【正能茉優】ビジネスを加速させるコミュニケーションツール活用術

2018/2/17
フレックスな雇用制度を利用し、ソニーで正社員として商品企画に携わる正能茉優さん。学生時代に、地方のものをかわいくして発信・販売する「ハピキラFACTORY」を起業。その経営を続けながら新卒で広告代理店に就職し、2016年10月、ソニーに転職した。大企業に勤めながら自社の経営もする彼女に、その仕事観と、新しい働き方を支えるビジネス・コミュニケーションツールについて聞いた。
副業・兼業は、ラーメンライス!?
──正能さんは、ソニーの正社員でありながら、ハピキラFACTORYの社長でもある。なぜ、両方やろうと思ったんですか。
就職活動の時期に私が考えたのは、「自分の1時間当たりの価値をどう最大化するか」ということでした。そのために、ナンバーワンかファーストワン、オンリーワンの存在になりたいなと考えた時に思いついたのが、「○○なのに社長」という文脈で、オンリーワンの存在になってみようということ。
当時は、ハピキラを続けようか、就職しようか、すごく迷っていたのですが、「両方やってみればいいのかも」と気づいたわけです。ラーメン屋さんに行ったら、チャーハンも食べたくて両方頼んだ、みたいな。ただ、両方をフルで食べるとおなかいっぱいになってしまうので、半ラーメンと半チャーハンのセットにした感じです。
今は、ソニーの仕事がすごく楽しいし、ハピキラFACTORYの仕事も大好き。両方楽しいから、両方やる。それだけです。
ただ、どんな働き方・動き方をすれば、私はソニーの役に立てるんだろうということは、常に考えています。ソニーの正社員としてはとてもありがたい働き方をさせてもらっているので、「この働き方をしているからこそ、あんな発想ができるんだね」とか、「ハピキラもあるから、あんな人とソニーの仕事でもご一緒できるんだよね」と、ソニーだけで働いていたら実現できないようなウルトラCを日々見える化することを心がけています。
実態として価値がないと「あの子、面白いよね」で終わってしまう。それでは、最初は面白がってもらえても、中長期的には意味がないなと考えています。
──それぞれの仕事内容は?
どちらも企画のお仕事なので、「素敵なものをつくって、世の中をハッピーにする」という基本的なスタンスは一緒です。ただ少し違うのは、ハピキラFACTORYでは地方にあるイケてるモノを見つけたときに「どうすればもっと売れるかな?」って考えるので、モノスタートでの発想。ソニーの場合は、「こんな体験をしてほしい」という体験から出発して、そこに技術をかけ合わせて実現する。考える順番は違えど、「リアルプロダクトが実現する体験で、世の中をハッピーにしたい」という思いは一緒なので、これが今の私の好きなことなんだなと感じています。
先日、ソニーに転職してから初めて、企画メンバーとして携わった商品が海外で発表されたのですが、海外でも当たり前のように発信・発売されていくことに感動しました。ハピキラでは一件ずつ交渉して、販路を広げているので(笑)。グローバル企業ならではの販路の広さも、ソニーのお仕事が楽しい理由の一つです。
──ハピキラFACTORYでは、今どれくらいのプロジェクトが動いているんですか。
ハピキラの方は、取締役の相方と私の2人でできることをやっていくというスタイルです。最近は、地方のものをプロデュースするだけでなく、長野県小布施町の農家さんと若者をつなぐ「MY農家BOX」というCtoCの一次産品販売プラットフォームをゼロからつくったり、地方の食材を使った食品会社の商品開発も始めました。常に5~6くらいのプロジェクトが動いていますね。
分散するコミュニケーションを、集約させるツール
──ソニーの仕事もやりながら、2人でそれだけのプロジェクトを手掛けるとなると、時間が足りなくないですか?
