プロ野球×Bリーグ。北海道で踏み出された、大きな第一歩

2018/1/24
プロ野球運営企業から、ライブエンターテインメント企業へ――。
新球場移転、ボールパーク化構想が注目される北海道日本ハムファイターズは、今後の経営をそう見据えている。
本拠地の移転先が2つに絞られたと報じられるなか、上記のチャレンジでは先に一歩目が踏み出された。新たなフィールドとなったのは、バスケットボールだ。
「レバンガ北海道×ファイターズコラボレーションDAYS」
1月20、21日、Bリーグのレバンガ北海道対川崎ブレイブサンダースはそう銘打って開催され、今季のレバンガの平均観客数(3651人、ホーム13試合終了時点)を大きく上回る5097人、5479人のファンを集めた。同一カードの2戦ともに5000人を超えたのはレバンガとして初めてで、今季の平均観客動員数はリーグ2位の3870人に上昇した(1月21日時点)。
レバンガの選手たちは普段の黄緑ではなくファイターズカラーのスカイブルーのユニフォームで戦い、ファイターズの栗山英樹監督や稲葉篤紀スポーツ・コミュニティ・オフィサー、チアリーダーやマスコットが試合を盛り上げた。
ただし、この2試合は単なるコラボイベントではない。いわゆる“売り興行”と言われるものに近く、ファイターズがすべてのチケットを買い取り、興行全体の舵取りをしたのだ。
「バレーボールだったり、アイスホッケーも含めて、北海道のチームが同じ名前でいけたらっていう理想もある」
スポーツ報知によると、21日に試合会場の北海きたえーるを訪れたファイターズの栗山監督は、「北海道ファイターズ化構想」を提案した。
この構想の裏にあるのは、ファイターズとレバンガの課題解決、そして北海道のスポーツを活性化させようという狙いだ。
“裏表”のプロ野球とBリーグ
ファイターズの事業統括本部コンシューマビジネス部の川尻裕一氏は、今回、単なるコラボイベントを行うのではなく、2試合のチケットを買い取った目的をこう説明する。
「今後を見据えたとき、1つのコラボレーションをするより、もっと大きな取り組みをしたいという狙いがあります。バスケットファンの方がプロ野球より若年層が多く、我々とすれば新規顧客の開拓をできるという側面もあります」
各球場に野球女子が詰めかけるなか、札幌ドームを訪れる女性ファンは50代以上が多くを占める。ファイターズはそうした層に支えられる一方、いわゆるF1層をもっと開拓すべく、札幌ガールズコレクションとのコラボ企画などを行ってきた(参考記事はこちら)。
女性ファンに向けて行われた「彼氏にしたい選手No.1決定戦」
「そうした取り組みも断続的に続けなければいけないですが、それだけでは限界があります。レバンガの女性来場者は約7割が20、30代で、そうした方々に『実はファイターズも近い存在なんですよ』とアピールしたいと考えました」
バスケットを通じて新たな市場を開拓できることに加え、ファイターズにはリソースを有効活用できる点も魅力的だった。プロ野球が春から秋に開催されるのに対し、Bリーグは秋から春に行われるからだ。
「入場ゲートで使われるパソコンや音響機材など、冬場に眠っているものが非常に多くあります。バスケットボール側から、『使っていないなら、貸してください』という声もありました」(川尻氏)
4つの取り組みで価値提供
相思相愛で実現された今回の企画で、ファイターズが行った取り組みは大きく4つある。(1)チケット販売、(2)スポンサー販売、(3)グッズ製作&販売、(4)場内演出だ。
レバンガファンには既存ルートでチケットを販売する一方、ファイターズファンに対して新たな冬の楽しみを提供することで、通常より1試合1500人多いファンが北海きたえーるに訪れた。
試合当日、ファンの満足度を高めるために行われた施策の一つが、コラボグッズの販売だ。
さらにセンターハングボードにビジョンを取り付けて、データスタジアムに制作依頼してスーパーリプレー動画を流した。
企画当日までに川尻氏はレバンガの会場に足を運び、運営上の改善点を感じていた。
「会場に行くと、どんな選手が活躍して、ここまで何点とっているか、つまり選手の顔がわからないんです。だから、そういうことに訴求できるコンテンツをつくりました」
今回採用されたダクトロニクス社のビジョンは、メジャーリーグ全30球団が採用している最先端のものだ。導入するには億単位の費用がかかると見られる。
鎌ケ谷スタジアムのビジョン
ファイターズは同社のビジョンを2軍の本拠地・鎌ケ谷スタジアムに導入しており、そのアセットを生かしてBリーグ向けにレンタルしてもらう仕組みをつくった。1試合数百万円で使用できると見積もられ、導入のハードルがグンと下がった。
この仕組みはバレーボールやアイスホッケーなど、他のアリーナスポーツにも転用可能だろう。
夢は、北海道が一つに
札幌にはファイターズとレバンガに加え、サッカーのコンサドーレ札幌も本拠を構えている。
競技こそ異なるが、スポンサーに向けて売るのはシーズンシートや冠スポンサーなど、3社ともほとんど同じ商材だ。だからこそライバル関係になるのではなく、手を取り合った方がいいと川尻氏は考えている。
「ファイターズとレバンガでは、スポンサーがかぶり合っているところも結構あります。でも北海道の中のパイを取り合うのではなく、1人のセールスマンが『こういう商材があります』と横並びで売った方がいいのではという発想がありました。レバンガさんもそう思っていますし、将来の夢としては北海道スポーツセールスカンパニーみたいなものができて、そこで一緒に売っていければいい」
「そうすれば、例えばダンスやアイスホッケーの商材をもっと売ることもできるのではないかと。今回の取り組みは、その最初の入り口という感じです」
21日は栗山監督のティップオフで試合開始
ファイターズは「スポーツコミュニティ」という企業理念を掲げ、北海道を盛り上げていこうと活動している。ただし川尻氏によれば、現状、「野球から外に出ているのは本当に一部」だという。
スポーツの興行を開催するという点で、プロ野球団は多くのノウハウやリソースを持っている。一方、20、30代に人気のBリーグでは、IT活用や試合演出などで新たな取り組みが行われている。
シーズンが“裏表”の関係にある両者が手を取り合えば、多くの相乗効果を期待できるはずだ。
そうした狙いが込められた今回のファイターズとレバンガの取り組みは、後から振り返ったとき、日本のスポーツビジネスにとって大きなスタートの一歩目になっているかもしれない。
(写真:©HOKKAIDO NIPPON-HAM FIGHTERS、©LEVANGA HOKKAIDO)