【佐藤航陽】経済システムが発展する「5つの条件」

2018/1/9
仮想通貨、ビットコイン、VALU、TimeBankなど、従来のお金の捉え方では対応できない「新しい経済=お金2.0」がまさに今、誕生している。
そんな経済やお金の新時代について言及された一冊がNewsPicks Bookの『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』(佐藤航陽著、幻冬舎刊)だ。
佐藤氏はいま何を考えているのか。そして「お金2.0」の本質とは。担当編集者・箕輪厚介氏(幻冬舎)との対談を全3回でお届けする。
本対談はNewsPicksアカデミア講義「佐藤航陽・個人は経済の主役となれるのか」の内容を再編集したものです。アカデミア会員の方は、こちらから動画を視聴できます。

「新しい経済」がきた2017年

箕輪 今年の夏くらいからVALUやタイムバンクといった既存経済とは違うルールで動くサービスがリリースされました。佐藤さんは、この流れは予想していましたか?
佐藤 兆候はあったと思います。2012、2013年ぐらいにスマホを見たときに、これで一番何が変わるかなと思ったときに、金融が変わるなと思いました。
箕輪 早いですね。
佐藤 ちょうど僕がアプリのマネタイズをやろうと思っていたのですが、この先って何かなと思ったら、やっぱり経済、お金のあり方が抜本的に変わるなと思いました。
そして2015年ぐらいでようやく、フィンテックっていう言葉が出て、経済と金融が変わるという話が世に出てきた。私としては、最近、騒がれているけど、何だろうっていう感じです。
箕輪 佐藤さんが運営しているタイムバンクというサービスを一言で説明すると、個人の時間を売り買いできるアプリですね。僕も専門家として上場し、時間を市場に出していますが、1秒150円くらいでやり取りされています。
時給でいうと50万円くらい。実際の給料から換算すると不思議な感覚がありますね。
佐藤 でも企業で考えると当たり前なんですよね。レバレッジを掛けるって言いますけど、企業では将来の価値を含めて評価になる。個人でも、その恩恵が受けられる時代になったということだと思います。
会社でも営業利益が数億円だけども、会社の価値全体では数百億円っていうのは、十分あり得る。そういう意味では、箕輪さんも将来の可能性まで今の価値に反映されているので、おかしくないと思いますよ。

お金は幻想。宗教に近い

佐藤 本来、人間の時間価値ってめちゃくちゃあったはずなのに、よく認識していないじゃないですか。ちょっと言い方は悪いですが、労働者の時間を安く買い叩いていたというのが資本主義の一面だと思います。
本来、価値というのは世の中の平均でいくらっていうのは意味がなくて、箕輪さんのことが大好きで、箕輪さんの時間がちょっとだけでも欲しいっていう人にとっては、いくらでもいいんですね。
本来の価値って、その人にとってどうであるかです。世の中でどうであるかなんて関係ない。
箕輪 タイムバンクでは投機目的で専門家の時間を買っている人も多いですよね。誰だか知らないけど、値段が上がりそうだから買っておこう、みたいな。
佐藤 そうです。でも実際の価値がなければ続かないですね。チューリップバブルのように。
結局、本当に価値を感じられれば感じられるほど安定しますし、逆に感じられなければ一瞬でゼロになっちゃう可能性もあります。
箕輪 なるほど。
佐藤 だから、通貨のアンカーと言われるんですけど、通貨の下に重しを付けて、その重しが安定していて、世の中的にみんなが理解できるものであればあるほど、経済が安定するという仕組みです。昔は通貨のアンカーにゴールドがありましたね。
ただ今のように、国の信用だけになると、世の中が不安定になれば、通貨も不安定になります。
箕輪 というと、お金というのは幻想に近いというか、みんなが信じれば信じるほど、価値が出てくるみたいなことなんですか。
佐藤 共同の幻想ですね。全員が幻想を抱いているから価値がある。逆に、お金がなくなる日っていうのは、全員がお金に価値がないと思った瞬間ですね。これは紙だと思った瞬間、紙なので。
例えば、アマゾンに住む民族に1万円渡しても彼らは喜ばない。頭の中にお金というのがある人にはありますし、ない人にはない。そういう意味では、宗教に近い。幻想ですね。