ソニーでは、正社員としてフレックスな雇用制度を利用しながら、だいたい朝9時半頃から夕方18時前まで働いています。実物を見ながらの打ち合わせなど、実際に顔を合わせないとできない仕事が入ることも多いので、出社することがほとんどです。
月間でならすと1日8時間程度はソニーの社員として働いているので、残りがプライベートとハピキラFACTORYに使える時間。だからハピキラでは、ありとあらゆるプロジェクトを「同時に」進めることになります。
5つから6つのプロジェクトが、同時並行で、日本全国いろいろな地域で動く。しかも、今ってまだまだコミュニケーションツールの過渡期だから、どんな方法で連絡を取るかが人や業種、地域によってバラバラなんです。
たとえば、お歳暮やお中元の受発注にはいまだにFAXが使われていたり、お相手によってはメールのCC文化がなかったり。メールは使わないけど、スマホでLINEだけはするっていう人もいます。だから、私たちが意思をもって、どこかに情報をまとめないと、めちゃくちゃに分散してしまうんです。
得意先からの電話に対応したことを、相方に共有したい時。以前は電話するか、LINEするか、Facebookメッセージするか、Instagramメッセージするか。この4つがその時々のタイミングで、すべて動いていました。
すると、週に一度の定例会議で、「そういえば、あの話どうなったっけ?」と話す時、すべてのツールをさかのぼらないと掘り起こせなかったんです。話しかけるくらいの手軽さでやりとりできるチャットツールは便利ですが、情報の整理や検索には向いていないんですよね。
これではあまりに不便すぎるといろいろ試した結果、今はハピキラの情報をすべてSlackに集約し、プロジェクトごとにチャンネルを作って管理しています。写真もテキストも、すべてのデータを専用のチャンネルでやりとりすることによって、資料を探すのも進捗を確認するのも、Slackだけを見ればよくなりました。
今のハピキラFACTORYにとっては、Slackが主軸となるコミュニケーションツールであり、同時にプロジェクト管理ツールにもなっています。
おそらく、業務領域が明確でひとつの仕事が終わったら次へ進むという人なら、どんなツールを使っても問題ないんです。でも、私たちのようにいくつもの仕事が並行して進み、いろいろなツールを使いながら細やかなやりとりを重ねて仕事を組み立てる人間には、これらをまとめて整理できる、大きな一つの枠が必要でした。
Slackという一つの枠の中で、プロジェクトごとにチャンネルを使い分けられることが、私たちにとっては大きな魅力ですね。
──Slackを使うことで、コミュニケーションにどんな変化がありましたか?
たとえば、メールの場合はAさんからBさんへとやりとりの矢印が決まっていて、その人に対しての確認か共有か、承諾を求めるのか。目的が明確です。自分のプロジェクトについて、上司に承認をもらったり、デザイナーさんにこんなものを作ってほしいと依頼したり。コミュニケーションの矢印がはっきりした連絡に向いています。
一方、Slackのようなツールの特徴は、フラットなコミュニケーション。プロジェクトごとに区切られたチャンネルという場に対して、全員がフラットに、情報を投げ合って受け取り合うっていうマルチ方向のやりとりですよね。だから、アイデア出しやブレインストーミングみたいに、何かを生み出すやりとりに向いていると思います。
それに、Slackのいいところは、メールと比べて話が早いこと。いまだに仕事はメールがいいと考える人も多いですが、メールは無駄も多いです。「何時までに、こんなアイデアをください」という内容を伝えるのに、宛名と挨拶に始まって、スマホ1スクロール分くらいのテキストになってしまいますからね。
これだけツールが多様になっているからこそ、メールと電話以外はオフィシャルじゃないという感覚は、変わっていったらいいなと思います。そうしたら、もっと生産性が上がるはずです。
新しいコミュニケーションは、企業をどう変えるのか
──Slackのようなツールによって、企業や組織の形は変わると思いますか? 
