責任者不在、膨らむリスクへの懸念

フィンテック企業がプラットフォーム上で仮想通貨を使用することを禁じる──ビットコインをめぐる世界的なブームが投資家を惹きつけるなか、インドネシア銀行(中央銀行)が新たな規制に乗り出す。
2018年1月1日に施行される規制は仮想通貨の取引には適用されないと、インドネシア銀行のスグン副総裁は12月7日、首都ジャカルタで記者団に語った。仮想通貨の使用禁止はフィンテック企業を対象とする新たなルールの一環で、決済サービスプロバイダーは今後、中銀への登録も義務づけられるという。
「私たちの観察によれば、仮想通貨は極めて変動が激しい。基準が存在しないため、誰もその動きを保証できない」。インドネシア銀行フィンテック担当局責任者、イワン・ジュナント・ヘルディアワンはそう話す。
「誰かが監督し、責任を負うこともできない。だからこそリスクは高く、場合によっては広範なものになりかねない」
仮想通貨の利用は、インドネシアでは比較的限定的だ。とはいえ、商取引における使用を取り締まる動きは、数千億ドル規模に急成長した仮想通貨市場全体にとって新たな打撃になる。
インドネシアは東南アジア最大の経済国。中銀は新規制によって、同国で法定通貨として利用可能なのはインドネシアルピアだけだとの立場を強めた格好だ。
インドネシアの政策関係者が懸念するのは、仮想通貨がより幅広い金融システム、インフレ率や金融政策に与える影響だ。インドネシア銀行は、仮想通貨がテロの資金源、または麻薬密売組織の決済手段として使われる可能性も危惧している。
スリ・ムルヤニ・インドラワティ財務相によると、ビットコインをはじめとする仮想通貨の価格急騰はインドネシア国内の投資家の興味をそそっている。
こうした現状が「投機やバブルに化すことは望ましくない。そうなれば、損失につながる可能性がある」と、ムルヤニは12月7日に記者団に発言した。

仮想通貨を支持する声、異を唱える声

規制されていない仮想通貨がインフレ圧力の要因になるなど、経済への潜在的な影響についてもインドネシア銀行は憂慮している。ドディ・ブディ・ワルヨ総裁補佐は12月6日にそう話した。
「ビットコインの利用は規制されておらず、リスクをもたらすかもしれない。当行が流動性注入を迫られる可能性があり、市場と安定性に影響を及ぼす」
一方、仮想通貨取引所であるビットコインインドネシアはこれまでのところインドネシア銀行の新規制の影響を受けていないと、オスカー・ダルマワン最高経営責任者(CEO)はテキストメッセージを通じて語った。
「私たちはビットコイン企業というよりブロックチェーン企業であり、通常どおりに営業している」
ダルマワンによると、インドネシアの仮想通貨市場は比較的小さく、その規模は日本の市場の約1%程度にすぎない。ビットコインインドネシアの会員数はおよそ65万人だという。
今回の規制に対しては、異を唱える当局者もいる。インドネシア投資調整庁(BKPM)のトマス・レンボン長官は仮想通貨を「強く支持」しており、仮想通貨の台頭を「消費者や民間部門のイノベーターが自発的に作り出した、完全に自由市場的な解決策」と見なしている。
インドネシア銀行によるフィンテック企業規制の要点

・決済システム、マーケットサポート、投資マネジメントまたはリスクマネジメント、ソーシャルレンディング、融資およびその他の金融サービスの事業者を含めてフィンテック企業と定義

・フィンテック企業に金融政策の安定性をモニター・保護するツールの確保を求めると同時に、イノベーション促進のための制御環境を承認

・新規のフィンテック製品は、銀行が規制を一時的に停止する「レギュラトリー・サンドボックス(規制の砂場)」を適用して試験を実施した上で許可
原文はこちら(英語)。
(執筆:Karlis Salna記者、Tassia Sipahutar記者、翻訳:服部真琴、写真:PRImageFactory/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.