域向けロボット出荷の年平均成長率21%は、欧州全体の平均と比べて2倍近くになると予想している。

IFRの2016年データによると、労働者1万人に対する産業用ロボットの導入具合を示す製造業の「ロボット密度」は、スロバキアが135台で地域で最も高く、チェコが101台、ハンガリーが57台、ポーランドが32台と続く。

ヒルテンベルガーにプラスチックのオーバーモールディング機械を供給するオーストリアのエンゲル社は、同社が昨年にハンガリーで販売した機械の3分の2はオートメーションで、新規注文ではその割合が75%を超えているという。

だが、オートメーション化には新たな課題もある。機械のプログラミングや保守、付帯サービスを提供するには、高いスキルを持つ熟練労働者が必要だが、こちらもまた人材が不足していると、エンゲルのハンガリー支社アルベルト・ビンチェCEOは説明する。

<生産性>

東欧全体の労働生産性は、経済協力開発機構(OECD)のデータによると、EU平均を下回っている。しかし、設備やオートメーション化への投資拡大により、労働生産性は緩やかに上昇している。

OECDによると、2000─14年の労働時間に対する資本集約度は、ポーランドで2.9%、ハンガリーで2.2%、チェコで1.7%上昇している。一方、同期間においてドイツは0.7%、フランスは0.3%の上昇だった。

K&Hなどハンガリーで営業する銀行はロイターに対し、オートメーション化への投資拡大は今後も続くとの見方を示した。

ハンガリーのホテルやプールに水処理機器を販売するダイナックス社の従業員数はわずか30人程度だ。だが、夏季の学生アルバイトもなかなか見つからず、2016年には最大20%、翌17年には同15%の賃上げを実施したあげく、同社はオートメーション化に踏み切らざるを得なくなった。

1万8000ドル(約200万円)を投じて米企業から設備を購入した結果、同社は今では1日当たり2人分の労働を節約できるようになった。今後さらに2万ドル投資する予定だという。

「生産能力を押し上げる一方で、従業員を増やす必要もない。まさに一石二鳥だ」と、ダイナックスのティボール・ジョン営業部長は語った。

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)