発展する経済システムの5条件

箕輪 佐藤さんの新刊『お金2.0』にはうまくいく経済システムの5条件が載っています。それがすごく面白くて実用的で衝撃を受けました。
佐藤 はい。SNSでも会社でも、人が3人以上いて生きるための活動をしていればそこには必ず経済システムがあり、それを回すための5つの普遍的特徴があります。
まずはインセンティブですね。報酬がちゃんと用意されているということ。「素晴らしいと思うけど積極的に参加する気にはなれない」という組織やサービスには、このインセンティブ設計が欠けています。
次にリアルタイム性。状況がちゃんと変わって、日々、人々が確認しないといけないとか。
箕輪 常に状況が動いている。
佐藤 動いていないといけない。人間は変化が激しい環境でこそ緊張感を保ちながら熱量高く活動することが出来ます。
3つ目は不確実性です。自分の実力だけではないし、運だけでもない。自分が完璧にコントロールできない要素があること。
箕輪 コントロールできちゃうとダメなんですね。
佐藤 予測ができると、興奮しなくなってくる。人間の脳が飽きてくるんですね。
箕輪 たしかに、確実にこうなると分かっていたら、頑張る気は起きないですね。
佐藤 4つ目がヒエラルキー。ヒエラルキーというのは、現代社会で言うと、偏差値とか、年収とか、肩書とか、いわゆる、序列です。そのコミュニティの中の序列があること。それによって自分が、他人と比べて、劣っているのか、優れているのか。はたまた、追い越したいのか、勝ちたいのかっていう欲望が起こる。
そして最後が、コミュニケーション。参加者同士が議論したり交流したりすることによって全体がひとつの共同体であることを認識できるようにすること。
箕輪 この5条件が必要だというのは、会社の経営とか、Webサービスとかでも同じですか?
佐藤 全部一緒です。Webサービスも、会社も、学校も。あとは、大学もそうですし、国家もそうですね。
箕輪 それがあると、組織として活発に、流動的になって発展していくんですね。
佐藤 そうです。個々が動き回る状態でないと、経済というのは活性化しないので。ちゃんと人々が動いていくという状況をいかに作るか。
私たちの身体で言うと、新陳代謝ですね。会社だって、ずっと同じ人が同じ役職に居座ったりとか、新しい人が入ってこないと活気が出ないじゃないですか。
箕輪 ヒエラルキーがないと競争も起きない。
佐藤 全員序列が一緒だっていうのは頑張る意味がちょっと分からない。
箕輪 確かに。その不確実性というのは会社で言うと何ですかね?
佐藤 自分で選び取ったんだけど、結果がうまく分からないというものですね。うまくいくかもしれないし、うまくいかないかもしれないし。しかも、自分の努力だけではどうにもできないっていう状況がある。
箕輪 なるほど。どうなるか分からないからこそワクワクする。
佐藤 そうですね。これは、脳みその実験なんですけど、予測できるものに対しては、人間のドーパミンとか快楽物質出てこないので。予測できないものがあったほうが快楽を感じる。
箕輪 受注できるかは、クライアントのお偉いさんの機嫌次第みたいな。
佐藤 そうですね。営業に行って、営業に行った客先が、もしかしたら、自分の商品を受注してくれるかもしれないし、してくれないかもしれない。分からない。絶対してくれるって言ったら、行く気なくなるし。
箕輪 たしかに。確実に受注できると分かっていたら、むしろ行く気も起きないかもしれない。誰か行ってよってなりますね。
佐藤 うまくいく経済システムにはこの5条件が必ずあって、それは自然界とも脳の仕組みとも共通なんですよね。あらゆる物事の真理です。
詳しくは本に書きましたが、そういう意味で言うとビットコインは、報酬設計を始めとしてこの5つを見事に押さえていて、自律的に発展していっています。
(写真:遠藤素子)