2018年に大ブームを起こす可能性

人工知能の技術は、2017年にいくつかの重要なマイルストーンに到達した。
フェイスブックでは、チャットボットが人間と同じくらい巧みに交渉できるようになった。カーネギーメロン大学の教授たちが設計した「ポーカーをするシステム」は、人間たちに対して完勝を収めた。
人の命を救う可能性を秘めたブレークスルーもあった。たとえば、ほくろが癌性のものであるかどうかを90%以上の精度で見分けられるマシンビジョンシステムだ(皮膚科の専門医たちを圧倒する精度の高さだ)。
農業から医学まで、そして既存の分野のみにはとどまらず、数多くのスタートアップがAIをイノベーティブな方法で利用し始めている。以下では、2018年に大ブームを起こす可能性が高い5つの会社をご紹介する。

1. サウンドハウンド

サウンドハウンド(SoundHound)は設立から13年を経た会社だが、その13年間を史上もっともパワフルな音声アシスタントを作る努力に費やしてきた。
このスタートアップは「シャザム(Shazam)」と似た楽曲認識アプリ「ミドミ(Midomi)」を作ることから始めた。そして、新たにリリースされたアプリ「ハウンド(Hound)」は、かなり複雑な音声指示に答えることができる。
たとえば「ここから半径5マイル以内で、午後10時すぎまで開いていて、値段が標準以下のレストランを探して。ただし、中華とピザは除いてね」とか「アメリカで一番大きい州の州都の現在の天気は?」といった質問にも答えられるのだ。
多くのバーチャルアシスタントは、言語をまずテキストに変換している。だが、このアプリのAIは音声認識と言語理解を合わせて1つのステップとしており、それがより早く答えを出すことやエラーを減らすことに役立っているという。
投資家たちの期待も大きい。最初の10年と少しの間に、この会社は4000万ドル以上を調達。さらに2017年には、サムスンやクライナー・パーキンスも参加した7500万ドルの資金調達ラウンドを完了したのだ。
ただし、サウンドハウンドには今後、グーグル・アシスタントやマイクロソフトのコルタナなど巨大企業のAIたちとの厳しい競争が待っている。

2. フリーノーム

リキッドバイオプシー(NP注:血液や尿など採取しやすい液体からがんの様々な検査を行う手法)は、医学の世界で大きな話題になってきた技術だ。血液サンプルを使って癌を検出する方法の開発に取り組む、十分な資金を持ったスタートアップの数はますます増えている。
フリーノーム(Freenome)もそうした会社の1つだが、同社の目標は他の多くよりも高いところにある。他社がすでに存在する癌の検出に焦点を当てているのに対し、フリーノームのAIは血液サンプルを使って病変組織がどこにあるか、あるいはどこにできそうかを特定するばかりでなく、それが悪性か良性かも見極められるという。
同社のAIは血液のDNAを調べて癌の徴候を示す突然変異を検出し、その癌がどこにあるか、そしてどんな治療法がもっとも効果的かを予想するのだ。
同社はすでに何千回もの試験を行っており、このプラットフォームが前立腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌の検出に効果的だったと述べている。機械学習のおかげで、このソフトウェアによるスクリーニングの精度は今後時間を経るにつれて上がっていく。
ただし、同社がより広範囲に活躍するには、まずは必要とされる臨床試験を実施し、規制当局による承認を受けたうえで、このAIを一般向けに展開していかねばならない。こうした目標を達成するべく、フリーノームは2017年、6500万ドルのシリーズA資金調達ラウンドを完了した。

3. バウリー・ファーミング

将来の農業は、現在とは見た目がずいぶん違ったものになるかもしれない。具体的にどうなるかは、屋内で農作物を育てる垂直農業のスタートアップ、バウリー・ファーミング(Bowery Farming)に尋ねてみるといい。
各施設にはさまざまなセンサーが備えられ、湿度、温度、光といったファクターに関するデータポイントを収集する。植物が育つにつれて示す微妙な変化は、カメラで観察されている。
同社のAIはマシンビジョンのおかげで、それぞれのグループごとに状態をすばやく見極め、理想的なコンディションに調整することができる。これによって、収穫量だけでなく、収穫物の味やテクスチャ、色も最適化されるのだ。
生産量で見ると、バウリー・ファーミングの単位面積あたりの効率は伝統的な農場の100倍以上だと同社は言う。
このスタートアップが参入しようとしているのは、現在エアロファームズ(AeroFarms)のような会社が活動している領域だ。エアロファームズはそれほどAIにフォーカスしたアプローチを採っているわけではないが、アメリカ北東部を中心にいくつかの大規模な垂直農場を展開している。
それまでほとんど無名だったバウリー・ファーミングは、2017年に2000万ドルの資金調達ラウンドを発表して、一躍注目をあびることになった。殺虫剤や農薬を必要とせずに栽培される同社の農産物は、すでに高級スーパーマーケットチェーン「ホールフーズ」などの店頭に並んでおり、取り扱い店は今後さらに増える見通しだ。

4. アーテリス

MRI(核磁気共鳴画像法)画像の読影は単調な仕事であり、ヒューマンエラーが起きやすい。アーテリス(Arterys)は、この仕事を人工知能に任せる試みで他社をリードしているスタートアップだ。同社の技術により、人間なら通常45分ほどかかる診断が、いまではわずか15秒で実行できる。
このシステムではディープラーニングを利用して、過去に読影した画像と新たに撮られたMRI画像を比較する。すべての情報はセントラルクラウドに保存され、日々増えていくデータセットをシステムに提供する。そうすることで時間を経るにつれて、さらに正確な読影ができるようになるのだ。
2017年、心臓と心室内の血流を読影するアーテリスの心臓MRI技術は、クラウドベースのAIプラットフォームとしては初めてFDA(米国食品医薬品局)により臨床の場での使用が承認された。
同社は2017年、3000万ドルのシリーズB資金調達ラウンドを完了。現在は、肺と肝臓を対象とした同様の技術についてFDAの許可を得るための準備に取り組んでいる。

5. スポーク

このスタートアップのAIは、あなたの会社についてあなた以上に詳しくなることを目指している。
たとえば、病欠有給休暇の繰越について人事部がどんな方針を採っているのか知りたい場合には、スポーク(Spoke)のチャットボットにたずねればいい。会議室の電球の1つが切れていたら、それもチャットボットに伝えておけば、適切な人物にその電球を交換するよう伝えてくれるだろう。
スポークは「スラック(Slack)」のような既存アプリ、あるいはEメールやテキストメッセージを通じて、従業員たちの質問に答えてくれる。そうすれば、従業員たちは誰かに質問をしたり、逆にそれに答えたりすることに費やす時間を節約でき、オフィスでの仕事がよりスムーズになるというのが基本的なアイデアだ。
機械学習コンポーネントの働きにより、このシステムは人々と会話をするたびに情報を処理して学習し、今後のために新しい回答を蓄えていく。
スポークは元グーグル社員の3人によって2016年に設立され、2017年11月に2000万ドルの資金調達ラウンドを完了した。すでにクライアントも集まり始めている。同社が2018年の早期にリリースする予定の製品は、世界中のあらゆる場所でオフィス環境をこれまでよりずっとスムーズなものにしてくれるかもしれない。
ただし、他社のワークプレイス生産性ツールとの競合は確実だ。スラックも、会社についての質問に答える独自のチャットボットのシリーズを用意しつつある。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Kevin J. Ryan/Staff writer, Inc.、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:dan4/iStock)
©2018 Mansueto Ventures LLC; Distributed by Tribune Content Agency, LLC
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.