ほとんどの場合、人々は実体のある製品に対してより多くの金額を払う。所有意識をより強く感じられるからだ。

実物により多くの金額を払う理由

映画を観たければ、デジタル版をダウンロードすればいい。写真の保存先はもちろん、ディスクだ。新聞や本を読むなら、電子書籍リーダーがある。
私たちはデジタル製品をすっかり気に入っており、生活のすべてがスマートフォンに依存しているように見える。ところが、そう簡単ではないようだ。
心理学者のアラン・サムソン博士が指摘しているように、人々は喜んで、物理的バージョンの書籍や写真、映画にもっと多くの金を払うという研究結果が出ている。これは、実体のある物を持っているとそれに対して抱く所有意識が強まるためだと研究者は理論づけている。
だが、この言い方は少し事態を単純化している。研究結果では、実物とデジタル版の評価額の差は、以下の要因にも影響されることが示唆されている。
・完全な所有ではなく、レンタルや、サブスクライブであるかどうか
・対象物を、自分のアイデンティティや自己感覚と強く結びつけているかどうか
・対象物と接する手段を通じて、管理する必要性を感じているかどうか
サムソン博士は上記の最後のポイントに焦点を絞って、次のように指摘している。自分でより管理できるもののほうが高く評価されるなら、企業はデジタル製品にカスタマイゼーションの選択肢を用意するだけで、買い手が受け入れる価格を引き上げることができるというのだ。

デジタルと実物の価格差に対処する

だが企業は、単にデジタル製品の便利さや進歩を指摘したり、日常生活での利用法を示したりするのではなく、マーケティングの枠組みを信念や集団との関係、目標といった点でもっと明確にした場合に、もっとうまくやれるかもしれない。
レンタルやサブスクリプションの所有意識が低いのなら、製品をもっと卓越した永続的なものに見せる積極的な措置を講じることも可能かもしれない。
たとえば、プッシュ通知によって買い手に継続的なアクセスを思い出させたり、今後のアップデートの専用プレビュー版を提供したりして「デジタル製品がどこかへ消えていたりせずに、引き続き役に立っている」という、より良い印象を与えることができる。
人工知能(AI)なら、こうしたタスクをもっとシンプルにできる。カスタマイズされたメッセージを消費者に送るのに必要なデータをもともと収集しているからだ。
ただし、物理的製品のほうが評価額が高いことには、他の要因も絡んでいるかもしれない。
たとえばマーケターは近年、デジタル製品をスペースの節約の観点から優れものだと勧めている。だが、人々は何百年も前から、地位や富を示す基本的な方法として所有物を披露してきた。
物理的製品に人々が関連づける価値の一部は、それが力や知性、大きな努力、権威などに結びついた購買力を伝えるのにおおいに役立つことから生じるのかもしれない。
こうした問題への対応策になるかもしれないやり方は、招待状によって友人に購入を勧めたり、レビューを共有したり、ゲストとしてアクセスを許可したりすることだ。こうした方法はいずれも買い手に対して、たとえ購入したものが物理的実体として展示されていなくても、購入したものを自慢する手段を提供するからだ。

心理的ニーズをどう見極めるか

デジタルと実物という問題ではもうひとつ、健康やデジタル漬けといった要素もある。
たとえば、ディスプレイを使用し続けると目が疲れるので、電子書籍に対してはいささか抵抗がある。人々が物理的な印刷物を好むのは、ただ単に一日中ディスプレイに向かって仕事をした後は切り替えを行って、違うかたちで世界とやりとりしたいと思うためでもある。
結局のところ、これまで概説した研究結果は、製品の価値は備えている機能だけで決まるわけではないことを示唆している。
価値とは、消費者が自分自身をどう見ているか、他者をどう見ているかといったことからも生じる。商品が、実際的なニーズや合理的ニーズに加えて、心理的ニーズに対応しているかも価値に影響するのだ。
すべての消費者に合う価値はないとはいえ、少なくとも、そうした認識や心理的ニーズの範囲内にある傾向をもっと良く見極めることができれば、収益にダメージを与える「実物とデジタルの価格差」を狭めていくことができるだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Wanda Thibodeaux/Copywriter, TakingDictation.com、翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、写真:Kikovic/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.