変えられると思います。先ほどお話ししたような “何かを生み出すコミュニケーション”って、これまではリアルな場で顔を突き合わせてやることが多かったんです。だから、ソニーでもハピキラでも、アイデア出しを目的とした定例会議が存在する。
でも、アイデアを生み出す行為をこういうフラットなツールを使ってできるようになれば、その時間は会社にいる必要がなくなって、好きな場所で働けるようになります。移動の時間だっていらない。確認や共有、伝達などはすでにツールを使ってやっていることを考えると、「新しく生み出すこと」も、顔を合わせずともやれるようになるんじゃないかなと思います。
ランチを食べながらふと思いついたアイデアをツールで投げる。それに対して、上司や同僚が思い思いの場所で、好きなタイミングで、アイデアやコメントを投げ返す。そんな、会議室から解放された、アイデア出しがあってもいいですよね。
──なるほど。Slack上で会議を行うということではなく、新しいアイデアを生み出したり、練ったりする方法が増えるイメージですね。
はい。こういった新しいツールが大企業で当たり前に使われるようになったら、よりフラットなマルチ方向のコミュニケーションが活性化し、若手の発想を生かしやすくなるということもあるかもしれません。
日々商品企画をやっていて思うのは、自分より年上の大先輩の経験がものをいう世界ももちろんあるけれど、そうじゃない世界もあるなということ。特に、新しいものをつくろうというときは、新しい目線、新しい考え方が必要になります。この「新しさ」を必要とする領域では、若手だから優秀じゃないとか、面白いことを考えられないかというと、そんなはずはないと思うんです。
その観点でいくと、社会人1年目の人って、社会人30年目よりもある意味価値がある存在になれる可能性もある。まだ会社の当たり前に染まっていないわけですからね。もちろん、社会人4年目になる私だって該当者で、新入社員の方が新しい目線を持てていることもあると思います(笑)。
私の場合、常にほかの仕事もしているからこそ、違う目線でも物事を見られるということはあります。それが、ソニーという会社が私の働き方を認めてくれる理由だと自覚しているので、常に新しい目線で考え、発言することを心がけています。
そういう新しい目線での意見を、もっと気軽に発信できるシステムがあったらいいなと思っているので、Slackみたいなツールでマルチ方向のコミュニケーションがより活発になると面白いかもしれません。
──正能さんみたいなパラレル型の働き方は、増えた方が面白いと思いますか。
うーん、思いません。これについての答えはひとつで、やりたい人がやればいい。それだけです。
私は「ビュッフェキャリア」と呼んでいるのですが、「好きなことを、好きなバランスで、好きなだけやる」ことが幸せの基本だと思うんです。
カレーもパスタも食べたい人は両方食べたらいい。カレーだけが好きな人は、カレーをおなかいっぱい食べたらいい。でも私が思うのは、カレーを食べているときにパスタも食べたくなったら、食べてみてもいいのになということ。これが副業・パラレルキャリアと呼ばれる働き方のベースとなる考え方かなと思います。
ただ、こういう働き方をするには、本人の意志とモチベーションが大事。加えて、本人の能力や適性、それを受け入れる社会の仕組みも必要です。だから、少なくとも、すべての人がやるべきスタイルとは言えない。
ひとつだけ言えるのは、世の中のルールや仕組みが原因で、今望んでいる働き方ができていないのであれば、そこはできるようになったらいいなということです。
私がこのような働き方をしているのは、単純にやりたいことが二つあるから。それぞれの仕事でいい作用があったらいいなという思いもあります。そして、この働き方ができているのは、ソニーという会社がこの働き方を認めてくれているからなんです。
正社員って、やっぱりすごい制度なんですよ。わからないことがあったら、先輩に教えてもらえる。自分の会社もやっているからこそ、そのありがたみをひしひしと感じます。それに、毎月お給料を頂けて、食べていくお金に心配がないからこそ、自分のやりたいこと、やってみたいことにもどんどん挑戦できます。
「正社員をやりながら、好きなこともやる」。その働き方が、選択肢のひとつになることは、個人にとっても、世の中にとっても、ハッピーなことになると私は思っています。
(聞き手:宇野浩志 編集:久川桃子 撮影:後藤渉)